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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(527) 来年11月に開催。「東京2025デフリンピック」は、こんな大会!

来年11月15日から26日までの12日間にわたって、聴覚障害者の国際スポーツ大会「デフリンピック」が東京で開催されます。日本での開催は初めてで、世界70~80の国・地域から約3,000人のトップデフアスリートたちが集結。21競技で熱戦を展開する予定です。開幕まで1年を切り、主催する全日本ろうあ連盟と東京都が準備を進めていますが、認知度はまだ低いのが現状です。今号では、この「東京2025デフリンピック」について、概要や現在の準備状況などをご紹介します。

デフリンピックは1924年にフランスのパリで第1回が開かれ、来年の東京2025大会は100周年記念大会となります。パラリンピックやスペシャルオリンピックスなどと並び、国際オリンピック委員会(IOC)の公認大会です。

■競技について

東京2025大会の実施競技は21競技で、陸上競技やバレーボールなどは駒沢オリンピック公園総合運動場(世田谷区・目黒区)、水泳は東京アクアティクスセンター(江東区)、バスケットボールは大田区立体育館など東京都内の既存施設を中心に、サッカーは福島県のJヴィレッジで、自転車は静岡県の日本サイクルスポーツセンターなど、1都2県17会場で開催されます。オリンピック競技ではない、ボウリング(東大和グラウンドボウル/東大和市)やオリエンテーリング(日比谷公園/千代田区、伊豆大島)などが実施されるのも特徴でしょう。

なお、選手の参加条件として、補聴器などを外した状態で聴力損失の程度が55デシベル(db)を超える選手が対象となります。dbとは音の大きさを表す単位で、数字が大きくなるほど大きな音を表し、例えば、100dbは地下鉄構内や電車のガード下の音だそうです。55dbは静かな室内での会話程度だと言い、その音声よりも大きな音が聞こえない、聞こえにくいという聴覚障害のある選手が対象となります。聴覚以外の運動機能には問題がないということで、各競技のルールはオリンピックなど一般のルールとほぼ同じです。

ただし、デフリンピックの大会会場内では補聴器などの使用は認められておらず、選手はそれぞれの聞こえ方の中で競い合うことになります。そのため、競技に支障がないような工夫やルールのアレンジが必要です。

例えば、デフ陸上競技ではスタートのピストル音の代わりに、光を使って視覚的にスタートのタイミングを伝える「スタートランプ」という装置が使われます。また、サッカーでは反則などを審判が笛を吹いて合図しますが、デフサッカーではさらに手旗も振って視覚的に伝えます。

選手たちも音声に頼らないコミュニケーション方法を工夫し、選手同士の意思疎通を図って競技を行っています。手話言語やアイコンタクトのほか、オリジナルのハンドサインなどを活用しているそうです。球技では打球音などもプレイする上で重要な要素ですが、できる限り目で追うなど音声以外のさまざまな感覚を活用してプレイしています。

このように、東京2025デフリンピックでは「情報伝達やコミュニケーションのバリアフリー化」も重要なテーマとなっています。デフリンピック開催を聞こえない人(ろう者)や聞こえにくい人(難聴者)を理解し、手話など独自のコミュニケーション方法や文化なども知ることで共生社会の実現のきっかけにしたいとしています。

主催する東京都では大会のテーマとして、「いつでも、どこでも、誰とでも繋がる町、東京へ」も掲げています。聴覚障害だけでなく、国籍や言語に関わらずスムーズなコミュニケーションを実現するためにデジタル技術を活用した、「ユニバーサルコミュニケーションを社会に浸透させること」も目指しています。

例えば、すでに実用化されている技術として、「透明ディスプレイ」があります。会話の内容をリアルタイムに文字に変換して、ディスプレイに映し出す装置です。例えば、一方から英語で話しかけると、その文章が英文で映し出され、ほぼ同時に反対側の画面に日本語で翻訳された文章が映し出されます。また、発声が難しい聴覚障害者の場合もキーボードで入力した文字が映し出されるので、文字で会話ができます。現在は32カ国語の翻訳に対応しており、すでに東京都庁舎の総合案内をはじめ、デフリンピック競技会場となる東京体育館といったスポーツ施設や都立中央図書館など都所有の施設にも設置が始まっています。

もう一つ、「音が見える、音を感じる競技会場の実現」も目指し、競技音や声援を可視化する、「ミルオト」という新技術も導入予定です。例えば、卓球台に設置したセンサーから取得した音声情報とカメラで撮影した映像情報を組み合わせ、競技中に発生するボールやシューズの音、歓声などを「オノマトペ」でスクリーンやスマホなどの画面に表示します。聞こえない、聞こえにくくても、「音を見て」競技の魅力を感じられるようにする取り組みです。

来年春には東京メトロでも、「アナウンスの見える化」が進められるようで、東京都は「さまざまな事業者と協力しながら、デジタルコミュニケーション技術の普及を図っていきたい。聴覚障害者だけでなく、耳の遠い高齢者の利便性向上にもつながる」と話しています。

■運営について

東京都ではまた、昨今の国際スポーツ大会に対する批判的な意見も踏まえ、“地に足のついた大会運営”を目指すとしています。既存の施設を会場とすることはもちろん、例えば、スポンサーへの営業回りも外注せず都の職員が直接出向くなど、できるだけ費用をかけない運営を基本としているそうです。

実際、昨年12月に公表されている予算総額は130億円となっており、企業協賛や寄付、助成金、そして、東京都の予算などで賄われる予定だそうです。協賛企業は2024年11月13日現在で、全14社となっています。なお、観戦チケットの販売や金額などは現在、検討中とのことで、後日発表される見込みです。

大会規模や選手村、会場整備など運営内容が大きく異なるので、一概に比較はできませんが、ちなみに東京2020オリンピック・パラリンピックでは大会経費は約1兆4,000億円(うちパラリンピックは約1,500億円)と発表されています。

▼(参考) 東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会 東京都ポータルサイト
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/special/watching/tokyo2020/organising-committee/budgets/

オリンピック・パラリンピックでは、出場選手たちの宿泊施設「選手村」がつくられますが、デフリンピックでは「選手村」はつくられず、各国の選手団がそれぞれ宿泊施設を手配し、滞在期間中の食費なども基本的には各国の負担となるそうです。

一方で、東京2025大会では独自に、大会の象徴的な施設として「デフリンピックスクエア」を設置するそうです。場所は国立オリンピック記念青少年総合センター(東京・渋谷区)で、既存の宿泊棟を選手ホテルの一部として活用する他、大会運営本部やメディアセンター、選手のウォームアップエリアなどが設置されます。

なかでも、東京2025大会の特徴的な取り組みとして、アスリートや観客が交流できるエリア「イベント会場」が置かれます。大会に関するさまざまな情報や大会会場で使われるデジタル技術装置の展示コーナーなども設置され、観客は自由に見学したり、体験できるそうです。こちらも注目です。

開幕まであと1年を切った東京2025デフリンピック。今後も開幕に向けて、大会機運醸成のイベントや日本代表予選大会などが続々と開かれる予定です。せっかくの機会なので、ぜひ積極的に参加して、応援をお願いします!

▼東京2025デフリンピック ポータルサイト
https://www.deaflympics2025.com/

(文・:星野恭子)