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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(522) パリ2024からロサンゼルス2028へ。パラ柔道が新ルールで始動

パラリンピック競技のパラ柔道は視覚障害者を対象としており、「互いに組んでから試合を始める」ことが大きな特徴です。パリ2024大会には日本から6選手(男子2、女子4)が出場し、計4個(金2、銀1、銅1)のメダルを獲得。東京2020大会の銅メダル2個からの躍進でした。選手たちは10月27日、東京・文京区の講道館で開催された「第39回全日本視覚障害者柔道大会」の中で、特別表彰されました。

パラ柔道は東京大会からパリ大会に向け、大きなルール変更がありました。まず、体重階級ごとにJ1(全盲)とJ2(弱視)のクラス分けが導入され、より公平な競技となりました。しかし、クラス分けが増えた分、メダルの個数を東京大会並みに維持するため、体重階級が男子は7階級から4階級へ、女子は6階級から4階級へと減少となり、多くの選手たちは3年間という短期間で減量、あるいは増量と肉体改造に取り組むとともに、ライバルの動向による勢力図の変化にも対応しなければなりませんでした。

特別表彰を受けたパリ2024パラ柔道日本代表選手たち。左から、瀬戸勇次郎選手、廣瀬順子選手、半谷静香選手、小川和紗選手、土屋美奈子選手、加藤裕司選手

日本男子としては12年ぶりとなる金メダルを獲得した男子73㎏級J2の瀬戸勇次郎選手(九星飲料工業)は初出場だった東京大会では66㎏級で銅メダルを獲得しましたが、同階級が消滅。73㎏級に上げてパリ大会に挑み、急ピッチで仕上げた結果の栄冠に、「なかなか勝てない時期もあり、すごく苦しい思いをしてきましたが、最後に自分が望んだ金メダルに届き、本当に良かった」と穏やかな表情で語りました。

日本女子として初となる金メダルに輝いた女子57㎏級J2の廣瀬順子選手(SMBC日興証券)はリオ大会で日本女子初のメダルとなる銅メダルを獲得しています。「パリ大会には東京大会でメダルが取れなかった悔しさを胸に出場しました。自分なりに悔いのない柔道をして金メダルを獲ることができて良かった。自分の目標を達成したことはもちろんですが、支えてくださった皆さんが金メダルを見たり、触ったりして喜んでくださる姿が本当に嬉しいです」と笑顔で話しました。

パリ大会初日に日本女子初の決勝進出を果たし、銀メダルを獲得した同48㎏級J1で銀メダルの半谷静香選手(トヨタループス)は、「柔道を始めて23年、視覚障害者柔道を始めて17年。 4回目のパラリンピックでようやくメダルを獲得することができました。長きにわたる皆さんの応援やサポートがあり、挑戦する機会をいただけたおかげです」と感謝しました。

日本女子初の2大会連続メダルとなり、銅メダルを獲得した同70㎏級J2の小川和紗選手(伊藤忠丸紅鉄鋼)は、「目標としていた金メダルは取れませんでしたが、過去1番楽しく充実した試合をすることができました。もう一度、ロサンゼルス大会を目指したい」とさらなる目標を語りました。

男子70㎏級J1の加藤裕司選手(伊藤忠丸紅鉄鋼)と、女子70㎏級J1の土屋美奈子選手(シンプレクス・ホールディングス)はともに9位という結果でしたが、多くの応援とサポートに謝意を表しました。

■体重階級、ロスで再び変更へ

実は、パリ大会後、体重階級が再び変更されました。男女各4階級は変わらずですが、男子は60㎏級、73㎏級、90㎏級、90㎏超級から、70㎏級、81㎏級、95㎏級、95㎏超級へ、女子は48㎏級、57㎏級、70㎏級、70㎏超級から、52㎏級、60㎏級、70㎏級、70㎏超級となります。選手によってはもう一度、体づくりから取り組む必要があり、大きなチャレンジとなります。

例えば、瀬戸選手は70㎏級に変更する可能性が高いですが、ロス挑戦については「どうなんでしょう」と明言を避けました。来年4月からは大学院を修了し、目指していた地元福岡県で高校の保健体育の教員となることが決まっており、「柔道にどれだけ時間を割けるか優先順位の問題と、どれぐらい自分に対して寛容になれるか」と瀬戸選手。金メダルまでの道のりは、「いろいろなものを削って削ってほとんどの時間を柔道に使ってきたので、それよりも緩い(練習)状態で試合に勝つことを目指す自分を許せるかどうか」と揺れる胸の内を明かしました。それだけ強い覚悟で柔道と向き合ってきたからこその葛藤でしょう。

日本男子12年ぶりのパラリンピック金メダルを獲得した瀬戸勇次郎選手

48㎏級が消滅し、52㎏級へ上げることになる半谷選手は、男女とも軽量級が消滅することに対しては、「アジア圏の選手の活躍の舞台が減ってしまうようなイメージもある」が、「自分の52㎏級は妥当かな」と受け入れ、まずは2年後の愛知・名古屋アジアパラ競技大会を目標に稽古をつづけ、「その段階でまだ行けそうならロサンゼルスを目指すという形で考えている」と今後のプランを語りました。

日本視覚障害者柔道連盟の若林清事務局長は、体重階級の変更について、「軽量級の選手たちにとっては大きな変化だが、世界中の選手が同じ条件でロサンゼルス大会向けて調整することになる。当連盟としても今後、ロスに向けての新たな強化体制が整っていく予定であり、選手たちの階級変更や強化に対し、全力でサポートを続けていきたい」と力を込めました。

なお、若林事務局長によれば、減少する軽量級への対応として女子は46㎏級、男子は64㎏級をオープン種目として設置することが検討されているそうです。パラリンピック種目ではありませんが、一部の国際大会や国内大会で軽量級の選手たちの受け皿となることが期待されています。

この日に開催された「全日本選手権」では早くも新階級制が導入されました。ただし、パラリンピックのようなJ1、J2には分かれず、それぞれ混合で行われました。パリ大会メダリストたちは休養や調整遅れなどで欠場でしたが、ロサンゼルス大会を目指す若手選手からベテラン勢まで幅広い選手が出場しました。

男子70㎏級決勝で一本勝ちによる優勝を果たした櫻井徹也選手(上)

男子最軽量級となった70㎏級決勝は櫻井徹也選手(日本オラクル)がパラリンピック3連覇(66㎏級)のレジェンド、藤本聰選手(徳島視覚支援学校)を崩れ上四方固めで抑え込み、一本勝ちで優勝。同81㎏級決勝はゴールデンスコア形式の延長戦にもつれる激闘となりましたが、東京大会81㎏級代表の北薗新光選手(三菱オートリース)がパリ大会代表(73㎏級)の加藤選手に大外刈りで一本勝ちして制するなど、各階級で熱戦が展開されました。

パラ柔道家たちのそれぞれの挑戦を、これからも応援ください!

(文・写真:星野恭子)