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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(389) “腕自慢”たちの競演、全日本パラ・パワーリフティング選手権が開催。パリ2024へ向けて、「いい船出ができた」

下肢に障害のある選手たちがベンチ台に横たわり、上半身だけの力で重いバーベルを持ち挙げる、パラ・パワーリフティングの「第22回全日本選手権大会」が1月29日、東京国際クルーズターミナル(東京都江東区)で開催され、37選手(男子25人、女子12人)が出場し、男女別体重階級別に日本一が決定しました。今大会は2022年度強化指定選手の選考にも関わる重要な大会でもあり、日本新記録も11個誕生するなど熱戦が繰り広げられました。

窓からは海が見え、開放感あふれる会場で行われた、第22回全日本パラ・パワーリフティング選手権大会。11個の日本新記録が誕生。台上の試技者は、女子79kg級の坂元智香選手。試合の模様はYoutubeでライブ配信もされた

なかには昨年、東京パラリンピックに出場したり、12月にジョージアでの世界選手権に出場したり、あるいはコロナ禍で練習環境もままならない状況にあったりといった選手もいましたが、2024年パリパラリンピックをはじめ、それぞれの新たな目標に向けての第一歩を記す大会となりました。

たとえば、男子49㎏級を制した西崎哲男選手(乃村工藝社)は第3試技で139㎏を挙上し、日本新記録も樹立しました。「ずっと狙っていた記録をクリアできて安心した。世界との差はまだあるので、身体も気持ちも見直し、常に世界ランク8位以内に入れる強さを手に入れたい」

日本記録更新となり、ガッツポーズで喜びを表す西崎哲男選手。東京パラ代表は逃したが、リオ大会につづく自身2度目となるパリ大会に向け、「新しいスタートを切れたと思う」

同72㎏級優勝の樋口健太郎選手(コロンビアスポーツウエアジャパン)は第1試技で160㎏、第2試技で170㎏、第3試技で172㎏をすべて白ランプ3つのパーフェクトなパフォーマンスを披露。さらに、新記録挑戦者にのみ与えられる4本目の特別試技で177㎏をクリアし、日本記録も塗りかえました。「今日の目標は第3試技まで『白3つ』を獲ることだったので嬉しい。第4試技も結果的に挙げられてよかったが、(あくまでも)世界へのステップ。来季の目標は世界ランク8位以内」と、世界を見据え、さらなる進化を誓っていました。

東京パラ初出場組も、経験を踏まえて新たな目標に向けてスタートを切ったようです。男子59㎏級の光瀬智洋選手は東京パラで145㎏(10位)、世界選手権146㎏(12位)と相次いで日本記録を塗り替え、快進撃を見せた若手のエース。今大会は連戦の疲れや左ひじの痛みの影響もあり、第1試技で成功した135㎏の記録にとどまり、「結果には納得していないが、今の力と受け止めている」と話し、さまざまな経験を経て、「今までは勢いでやっていた面もあるが、今後はもっと頭を使いながら、記録を伸ばしていきたい」と新たなステージを見据えていました。

この競技では日本人女子として初めてとなる東京パラに出場し、8位入賞を果たした女子79㎏級の坂元智香選手(あおぞら病院)はこの日も東京大会と同じ77㎏を白3つでクリア。第3試技で自身のもつ日本記録(79㎏)更新となる80㎏に挑みましたが、試技前に車いすからベンチ台への移動で落下するという珍しいアクシデントの影響もあり、押しきれずに失敗。

「競技歴5年目だが、初めてのアクシデントで動揺があり、少し残念」と苦笑しながら、振り返りました。東京パラからわずか3カ月で、パリ大会出場への規定大会である世界選手権があり、流れの中でパリへのスタートを切った形となりましたが、「東京パラで、記録も名前も残せたことは自信になったが、過信にならないようにしたい。強くありつづけなければならないと、モチベーションはさらに上がっている」と次の大舞台を見据えていました。

日本女子パラパワーリフターとして初のパラリンピアンとなった坂元智香選手。今後の目標は、「誰が見ても成功と思えるメリハリのついた『完成度の高い試技』を常にできるようにする!」

次世代選手の躍進も見られました。女子67㎏級の森崎可林選手(立命館大)は東京パラの開会式では聖火リレーの最終ランナーの一人として聖火台への点火という大役も担ったホープです。この日の第2試技で68kgをクリアし、約2年ぶりに自己記録を更新するとともに日本新記録と同ジュニア新記録も樹立し、笑顔をはじけさせました。「たった1㎏の更新ですが、自分を新しく送り出してくれるような大会になった」と話し、今回はクリアできなかった70㎏も、「次は絶対にとれるという自信がもてた」と自信を取り戻した様子。今年はパラ参加標準の70㎏越えをクリアし、パリ大会への一歩を刻みたいと目を輝かせていました。

東京パラ開会式の聖火ランナーも務めた森崎可林選手。「聖火台から見た景色では、どの(代表)選手も国を背負い、輝いていた。『私もそうなりたい』と強く思った。そうなれるよう、これからも努力したい」

男子65㎏級に出場した大宅心季選手(山陽高校2年)は昨年12月、アジアパラユース(バーレーン)で95㎏を挙げて金メダルを獲得した若手の成長株の一人。この日は第2試技で96㎏をクリアし、自身のもつジュニア日本記録を更新しました。ユース大会では大きな刺激を受けたようで、「国内にはない同世代のライバルと競いあい、自分も強くならなければと思って、練習を週2回から3回に増やした。強みはバーベルを挙げるスピード。体力や筋力もだが、精神面をもっと強くしたい」

男子65㎏級で、ジュニア日本新記録(96㎏)を樹立した大宅心季選手、17歳

なお、主催した日本パラ・パワーリフティング連盟では昨年11月、日本代表チーム名を、「パワークエストジャパン」に決定したと発表しています。10月1日付で同連盟理事長を退任し、前任のジョン・エイモス氏からチームのヘッドコーチを引き継いだ吉田進強化委員長は新チーム名について、「意味は、パワーを追求するチーム。筋肉で日本を持ち挙げたいというビジョンのもと、『みなで筋力を追求し、チームで強くなろう』という思い」と由来を説明。

また、「日本記録も多数出たし、若手の成長も感じられた」と今大会を総括し、「再出発のいい船出ができた」と吉田新体制の手ごたえも口にしました。

パワークエストジャパンの次なる大きな目標には、4選手(男子3、女子1)だった東京パラの代表から、2024年のパリ大会は8選手派遣(うち5位以内2人、全員入賞)、2028年のロス大会では12選手派遣(うちメダリスト2人)を掲げます。

今年はパリ2024大会にもつながるアジア・オセアニア選手権が6月に、また、10月にはアジアパラゲームズと大舞台が続きます。多士済々の「パワークエストジャパン」をどうぞ応援ください!

▼大会ページ(結果、アーカイブ動画など)
https://jppf.jp/news/detail/id/675

(文・写真:星野恭子)