「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (159) 日本初のブラインドサッカー版オールスターゲーム。 エンターテインメントとしてのパラスポーツの可能性に挑戦
2020年東京パラリンピックの開催決定以降の3年間で、日本におけるパラスポーツへの注目度は格段にアップし、認知度も高まっています。さらに、14年ソチ冬季大会や16年リオデジャネイロ夏季大会のパラリンピックなどで競技レベルの高さも示され、パラスポーツはリハビリの一環から競技スポーツへとイメージも変化しつつあります。そして今、エンターテインメントとしてパラスポーツの可能性をも感じさせるイベントも開かれるようになってきました。
その一つが、11月5日に東京で開催された、「ブラインドサッカー ドリームマッチ2016」です。前号 でも少しお伝えしましたが、“ブラインドサッカーのオールスター戦”で、全国のクラブチームから選抜された選手がEastとWestの2チームに分かれ対戦するというイベントでした。主催した日本ブラインドサッカー協会(JBFA)によれば、“オールスター戦”は日本初の試みでした。
ブラインドサッカー版“オールスター戦”「ドリームマッチ2016」が初開催。勝利したEastチームの先制点を挙げた、神谷考柄(かみや・こうへい)選手(白9番)
Jリーグやプロ野球では、オールスター戦はすでに定着したイベントでしょう。でも、パラスポーツではとても珍しく、今回のイベントは斬新な試みだったと思います。まず、ブラインドサッカーに限らず、日本のパラスポーツにプロリーグはなく、競技人口も限られているので地域で活動するクラブチーム数も少なく、年間を通じて全国的にリーグ戦を行っている競技も少ない。だから、「観客を魅せる」という意識も、まだ低いのが現状です。
JBFAとしても20年東京大会の追い風を20年以降にもつなげていかねばと、初のオールスター戦開催に挑戦したそうです。そして、ブラインドサッカー(以下、ブラサカ)の「エンターテインメントとしての可能性」を示すそうと、試合や演出の中に「ブラサカを魅せる」ための仕掛けをいろいろ盛り込んでいました。
例えば、試合前に行われたドリブルやロングシュートコンテスト。Jリーガーとは違い、「見えない状態」のブラサカ選手にとっては、ドリブルやシュートも簡単ではありません。ボールが足から離れると、文字通り“見失って”しまうので、ブラサカのドリブルは一般的に両足の間にボールを保つようにする独特なものです。シュートも大きな助走はとりにくいので、ロングシュートはあまり見られないのですが、今回のイベントでは10m、15mとゴールからかなり離れた位置からのシュートに挑むというものでした。参加した選手からは、「初めて蹴る距離」といった声も聞かれましたが、ゴール裏に立ったガイドの声を頼りに、ゴールマウスに向かって正確なシュートを繰り出す選手の妙技に、見守った観衆からはどよめきと拍手が沸き起こっていました。
なるほどと思ったのは、開会式では予め配布したアイマスクを、来場者全員に着用してもらい、「暗闇の中で音声に集中する」というアクティビティを設けていた点です。ブラサカ用のボールは特殊な鈴が内蔵されていて、転がると「シャカシャカ」という音が鳴るのですが、それほど大きな音ではありません。アイマスクを着けた観客はきっと、「こんな微かな音で選手はボールの位置を聞き分け、プレイしているのか」と驚いたのではないでしょうか。ほんの短い時間でしたが、ブラサカ選手がプレイする感覚を体験でき、改めて選手の凄さや競技の難しさを知る機会になったのではと思います。
コートサイドで観戦していたサッカー少年たちも、アイマスクを着けてブラインド体験
試合中も、通常とは異なる仕掛けが見られました。ブラサカの試合は選手の「聴力」を妨げないよう静寂の中で行われますが、今回はルールやプレイを解説したり、選手の特徴などを紹介する場内アナウンスが行われていました。す。大音量のアナウンスは選手のプレイには少し影響するかもしれませんが、一般のサッカーやフットサルとも違う独特のルールや選手の魅力を知ってもらうには必要なことでしょう。
また、チアリーダーによる賑やかなハーフタイムショーの他、タイムアウトの時間を本来の60秒から90秒に延長する“特別ルール”も採用され、その都度チアリーダーがコート上で盛り上げるといったアクセントもありました。
チアリーダーに迎えられ、スタメンが入場。チアリーダーは、プロバスケットボールのBリーグ所属チーム、東京サンレーブスが協力
もう一つ、JBFAがこだわったのは、「選手の名前を覚えてもらうこと」だったそうです。名前を覚えることで選手の印象はより深まる。そして、所属チームのファンにもなり、地域リーグにも応援に来てほしい。そんな狙いもあったようです。そこで、大会パンフレットには出場選手のプロフィールが詳しく書かれていたり、選手入場の際も選手一人ずつエスコートキッズにガイドされながら大きく手を振って入場したり、試合中もナイスプレイやシュートの際に選手の横顔が伝わるようなMCが入ったりしていました。
そんななか行われた記念すべき第1回オールスターゲームは、サッカー少年ら約600人の観衆が見守るなか、Eastチームが3対0でWestチームを下し、初優勝を果たしました。MIPには日本代表でもあり、今大会も闘志あふれるプレイを見せてくれたWestの落合啓士(おちあい・ひろし)選手が、MVPには今大会唯一の女子選手で、Eastの3得点中2点を挙げた菊島宇宙(きくしま・そら)選手が選ばれました。菊島選手は、観客の投票によるMVPにも最多173票を集めて選出されました。スピード感あふれる鮮やかなドリブルシュートが観客の心をとらえたのでしょう。
ロングシュートコンテストで優勝した菊島宙選手の豪快なシュート。試合でも得意のドリブルシュートを2本決め、Eastの勝利に貢献し、MVPにも選出された。「今よりもっとうまくなって、来年も(オールスター戦で)プレイしたいです」
一方、初の試みということで、課題もみられました。例えば、音が頼りのブラサカは選手同士の声によるコミュニケーションがプレイの重要な要素です。息のあった連携プレイや守備陣形などは互いに声を掛け合い、練習を繰り返すことによって磨いていくことで出来上がっていくものです。見えない分、仲間の声を聞き分けることも必要だし、信頼感も大切です。
でも、オールスター戦は選抜選手による急ごしらえのチームで行うので、連携プレイなどは難しい面があります。また、通常とは異なるポジションでプレイしなくてはならないこともあり、味方同士で衝突してしまうなど苦労した部分はあったようです。とはいっても、チームから選抜され、個人技もある選手たちなので、短時間の中でできる限り息を合わせ、持てる力を発揮。「おお~」と歓声が上がるプレイも随所に見られたこともお伝えしておきます。
また、今回は第1回ということで選手選考は各チームから推薦された選手たちの中から運営委員が選抜したそうですが、将来的にはJリーグのサポーター投票のようにファンによる投票での選抜も視野に入れているそうです。そのためには各チームのサポーターを増やさねばならず、地域リーグの活性化も必要だと思いますが、未来のオールスター戦で各チームユニフォームに身を包んだサポーターによる応援合戦が見られるかも、なんて想像すると、ワクワクします。
ともかく、パラスポーツでは画期的な「魅せる試合」に挑んだ、ブラサカのオールスターゲーム。パラスポーツの存在感を広めていくためにも大事なチャレンジだと思います。JBFAでは来年以降も続けていく意向だそうです。今大会で見えた手応えや課題を活かし、さらなる発展に期待したいです。
(文・写真: 星野恭子)