「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(305) 日本財団、パラ専用体育館などを改修し、新型コロナ軽症者用に1万床を整備へ
新型コロナウイルスの感染拡大が止まりません。日本国内でも増加の一途で、医療現場の混乱が伝えられるなか、パラスポーツ支援を活動の一つに据える日本財団は4月3日、病床不足対策への支援を表明しました。
同日、都内で行われた会見で、笹川陽平会長が東京都品川区と茨城県つくば市の計2カ所に計約1万人の軽症の感染者を受け入れる滞在施設を整備すると発表したのです。食費や医療従事者の人件費など必要経費も全額負担するそうです。
整備予定のうちの1カ所は、東京・お台場の「船の科学館」の敷地内(東京都品川区)に建つ、パラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」と周辺の駐車場などのスペースで、ここに大型テントやコンテナハウスを設置して、約1,200人が滞在できる施設として整備し、4月末からの受け入れを目指すとしています。
<参考写真> 2018年6月から選手の強化拠点として活用されてきた、東京・お台場のパラスポーツ専用体育館「日本財団パラアリーナ」。(撮影:星野恭子=2018年7月/東京都品川区)
もう1カ所は、茨城県つくば市の「つくば研究所」跡地で、こちらは最大約9,000床分が整備されます。ただし、現在まだ残っている建物を壊してから建設を進め、7月末から順次受け入れ開始を目標としています。
なお、受け入れの対象は両施設とも、「検査で陽性が判明したものの、医師により入院の必要はないと診断された軽症者」としています。また、テントといっても簡易なものでなく、鉄板などで基礎を造った上に鉄骨や樹脂などを使って堅牢性をもたせ、耐用年数10年ほどのものということです。
笹川会長は、新型コロナウイルス禍は「国難」であり、行政だけで乗り切るのは難しく、皆で一致団結してこの難局を乗り切る必要があるとし、この支援策も同財団独自の考えによるものであること。また、緊急事態においてはスピードが重要であり、今回も意思決定と発表までにかかった時間は、「2日半」。今後も「走りながら考える」としています。
ただし、同財団はあくまでも施設作りを担い、実際の運用は東京都と厚生労働省が主体となるようです。同会長は、「備えあれば憂いなしで、『備え』を造っておくことが重要だと思って決断した。外側を造ったら、あとは専門家のご意見により臨機応変に対応できるように」と説明しました。
さて、「パラアリーナ」は2020年東京パラリンピックに向けた練習環境の整備を目的に約8億円をかけて建設され、2018年6月から運用されてきました。それまで床に傷がつくなどの理由で一般の体育館が利用できず練習場所の確保に苦労していた車いす競技や、ボッチャやゴールボールといったパラスポーツ特有の競技、さらにはパワーリフティングなどの強化拠点として、「稼働率ほぼ100%」で利用されてきました。
日本財団の今回の決定により感染者の滞在施設として役目を終えるまでは練習拠点としての利用は不可となりますが、笹川会長は事前に競技団体や選手の声も聞き、「アスリートの皆さんからは、『競技も大事だが、それ以上に人々の命を守ることに最大限協力したい』と、快く明け渡していただいた」そうです。
また、同アリーナを運営する「日本財団パラリンピックサポートセンター」の山脇康会長は同財団から今回の要請を受け、パラアリーナの提供を決定したと言い、コメントを発表しました。
「パラスポーツの日常的な練習のためにご活用いただいているアスリートの皆様には、パラアリーナを一時的に閉館するという今回の決定により、日常の練習に多大なご迷惑をおかけすることになり大変心苦しく思っております」とした上で、「世界各地ですでに起こっていることは、スポーツの域を遙かに超えた人類の危機であり、新型コロナ感染拡大を阻止し、人々の命を守ることにあらゆる手をつくすことが最優先であると思います」と理解を求めました。
そして、「アスリートの皆様、関係者の皆様、またパラリンピック、パラスポーツを応援いただいているファンの皆様と共に、この困難な時期を乗り越え、健康で安心安全な社会を取り戻すことに全力で取り組んでまいります」と、改めて一致団結で現状に立ち向かう姿勢を表明しています。
1年延期されたとはいえ、東京パラリンピックに向けて選手たちの準備や強化は必要です。でも、それはあくまで、安全で健康な環境の確保が大前提です。
「この施設が使われずに終わること。これが私たちの最大の願い」という笹川会長の言葉のように、こうした取り組みも含めたさまざまな対策によって、一日も早くこの事態が終息し、パラアリーナがまた、アスリートたちの生き生きとした活動の場に戻ることを願ってやみません。
(文:星野恭子)