「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (161) 「TOKYO2020」開催前に、障がいのある人とのコミュニケーションを学ぼう!
何事も結果から学び、次への糧にすることが大切――――。日本チームは今夏のリオデジャネイロ・パラリンピックに、「金メダルランキング10位(金10個)」を掲げて臨み、結果として計24個のメダルを獲得したものの、金メダルは「ゼロ」で、ランキングは64位に終わりました。「金ゼロ」はパラリンピック夏季大会としては、初出場だった1964年大会以来、初めてのこと。この“衝撃”をどう活かすのか・・・。
日本は2020年に開催国として2回目のパラリンピックとなる、東京大会を控えています。日本パラリンピック委員会(JPC)はリオ大会開幕前から、東京大会の目標を「ランキング7位(金22個)」としており、リオ閉幕直後にも「(20年の)目標は下方修正しない」と話していました。そのJPCがようやく、リオ大会の総括と東京大会に向けた取り組みについて報告書をまとめ、11月25日に発表しました。
その報告書によると、まずリオ大会の総括として、世界新記録が200個以上、大会新記録も400個以上生まれるなど世界の競技力が予想以上だったこと。日本は金メダルこそゼロだったものの総数では24個と前回ロンドン大会(16個)から1.5倍に増えたこと。ボッチャ(銀)やウィルチェアーラグビー(銅)のような重度障害者の競技で初のメダルを獲得し、また女子や若手選手の活躍も目立ち、将来への希望が持てるものだった、としています。
脳性麻痺など重度障害者を対象とした球技「ボッチャ」はリオ・パラリンピックの団体戦で、この競技としては史上初となる銀メダルを獲得。地道な強化が実り、ロンドン大会7位入賞から大躍進
金メダルゼロの主な原因としては、「選手へのサポートが不十分で、メダル獲得上位国に比べ、強化策が遅れた」とし、具体的には、1)選手のフィジカル面・メンタル面での総合的サポート不足、2)世界の動向に対する情報不足でライバルの把握が不十分、3)金メダル獲得可能性がある選手層の薄さ、4)メダル上位国に比べ、競技力強化に向けた取り組みの遅れ、といった4点を挙げています。
たしかに、オリンピックに比べ、パラリンピック競技への強化策の遅れは顕著で、たとえば、スポーツ庁が行っているハイパフォーマンスサポート事業もその一つでしょう。これは、元々マルチサポート事業という名称で、文部科学省がオリンピック競技強化のために2008年から始めた事業で、メダル獲得の期待が高い競技や選手を強化ターゲットとし、重点的に支援や研究開発などを行うというものです。リオ・オリンピックで過去最多となるメダル獲得総数41個へとつながった要因のひとつとされています。この事業がパラリンピック競技にも適用されたのが2014年から。20年東京大会の開催決定(13年)以降のことです。
また、練習拠点の整備も遅れていて、オリンピック競技とパラリンピック競技が併用できるナショナルトレーニングセンターが完成するのは東京大会目前の19年です。
こうした現状分析からJPCは課題として、「全競技でパフォーマンスの最大化を図る」とともに、「これまでよりも早い段階で強化ターゲット競技や選手を選定するなど強化環境整備の計画と遂行」を挙げ、その取り組み策として、1)「東京2020特別強化委員会」の新設、2)「22競技・代表者会議」の新設、3)スポーツ庁との連携、が報告書に明記されました。
1)の「東京2020特別強化委員会」とはJPC内部に新設される部署で、同大会に向けた強化戦略策定・実行に特化した司令塔としての役割をもつものだそうです。メンバーにはJPCの関係者だけでなく、インテリジェンスや医科学サポート、一般スポーツ指導者など幅広い分野からの有識者も招聘するとし、「特別強化競技・選手」の絞り込みと、目標達成に必要な強化環境の整備などを行っていくそうです。
2)の「22競技・代表者会議」とは目標達成に向けてJPCと東京大会で実施される各競技団体との連携協力を図るための部署で、1)で示された「特別強化委員会」の中に新設されるようです。
3)については、10月にスポーツ庁の鈴木大地長官が発表した、アスリート発掘への支援強化や女性トップアスリートへの支援強化などからなる、「競技力強化のための今後の支援方針『鈴木プラン』」に基づき、具体的な施策を展開していくというものです。
オリンピックに比べ、パラリンピック競技への強化の取り組みはずっと遅れているのが現状です。たとえば、ハイパフォーマンスサポート・センター。これは、大会期間中に選手村近くに設置され、入浴設備などリカバリー・コンディショニング機能を備えたトレーニング設備や和食中心のメニューが用意された食堂など備えられた施設ですが、オリンピック選手向けには12年ロンドン大会で初めて設置され、2大会目となるリオでは史上最多となる41個のメダル獲得にも貢献したとされます。
同センターは、パラリンピック大会ではリオ大会で初めて設置されました。メダルを獲得したウィルチェアーラグビーや視覚障害者マラソン選手をはじめ、多くの選手から、「選手村の部屋には湯船がないので、(センターで)ゆっくり入浴でき、疲労回復できた」「おにぎりの提供など、食事面で力になった」などの声が聞かれ、好評でした。ぜひ継続、拡充してほしいものです。
ここ数年、20年東京大会の開催決定やスポーツ庁設立などパラスポーツを取り巻く環境は好転しています。この追い風を十分に活用し、さらなる環境改善を図り、20年の好成績から、その先へとつづくパラスポーツの根づき、発展につながってほしい。JPCの取り組みには大いに期待したいし、見守っていきたいと思います。
(文・写真: 星野恭子)