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佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.⑨  SPの貯金を活かして、羽生結弦がGPファイナル史上初の4連覇 

FS後半はミスが相次ぐも、4回転ループの成功は大きな収穫

 フリー・スケーティング(FS)前半のジャンプ3つを続けて成功。「このまま行けば、すごいことになりそうだぞ」と思ったのですが、NHK杯のときと同様、後半最初の「4回転サルコゥ-3回転トゥ・ループ」でミス。その後も、3回転ルッツが1回転になってしまうなど、羽生結弦らしくないジャンプの失敗が続いてしまいました。

それでも客席と一体化して、今シーズン最高得点をマークしたショート・プログラム(SP)での貯金と、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)、パトリック・チャン(カナダ)、ふたりのライバルの失速に助けられた形で、GP(グランプリ)ファイナル史上初の4連覇達成となりました。

 FS前半に出場した宇野昌磨とネイサン・チェン(アメリカ)が、素晴らしい演技で高得点を出していたことは、会場の雰囲気で後半の3選手にもおそらく伝わっていたことでしょう。羽生、フェルナンデス、パトリックといった百戦錬磨の選手たちでさえ、10代ふたりの圧巻の滑りがプレッシャーになっていたのかもしれません。

とはいえ、3種類4本の4回転ジャンプを決めてみせたチェンと10点以上の差。今シーズンの課題だった演技構成点では改善の傾向が見られましたし、何よりFS冒頭の4回転ループを成功させたことは、大きな収穫です。なんとかこらえたSPの4回転ループは回転軸が左前に傾いていたのですが、FSのときは綺麗な回転軸をつくって見事に着氷。SPの4回転ループはGOE(出来栄え点)がマイナス評価でしたが、FSでは1.14点のプラス評価が付きました。この4回転ループをSP、FSで揃えることができれば、自身の持つ歴代最高得点の330.43に近づいていくはずです。

 ただ、昨シーズンの羽生はGPファイナルを頂点に、後半戦はやや下降気味。世界選手権もフェルナンデスの後塵を拝し、2位に終わってしまいました。その反省もあって、今シーズンはピークを来年3月の世界選手権に合わせていく方針だと聞きました。おそらくそれは来シーズンの平昌(ピョンチャン)五輪を見据えてのことなのでしょう。来年2月に五輪と同じ会場で開催される四大陸選手権にも出場する用意があるとも言われています。すべては18年2月に行われる五輪に最高の状態でのぞむため、周到なリハーサルを兼ねてのことだと考えられます。

ほぼ完璧なFSで、宇野昌磨が昨シーズンに続いて逆転3位に

 FS前半の4回転トゥ・ループはオーバー・ターンになってしまったものの、そのほかは完璧に近い内容。予定していたコンビネーション・ジャンプが単独になったところも冷静に対処して、宇野昌磨が2年続けて逆転での銅メダル獲得となりました。現地フランスに到着してから時差調整に失敗、いまひとつの体調で滑ったSPは、ひじょうに不満の残る内容でした。ただ、この大会は男子のSPとFSの間が1日空くスケジュールになっていました。もちろんこれは出場6選手全員が同じ条件なのですが、宇野にとってはコンディション回復の面で、この中1日がプラスに働いたのかもしれません。

 FSだけの得点を見ると、1位がネイサン・チェンで、宇野が2位。3位以下に羽生、フェルナンデス、パトリックが並びました。歴戦の五輪金メダリストに世界チャンピオン、言わば‘大名跡’たちの上を、宇野は行ってみせたワケですから、間違いなく大きな自信になるはずです。

 ただ、これはSPの5位から総合2位へと順位を上げたチェンにも言えることなのですが、SPで失敗したからこそ、FSではあれだけの演技ができたとも言えます。6選手しか出場しないGPファイナル、SPで4位、5位になってしまえば「もうこれ以上、落ちるところはない」とばかりに開き直って、捨て身でFSの舞台に立つことができるからです。宇野にはぜひ、3位だからとホッとすることなく、今回の経験を糧にして、さらに高い表彰台を目指して欲しいと思います。

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉