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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(281) 東京2020大会に向け、テスト大会が進行中。課題改善に期待

東京2020 オリンピック・パラリンピックの開幕が刻々と近づくなか、大会の成功に向けて競技運営や大会運営の能力を高めることを目的に、競技ごとに本大会会場の施設を使った「東京2020テストイベント」が順次、実施されています。

テストイベントは過去のオリンピック・パラリンピック大会でも実施され、東京大会でも各競技団体や東京2020大会組織委員会などが主催し、今年から来年に掛けて行われています。無観客か観客を入れるかは大会によって異なりますが、本番で使用する設備や会場施設の使い勝手を確かめたり、スムーズな大会運営やボランティアなどスタッフオペレーションなど、さまざまな角度から試すことが目的です。

そうしたチェックで得られた課題を再検討し、本番までにできることは改善を加えるなどして選手や観客、さらにはスタッフまでを対象に、より良い会場環境を提供することが目標となります。

今回はすでに実施済みのパラリンピック競技のテストイベントについて開催順に、会場の現状や浮き彫りになった課題などをリポートします。

7月12日~18日にかけてアーチェリー/パラアーチェリーのテスト大会が夢の島公園アーチェリー場で行われました。会場は完全なバリアフリー設計ではなく、車いす選手に配慮して仮設のスロープが設置されていました。テスト大会にはすでに東京パラリンピックの出場内定を決めている上山友裕選手らも参加しており、パラ選手目線での設備や動線などが確認されたようです。選手の声を聞き、本番に向けて少しでも改善を期待したいところです。

8月15日から18日にお台場海浜公園で行われたトライアスロン/パラトライアスロンのテストイベントでは会場の動線やコースの他、屋外競技の懸案事項である天候や自然環境についても綿密にチェックされました。
お台場海浜公園に造られた、東京2020大会のトライアスロン/パラトライアスロンのテスト大会会場。本番に向けて水質や気象条件のほか、施設レイアウトなども確認された(撮影:星野恭子)

なかでも、スイムパートで使われる海水の水質についてはパラトライアスロン の実施前日に、大腸菌数値が基準値を大幅に超えたことから、17日に行われたテストレースではスイムパートが中止され、バイクとランのデュアスロンが実施されました。水質改善については大会前から対策が練られていましたが、テスト大会での結果などを受け、10月5日に特殊な装置を使い、水質を改善する実験が新たに行われたようです。

なお、トライアスロンのテスト大会の模様はすでに詳細をリポートしています。
▼『東京・お台場でトライアスロンのテスト大会。「選手ファースト」でさらなる整備に期待』
https://op-ed.jp/sports/4539

9月6日に行われたカヌー/パラカヌー日本スプリント選手権は海の森水上競技場(東京都江東区)が会場でした。東京大会に向けて新設され、できるだけ段差をなくし、エレベータも敷設されるなどバリアフリー設計です。観客席とレースコースとが近い点も、「応援が聞こえやすい」など選手から高評価でした。

一方で、階段状の観客席の一番先頭、つまり最下部のスペースに車いす用観覧エリアが設けられていたのはよいですが、日よけ用の庇が短すぎて車いすエリアまで届かず、車いすの観客は炎天下での観戦を強いられていました。車いすユーザーの中には障害により体温調節が難しい人も少なくありません。早急な改善が必要でしょう。
東京2020大会のカヌー/ボート会場として新設された海の森水上競技場。右手が観客席で、屋根はあるが短く、最下段の車いす席などは強い日差しにさらされていた(撮影:星野恭子)

9月26日~27日には、パワーリフティングのテスト大会が東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催されました。スポーツ施設ではありませんが、ステージ上にベンチプレス台が置かれ、「魅せる」会場が作られていました。14カ国から集まった約60選手からは、「応援の声が聞こえやすい」「素晴らしい会場」など高い評価のコメントが聞かれました。

一方で、上部に設置されたスクリーンには選手プロフィールやリアルタイムの記録などが表示される他、試技中の選手の表情を映し出し競技の迫力を伝える狙いがありましたが、この日は映像が不安定で、今後の調整が期待されます。
パラパワーリフティングは東京国際フォーラムで実施される。一人ずつ試技を行う競技の特性を活かし、劇場型の施設のステージ上に競技場が設営され、「魅せる」工夫で観客を楽しませる (撮影:星野恭子)

また、既存の施設を利用しているため、「車いすでも使用可能なトイレの数が少ない」「動線が長く、迷路のよう」といった課題を指摘した声も聞かれました。

既存のイベント施設を競技場に転用した例としては他に、9月28日~29日に幕張メッセのイベントホールで行われたゴールボールのテスト大会があります。
同ホールはこれまで、スポーツイベント用に使われたことはほとんどないそうですが、一部仮設のスタンドを立てたり、床には来年の東京パラリンピックでも使われる床材が敷かれて行われました。

音を頼りにする視覚障害者の競技ですが、「ボールの音も聞きやすく、プレーしやすい会場」という声が日本チームだけでなく、参加したアメリカ、ブラジルチームからも聞かれ、「本番に向けていいシミュレーションになった」と評価されました。

とはいえ、現時点で館内にはエレベータがなく、車いすユーザーなどの観客席へのアクセスは困難でした。これまでは屋外のスロープが使われていたようですが、来年を見据え、外部エレベータの設置工事が始まっていました。
幕張メッセイベントホールで行われるゴールボール。フロアレベルには仮設のスタンドが建てられる予定。また、建物外側には外部エレベータ増設工事も進行中 (撮影:星野恭子)

一方で、得点盤や大型映像装置などスポーツ施設なら常設されているような装置が不足していたり、観客の動線や競技観戦しやすい状態での車いす席の確保など、まだまだ検討や改善が必要な部分も目立ちました。

テスト大会は今後も、車いすテニス(有明テニスの森)、パラバドミントン(国立代々木競技場)、ボッチャ(有明体操競技場)、車いすラグビー(国立代々木競技場)、水泳(東京アクアティクスセンター)、陸上(オリンピックスタジアム)などが予定されています。

こうしたテスト大会で得られたデータをもとに、大会組織委員会では施設環境や運営面に対する改善策を施していくそうです。ただし、多くの会場では「テスト2回目」の予定はなく、改善結果が分かるのは本番という可能性も・・・。本番まであと1年を切り、時間やマンパワー、費用などが限られているなかで、浮き彫りになった課題をクリアし、どこまで「理想の会場」に近づけられるのか、今後もできるだけ注目していきたいと思います。

▼テストイベント情報(東京2020組織委員会)
https://tokyo2020.org/jp/games/sport/testevents/

(文・写真:星野恭子)