「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(391) 「魅せる」工夫で、知って親しまれるパラスポーツへ!
昨夏の東京パラリンピック開催もあり、パラスポーツへの関心や注目が高まっています。この勢いをさらに加速し、定着させようという動きも活発化しています。今号では3つの競技の取り組みをご紹介します。
■学生とのコラボで、ウィンウィンの大会運営
当コラム388号(https://op-ed.jp/sports/5823)でも、1月29日に開催された第21回全日本パラ・パワーリフティング選手権についてお伝えしましたが、主催する日本パラ・パワーリフティング連盟では競技をより魅力的に分かりやすく伝えることを目的に4年前から、日本工学院八王子専門学校の協力を得て、大会の運営を行っています。
同校はアートや音楽などのクリエイターやスポーツ関連のスペシャリストなどを養成する学校で、学生はそれぞれの専門性や得意を生かすかたちで大会運営を支えています。
たとえば、同大会のキービジュアルはグラフィックデザイン科を対象にコンペが行われ、選ばれた周正さんの作品をもとに、大会ポスターが制作されました。また、大会テーマ曲にはミュージックアーティスト科の伊東むさしさんの『POWER』と山本晃広さんの『MATCHO』が選ばれ、大会を盛り上げました。
日本工学院八王子専門学校の周正さんがデザインしたキービジュアルが印象的な、第21回全日本パラ・パワーリフティング選手権のポスター (提供:日本パラ・パワーリフティング連盟)
また、ベンチプレス台の横に置かれ、試技の成否と、失敗の場合はその理由を視覚的に分かりやすく表現した「判定ランプ」も、機械設計科と電子・電気科の学生さんが制作。実は前回、第20回大会で初登場し、今大会はよりパワーアップした新装丁版がお披露目されました。たとえば、成功を示す白ランプ点灯後、ランプが点滅するライトパフォーマンス機能が追加されました。まるで、成功の喜びや祝福を表現しているかのようです。
スポーツ学科の学生は選手の試技を直接的に支えています。たとえば、試技台の横に立ち、安全管理やバーベルの重りを付け替えるなどを担うスポッターローダーやアップ場のスタッフとして活躍しています。サポート方法を学ぶために、大会前の練習会にも参加して準備しているそうです
試技の成功が決まり、ガッツポーズする男子49㎏級の三浦浩選手(右)。左横の女性がスポッターローダーで、その背後が判定ランプ。審判3人のうち1人が赤ランプ(失敗)と青(失敗理由=胸上で動いたなど)を付けたが、他2人が白ランプ(中央と下)を付けたため、試技は「成功」 (撮影:星野恭子)
同連盟の吉田進強化委員長兼ヘッドコーチは大会を総括するなかで、この学生とのコラボレーションの成果について、「連盟にとってのプラスはもちろん、学生にとっても、社会に出る前に自分の作品が発信できる機会になっている」とし、「コラボが他の競技団体の見本にもなれば嬉しい」と話しました。
もう一つ、同連盟では数年前から、ベンチ台上で競技が行われるパラ・パワーリフティングの特性もいかし、大会を開く会場にも工夫を凝らしています。たとえば、劇場のステージを使い、ライティングなども工夫して観戦しやすく演出したり、無観客開催だった前回大会はインターネット中継も意識した狭い空間でプロジェクションマッピングなどを駆使して、魅せてくれました。
今大会の会場には、東京・江東区の東京港に建つ東京国際クルーズターミナルの多目的エリアが使われました。もともとクルーズ船の乗降客の利用がないときはイベント利用などにスペースを貸しており、「たまたま紹介されたのでチャレンジしたが、海も見えて開放感があってよかった。(インターネットで)見た人にも興味をもってもらえれば」と吉田ヘッドコーチ。選手からも、「明るく広々してよかった」「競技しやすい」などと好評でした。
1月29日に第21回全日本パラ・パワーリフティング選手権が開かれた東京国際クルーズターミナルの外観。海の上に建ち、景観も楽しめる(撮影:星野恭子)
自由な発想やチャレンジ精神で、「魅せる」工夫満載のパラ・パワーリフティング大会。ぜひ一度、ご観戦ください!
■ゴールボール日本代表の愛称、「オリオンJAPAN」に決定!
日本ゴールボール協会は1月29日、ゴールボール男女日本代表チームの愛称を、星座のオリオン座に由来した「オリオンJAPAN」に決定したと発表しました。ジェンダーフリーの観点から、男子チームと女子チーム共通の愛称となります。
同協会では代表チームが世代や性別、国境や障害の有無などを超えて広く愛されるようにと昨年8月から10月の約2カ月間、愛称の一般公募を行っていました。集まった1,395通の中から選定委員が絞り込み、最後は日本代表候補選手たちへのヒアリングを行い、全員の支持を集めたのが、「オリオンJAPAN」だったそうです。
オリオン座は夜空でも見つけやすい星座の一つで、横一線に並ぶ特徴的な「3つ星(オリオンベルト)」と、囲むように並ぶ明るい4つの星で構成されています。これが、コート上の3人の選手たちの姿を連想させ、また周囲の控え選手や監督らスタッフ、さらには家族やファンなどさまざまな人々とつながり、支えられながら活動するゴールボール日本代表をよく表現しているとして選出されました。
3人対3人で対戦するゴールボール。鈴入りのボールの音や仲間の声、ベンチのコーチや控え選手など、さまざまな協力も得ながらプレーする(撮影:星野恭子)
なお、「オリオンJAPAN」考案者の岩城則子さん(三重県津市)と、「オリオン」を含む愛称を応募した益田耕一さん(東京都小金井市)の2名に最優秀賞としてトロフィーと賞状、副賞が贈られます。
ゴールボール日本代表は昨夏の東京パラリンピックでは女子が銅メダル、男子は5位入賞を果たしました。次の2024年パリ大会では「オリオンJAPAN」として2つの金メダル獲得を目指します。ぜひ、応援ください! (*「オリオンJAPAN」は1月28日、商標登録申請中)
■ブラインドサッカー、民放ラジオで初の実況生中継が実現。広がった、「聴く」楽しみ
1月22日に開催されたブラインドサッカーの日本選手権は、free bird mejirodaiの歓喜の初優勝で幕を閉じましたが、もう一つ「初めて」がありました。民放ラジオでの実況生中継です。
TBSラジオの毎週土曜13時から放送の「週末ノオト」番組内で、14時のキックオフから30分間、決勝戦の一部が生中継されたのですが、これがとても聴きやすく、試合展開も分かりやすい放送だったのです。
この中継企画が決まってからTBSラジオでは、視覚障がいの有無に関わらず誰もが競技観戦を楽しめるように言葉だけで競技の魅力をどう伝えるか検討を重ねたそうです。そして、生まれたのが、「アナウンサー3人体制中継」という特別版でした。
ブラインドサッカーはボールの激しい奪い合いが見どころのひとつで、ボール保持チームも目まぐるしく変わります。そこで、喜入友浩アナウンサーがfree bird mejirodaiを、佐々木舞音アナウンサーが相手チームのbuen cambio yokohamaをと担当チームを分け、それぞれのチームが攻撃中に実況。さらに、土井敏之アナウンサーが試合中断のタイミングで、ルール説明や解説者の元フットサル日本代表、北原亘さんにプレイ内容の解説を求めるといった役割を担うという工夫が施されていたのです。
民放ラジオ初の実況生中継が行われた「第19回アクサ ブレイブカップ ブラインドサッカーブラインドサッカー選手権」のfree bird mejirodai(水色)対buen cambio yokohamの決勝戦のより (撮影:星野恭子)
チーム実況を担ったのが男女アナウンサーで明らかに声が違い、攻撃チームが変わると声が変わるので、「今、どっちが攻めてるの?」という疑問を持つことなく、展開の早いブラインドサッカーの試合を耳だけで追うことができました。
さらに、詳しいルールやプレイ解説も適度なタイミングで入り、映像がなくても「試合観戦」をしっかり楽しむことができました。この新しいアナウンススタイル、人員体制など課題もあるかと思いますが、今後の可能性を感じるとても画期的な工夫だと感じました。
(文:星野恭子)