「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(526) 「東京2025デフリンピック」開幕まで1年! 小中高生が選んだメダルデザインや新しい応援の形「サインエール」もお披露目!
国際ろう者スポーツ委員会(ICSD)が主催し、聞こえない「ろう者」や聞こえにくい「難聴者」のための国際スポーツ大会、デフリンピック夏季大会が来年11月15日から26日まで東京で開催されます。日本での開催は初となる、この「東京2025デフリンピック」は、1924年にフランスで第1回大会が開かれて以来、ちょうど100周年という記念大会でもあります。世界70から80カ国から約3,000人のトップデフアスリートが日本に集結し、陸上競技や水泳、サッカーなど全21競技で金メダルを目指して熱戦を展開する予定です。
現在、全日本ろうあ連盟と東京都が連携し、大会準備・運営が進められていますが、開幕1年を切った今でも、デフリンピックはオリンピックやパラリンピックに比べると、認知度はまだ低いのが現状です。当コラムでは今号と次号にわたり、「東京2025デフリンピック」に注目し、今号では開幕1年前イベント「東京2025デフリンピック 1 Year To Go!」を中心に、次号では大会概要や準備状況などについてご紹介します。
大会開幕までちょうど1年前となった11月15日から16日にかけて、東京のアーバンドックららぽーと豊洲で、開幕1年前イベントとして「東京2025デフリンピック 1 Year To Go!」が行われました。イベント冒頭のセレモニーには、応援アンバサダーを務める俳優の長濱ねるさんや日本財団職員でろう者の川俣郁美さん、北京オリンピック陸上銀メダリストの朝原宣治さん、スポーツ庁の室伏広治長官、さらに日本代表として大会出場を目指すデフアスリートの茨隆太郎選手(水泳)、岡田海緒選手(陸上)、亀澤理穂選手(卓球)、山田真樹選手(陸上)らが登壇し、大会をPRしました。
11月15日に東京のアーバンドックららぽーと豊洲で、開幕1年前イベントとして「東京2025デフリンピック 1 Year To Go!」のセレモニーの様子 (提供: 東京2025デフリンピック)
セレモニーでは選手に贈られるメダルデザインも発表されました。全国の小・中・高校生約8万人の投票によって選ばれたデザインは、「みんなで羽ばたく」をコンセプトに、表には折り鶴のモチーフが描かれ、裏にはいくつもの線が混じり合うデザインで、世界の人々とのつながりを表現しています。また、リボンには日本伝統の「藍鉄色」が使われています。
過去4大会に連続出場し、メダル8個を獲得している卓球の亀澤選手は、「日本らしいデザインで、すごく綺麗なメダルですね。私たち選手もたくさんのメダルを取れるように頑張ります」と笑顔を見せ、2017年サムスン大会で陸上200mと4x100mリレーで金メダルを獲得している山田選手は、「全国の子どもたちが選んだというのも日本らしいやり方で素晴らしい。国民とのつながりも感じるメダルなので、獲得できれば、生涯忘れることのできないメダルになります」とメダルへの思いを話しました。
お披露目された、「東京2025デフリンピック」のメダルデザイン (提供: 東京2025デフリンピック)
また、音声での応援が届きにくいデフアスリートを応援するために、「目で見える形の応援」として、手話の拍手やオリジナルのジェスチャーを合わせた新しい応援スタイル、「サインエール」もお披露目されました。
この「サインエール」について、水泳で過去4大会に連続出場し、前回大会では金メダル4個を獲得している茨選手は、「これまで見たことのない新しい形の応援をぜひ会場で見たいです。水泳は東京アクアティクスセンター(江東区)が会場です。ぜひ、応援に来てください」と話し、亀澤選手も「聞こえる人も聞こえない人もみんなで一緒に応援できることが良いですね。ぜひ私達と一緒に戦っていただけると嬉しいです」とPRしました。
手話やジェスチャーを合わせ、応援を見える形にデザインした、「サインエール」もお披露目された (提供: 東京2025デフリンピック)
なお、デフリンピックの競技ルールは一般の競技ルールとほぼ同じですが、競技中は補聴器などの使用は禁止されているため、聞こえない・聞こえにくいアスリートが競技しやすいようなアレンジが加えられています。
例えば、陸上競技や水泳ではスタートのピストル音の代わりに、光で合図する「スタートランプ」が使われたり、サッカーやバレーボールなどでは審判はホイッスル(笛)に加え、手旗も使うなど、視覚的に補っています。
選手たちもそれぞれの競技特性に合わせて、いろいろな工夫も重ね、競技をしています。例えば、陸上中長距離の岡田選手は、「足音が聞こえないので、前にいる選手の動きや脚のピッチで調子を図ったり、後ろの選手は影で存在を確認したり、競技場のスクリーンに映し出される動画を見て、駆け引きの手がかりにしています」と言います。
山田選手は、「リレーのバトン渡しでは、掛け声は聞こえないので、お互いに勘で 1発でバトンが渡せるように練習を繰り返し、選手同士の信頼関係を深めています」と苦労を語るとともに、「その辺りも魅力なので、ぜひ見てください」と笑顔で語りました。
「東京2025デフリンピック」を目指すデフアスリートたち。左から、茨隆太郎選手(水泳)、岡田海緒選手(陸上)、山田真樹選手(陸上)、亀澤理穂選手(卓球) (提供: 東京2025デフリンピック)
また、この日から、「大会ボランティア」の募集もスタートしました。募集人数は3,000人で、来年1月31日まで、大会サイトで受け付けています。
陸上女子中距離走3種目の日本デフ記録保持者で、デフリンピアンの岡田選手は、「アスリートにとって、ボランティアの存在はとても大きいです。試合会場でいろいろサポートしていただいたり、試合後に『お疲れ様』と声をかけてくださるとすごく嬉しいです。ぜひ、一緒にデフリンピックを盛り上げてください。よろしくお願いします」と呼びかけました。
▼東京2025デフリンピック ボランティア
https://deaflympics2025-games.jp/main-info/volunteer/
応援アンバサダーに就任して1年がたった長濱さんは、「私も1年間活動させていただきまして、デフスポーツって、知れば知るほど面白いんです。陸上競技だったら光をスタート合図にしていたり、ろう者の方の生活を知ることもでき、皆さんが知らない魅力がたくさん、まだまだあると思います。1年後に間近で見る機会が得られるというのはとっても貴重だと思いますし、ぜひその機会を私たちと一緒に盛り上げていただけたら嬉しいです」と呼びかけました。
ろう者でもある川俣さんは、「障害について、おそらく皆さんはかわいそう、大変と思うかもしれませんが、そうではないということをデフリンピックを通して発信していきたいです。障害のあるなしに関わらず、その人にしかできないこと、その人だけの人生や豊かな人生があります。デフアスリートを始め、いろいろな方が活躍している姿を見て、子供たちや多くの人に夢を与えられるような大会になってほしいと祈っています」と思いを語りました。
朝原さんはアスリートの立場から、「競技者にとって、地元の声援を直接受けられることはすごいパワーになります。一緒に盛り上げていきましょう」と、呼びかけました。
次号でも、「東京2025デフリンピック」についてご紹介します。
▼東京2025デフリンピック情報サイト
https://deaflympics2025-games.jp/
(文:星野恭子)