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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(309) 緊急事態宣言下の大型連休中、前を見据えるパラスポーツ界

新型コロナウイルス感染症拡大を受け、緊急事態宣言が発令された大型連休、どう過ごされましたか? この休暇期間中、パラスポーツ界ではさまざまな動きがありました。東京2020パラリンピック大会に関する「前進」など、主な動きをピックアップしました。

■東京パラ実施11競技で、新たな代表選考基準発表
国際パラリンピック委員会(IPC)は新型コロナウイルス感染拡大の影響による東京パラリンピックの延期決定に伴って再検討を進めていた代表選考基準について、4月30日に実施22競技中11競技の基準更新版を発表しました。アーチェリー、陸上、ボッチャ、ゴールボール、パワーリフティング、ボート、射撃、水泳、トライアスロン、車いすバスケットボール、車いすフェンシングの11競技で、全参加予定選手4,400人の約7割にあたる3,000選手が対象となっています。

更新の詳細は競技ごとに異なりますが、たとえば、世界ランキングによる選考枠に関してランキング期間が2021年まで伸ばされたり、選考対象となる大会が改めて設定されたりといった内容です。ただし、現在はまだコロナ禍収束が見通せないため、選考大会の新日程は未定のままだったり、「この大会が開催されなかった場合は…」といった「但し書き」が追加されていたり、不確定要素も少なくありません。

しかし、出場を目指しながら、「どう準備すればよいのだろう」と不安の渦中にある多くの選手たちにとって、一つの目安ができたことは前進する力になることでしょう。

なお、延期決定前に各国・地域の選手が獲得した出場枠はそのまま維持される方針もすでに発表されています。また、残る11競技についても5月末までに発表される見通しです。

▼東京2020パラリンピック出場選考基準(2020年4月更新版)
https://www.paralympic.org/sites/default/files/2020-04/2020_04_30%20Tokyo%20QG%20new.pdf

■日本財団、パラスポーツ専用体育館内に整備のコロナ感染症臨時施設を公開
日本財団は5月1日、都内で会見を開き、運営するパラスポーツ専用体育館「パラアリーナ」(東京都品川区)を臨時に、新型コロナウイルス感染症用医療施設に転用するという取り組みについての進捗状況と今後の計画について発表しました。

同財団は4月中旬、感染症患者の病床不足支援策として同アリーナ内に軽症患者対象の病床を整備し、東京都に提供することを表明していました。

▼(参考)「日本財団、パラ専用体育館などを改修し、新型コロナ軽症者用に1万床を整備へ(ノーボーダースポーツ/2020年4月7日)
https://op-ed.jp/sports/4852

新型コロナウイルス感染症患者受け入れ施設として改装整備された「日本財団パラアリーナ」の内部 (提供:日本財団)

登壇した笹川陽平同財団会長は、すでにパラアリーナ内には1部屋10平米で100床の整備が、また隣接する「船の科学館」駐車場スペースには大型テントの敷設も終了し、5月下旬にはその内部に60床が、また、その周辺には6月末までに1室20平米で家族でも滞在可能なプレハブハウス140室も整備予定であると話しました。また、施設は感染症専門家の意見も取り入れ、居住性や医療行為のしやすさなどを考慮し、すべて平屋建てとなっているほか、感染症対策施設として医療従事者の安全確保を重視するため明確に3つの区域(レッドゾーン、イエローゾーン、グリーンゾーン)に分けられている点も特徴とのことです。

パラアリーナも建つ、「船の科学館」の駐車場スペースに建てられた、大型テントの外観。今後、内部に60床が整備される予定 (提供:日本財団)

なお、こうした施設整備費用や入居する患者の生活費等は日本財団の全額負担としていますが、同財団公式サイトで寄付も受け付けています。

▼日本財団:新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急支援ページ
https://www.nippon-foundation.or.jp/donation

■車いすラグビー日本代表、東京パラ延期は悲願の金メダルに向け、「さらに強くなる時間」
日本車いすラグビー連盟は4月29日、日本代表の三阪洋行アシスタントコーチへのインタビュー形式でチームの現状を紹介するとともに、ケビン・オアーヘッドコーチと池透暢キャプテンのコメントを発表しました。

三阪ACによれば、日本代表チームには障害による呼吸器系の疾患を持つ選手も多く、感染すると重症化の危険もあるためチームとしての活動は休止し、選手は主に自宅での個人練習に取り組んでいること。ただし、競技用車いすでの練習は難しく、筋トレが中心であり、時折、映像による戦術の共有なども行っているそうです。

大会が1年延期されたことについては、「台頭する若手選手の経験を積む時間が作れることは利点であり、またオアーHCの戦術の成熟度を増すための時間になる」とポジティブに捉え、目標とする金メダル獲得に向け、「できることを一つひとつ積み重ねながら、目標達成のために進み続けるのみ」と力を込めています。

オアーHCは、「今は選手やファンにとって試練の時だが、チームとしてはより強くなる時でもある。この不安定な状況のなか、皆が互いに支え合おう。競技生活が元に戻る日まで安全に元気でいよう。そして、普段通りに頑張れ!」と選手たちに呼びかけ、池キャプテンは、「誰もが我慢を強いられている今だからこそ、一番大切なものに気付き、それを全力で守れるはずです。今こそ世界中のみんなが助け合い、知恵を出し合い、今を乗り越えられることを願っています。そしてスポーツができる幸せと豊かな心を取り戻せる日が1 日も早く戻ってくることを願っています」とコメントしました。

■コロナと戦う人たちも応援! パラ卓球協会の動画プロジェクト
日本肢体不自由者卓球協会が4月24日から5月11日まで4週連続の競技PRと選手応援プロジェクト「Going to 2021」を実施し、同協会Youtubeなどで公開しています。同協会によれば、プロジェクトを通して、新型コロナウイルス感染症に対し最前線で戦う医療従事者をはじめ、自粛によってさまざまな困難と戦う人々に向けて、障がいを乗り越え常に挑み続ける選手たちの魅力を発信して応援する、という思いも込められているそうです。

5月11日13時に公開されたばかりの最終4弾は、パラ卓球の応援と普及を担う「アンバサダー」として、プロ卓球選手の吉村真晴さんとピアニストで作曲家の松永貴志さんの就任発表と、両名からのメッセージです。

なお、同アンバサダーにはこれまで、フリーアナウンサーの大橋未歩さんとタレントでお笑い芸人のこにわさん(タレント・お笑い芸人)も就任し、活動されています。

<Going to 2021>
第1弾:パラ卓球新プロモーションビデオ「卓球を、超えろ。挑み続ける選手たち」
第2弾:2020年度日本代表新ウェアに身を包んだ選手たちによる、「Stay Home」のバトンリレー
第3弾:PARA PINGPONG ART PROJECT:3人のアーティスト(画家、人形師、ピアニスト)がそれぞれとらえた「パラ卓球の魅力」
第4弾:新・パラ卓球公式アンバサダー就任発表

▼日本肢体不自由者卓球協会「Going to 2021」プロジェクトYoutubeページ
https://www.youtube.com/channel/UCMxQDra2VFZROhE_gaa37Zw

■パラの「世界陸上」神戸大会、22年夏に開催延期へ
日本パラ陸上競技連盟は4月30日、2021年9月(17日~26日)に開催予定だった「神戸2021世界パラ陸上競技選手権大会」を1年延期し、新たに22年8月26日~9月4日の開催となることを発表しました。会場は神戸総合運動公園ユニバー記念競技場(神戸市)のまま変更はありません。

東京パラリンピックの開催延期を受けて、同大会組織委員会が主催者である国際パラリンピック委員会(IPC)、世界パラ陸上競技連盟(WPA)と協議し、22年7月に延期された健常者の陸上世界選手権(米国オレゴン州)や同年10月開催予定のアジアパラ大会の日程なども考慮して、新日程が合意されました。

パラ陸上の世界選手権は2年に1度開催されており、19年ドバイ大会につづき、第10回記念大会となる神戸大会には約 100カ国・地域から1,300選手の出場が見込まれています。東京パラリンピックで盛り上がったパラスポーツの火を引き継ぐメジャー大会としても期待されていたので、延期が決まったことは選手や関係者にとっても大きな希望であり、目標となることでしょう。

なお、大会組織委会長で増田明美日本パラ陸連会長は神戸大会延期決定に寄せて、「(日程は)各国選手が最良のコンディションで参加できるように考慮した。第 10 回の節目となる神戸での大会が、パラリンピックムーブメントを継承し、選手や観客の皆様がわくわくして盛り上がる大会となるように、IPC/WPA をはじめ関係機関・団体と協力して準備に取り組みたい」と、大会の意義と準備への意気込みをコメントしています。

また、WPAのハオジェ・ガオ代表も、「かつてない状況のもと、決して容易な調整ではなかった」と明かしつつ、「神戸大会は東京パラ後に日本で開催される最初の大規模パラスポーツ大会であり、東京パラのレガシーを受け継ぐもの」で、新たな開催日程は選手に十分な準備時間を与え、「今後の大会を見据えた、極めてレベルの高い大会になるものと確信している」と期待を寄せています。

以上、コロナ禍のなかでも前を向く、パラスポーツ界の最近の動きをピックアップしました。
(文:星野恭子)