「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(521) 人馬一体で演技の正確性や美しさを競うパラ馬術。馬事公苑で全日本大会開催
パラ馬術の「CPEDI3★TOKYO2024第8回全日本パラ馬術大会」が10月25日から27日まで、東京・世田谷区のJRA馬事公苑で開催され、国内トップレベルの10人馬が出場し、演技を競いました。パラ馬術は長方形のアリーナで人と馬がパートナーとなって演技を行い、歩様の正確性や動きの美しさを競う馬場馬術競技です。
パラリンピックでは選手は障害の種類や程度に応じて分けられたⅠ~Ⅴの5つのグレード(クラス)ごとに競技を行い、順位を競いますが、全日本大会では2022年度から、1日目と2日目の結果を合算し、合計得点率が120の値を越えた選手のみで、グレードを超えて順位をつける形で実施されています。
パラグランプリA・B表彰式を終えた選手(前列)と審判員、関係者ら
パラグランプリA・B(25日・26日)ではパリパラリンピック日本代表の吉越奏詞選手(グレードⅡ)が、アルバテミス号とコンビを組み、トータルスコア134.712点で優勝しました。2位はパリ大会個人8位入賞の稲葉将選手(同)がカサノバ号とのコンビで、同133.113点、3位は大川順一郎選手(グレードⅠ)・童夢号コンビで同130.347点でした。
また、パラグランプリフリースタイル(27日)にはパラグランプリA・Bの上位者6人馬(*)が進出しました。吉越選手・アルバテミス号が70.989%で優勝、稲葉選手・カサノバ号が70.734%で2位、城寿文選手(グレードⅤ)・アルマーニ15号が69.742%で3位でした。(*当日、1名棄権)
パラグランプリフリースタイル表彰式。前列左から、グレードⅡの宮路満英選手、稲葉将選手、吉越奏詞選手、グレードⅣの高嶋活士選手、グレードⅤの城寿文選手 (提供:日本障がい者乗馬協会)
吉越選手は、「アルバテミス号は馬事公苑での競技は今回が初めてだったので、少し緊張してるかなと思い、1日目はリズム良くというか、アルバテミス号がこの会場が好きだと思ってくれるように演技をしました。2日目はアルバトミスがすごくリラックスして演技していたので、できるだけ高得点を狙えるように頑張りました。速足がすごく得意な馬で、空中に浮かぶような速足ができて、すごく嬉しかった」と笑顔で振り返りました。パリ大会については、「東京大会は初出場で少し緊張があったが、パリでは笑顔を絶やすことなく演技ができた」と手応えを口にしました。
安定した演技で好結果を残した、吉越奏詞選手(グレードⅡ)とアルバテミス号
稲葉選手は昨年12月にグレードがⅢからⅡに変更となり、求められる技術要素も変化しました。「今回はグレードⅡになってから初めてカサノバ号と出場する大会だったので、どれくらいの点がでるか楽しみなところもありました。少しミスがあり残念でしたが、これも競技会。また頑張ります」とコメント。初入賞を果たしたパリ大会については、「東京パラリンピックは無観客でしたが、パリ大会はベルサイユ宮殿という会場だったり、観客席がほぼ満員だったり、そういうところで演技することが初めてだったので、舞台の大きさや普段味わえない空気感を味わえて、すごく幸せな時間でした。演技自体はスコア的に『まだまだできたぞ』っていうところもあり、複雑な気持ちもなくはなかったですが、それもいい経験。次は演技も揃えて、よりたくさんの方に喜んでもらえるような演技をしたい」と前を向きました。
息の合った演技を披露する、稲葉将選手(グレードⅡ)とカサノバ号
大川選手は進行性の病気を抱えながら競技を続けていますが、昨年から知人の紹介により、ドイツで馬をレンタルできたり、トレーニング機会を得るなど可能性が広がっています。「馬やチームの皆さんとの出会いは奇跡的だと思っています。思うように体が動かないところもありますが、少しでもいい演技ができればと思っています」と前向きに話しました。
大川順一郎選手(グレードⅠ)と童夢号
城選手は学生時代に馬術経験があり、社会人になってからは装蹄師として活動していますが、2020年10月に交通事故に遭い、右脚に障害が残りました。パラ馬術は東京大会をテレビ観戦して刺激を受けたことで始めました。「馬場馬術の魅力は日頃の練習を積み重ね、その成果を100%出せた時の喜びや達成感。頑張ってくれている馬のいい演技を、僕が邪魔せずに出させてあげたい」と話しました。パリ大会はあと一歩で代表を逃しましたが、次のロサンゼルス大会を目標に練習を重ねています。
城寿文選手(グレードⅤ)とアルマーニ15号
また、大会期間中、パリパラリンピック日本代表の三木則夫監督が取材に応じ、パリ大会について総括しました。
「パリ大会には2選手(吉越選手、稲葉選手)が出場したが、思ったようなスコアが出なかった。(4選手が出場した)東京大会では各人馬とも成績を残してくれたが、東京でうまくいった部分をパリにうまく繋げなかった。もう少し強化の仕方に工夫が必要だったのかもしれない」と振り返りました。
パラ馬術の選手が海外の大会に出場する場合、普段国内で練習し乗り慣れている馬ではなく、現地で手配した馬で出場することが多いのが現状です。三木監督は、パリ大会に向けても優秀な馬を現地で準備できましたが、現地入り後の短期間の調整だけでは「選手側に乗りこなす力が備わっていなかった」と課題を挙げました。
そうした反省を踏まえ、今後は「国内で、基礎技術の獲得に向けた強化トレーニングに取り組みたい。選手の基礎技術が上がれば、(大会まで)短期間でも馬のポテンシャルを引き出しやすくなる」と強化プランを話しました。
また、「底辺を広げないと、山の頂点は高くならない」として競技普及や選手発掘にも注力したいと話しました。東京大会前後からパリ大会までは主に強化に力を入れてきましたが、今後は普及も兼ねたセラピーの全国大会と強化目的の競技大会を東京大会前に行っていたように合同開催するなど普及・強化両輪の活動も検討しているそうです。
パラ馬術はパラリンピック競技では唯一、動物とのコンビで演技を行う採点競技です。選手の年齢層も幅広く、さまざまな障害の選手が参加しています。国際大会に挑むトップ選手たちはまず、2026年の世界パラ馬術選手権大会(ドイツ)を、さらに2028年ロサンゼルスパラリンピックを目指しています。ぜひ、ご注目ください!
(文・写真:星野恭子)