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佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.⑧ 羽生同様、発展途上中の宮原が、連続GPファイナル出場を死守

●新しいジャンプの習得に匹敵する、宮原のプログラム構成 総合2位となり、日本女子選手の連続GP(グランプリ)ファイナル進出を16シーズンに延ばした宮原知子ですが、ショート・プログラム(SP)では3回転-3回転のコンビネーションでめずらしく失敗。フリー・スケーティング(FS)でも、3つのジャンプが回転不足と判定され、得点のほうは思ったほど伸びませんでした。 以前にも指摘しましたが、今シーズンの宮原は、基礎点が1.1倍になる後半に3回転-3回転のコンビネーション持っていく、これまでとは違った構成に取り組んでいます。それでなくても、回転不足を取られることが多かった選手です。体力の消耗する演技後半にジャンプを組み込んでいけば、失敗のリスクは当然高くなります。それは新たな種類のジャンプを習得するのと同じくらい、難易度の高い挑戦です。男子の羽生結弦同様、宮原もまた発展途上にあると言えるでしょう。 ●多方面に影響を及ぼした宮原のステップに対する採点 それでも彼女は、1歩1歩地道に自分の課題を克服しています。GPファイナル出場の懸かった重圧のなか、「スケート・カナダ」のときには規定違反とされて、得点のつかなかったステップで、今回は最高評価の「レベル4」を獲得してみせる。FSの演技構成点「69.16」は自己最高だったそうですが、このあたりが、いかにも宮原知子といったところです。 以前は、リンクの長辺の向きに沿って直線状に進む、リンク全体に大きく円を描いて1周する、3つの半円を互い違いにつなげて大きく蛇行する。この3種類にステップは分けられていたのですが、現在はその区別がなくなり、ステップは「氷面をいっぱいに活用していなければならない」と定められています。ですが、どこまでリンクを広く使うことが、氷面いっぱいなのか。解釈や判断が分かれるところです。「スケート・カナダ」のときの宮原に関しては、‘氷面をいっぱいに活用していない’と見なされてしまったということなのでしょう。 じつは「スケート・カナダ」のあとで、私の教え子が同じような規定違反のために、ステップの得点のつかなかったケースが2度ほどありました。それ以前の大会と、特に違ったステップをしたようには思えなかったのですが(苦笑)。つまり、あのときの宮原のようなステップでは規定を満たさないのだとする認識が、ひとつの基準となって、フィギュア界に拡がりつつあるのです。 ●日本よりひと足早く、新世代が開花したロシア女子 これで今シーズンのGPファイナル出場者が決まり、女子は6選手中4選手が10代のロシア勢となりました。世界女王のエフゲニア・メドベジェワ、ダイナミックなジャンプを跳ぶアンナ・ポゴリラヤ、高いスケーティング技術を持つエレーナ・ラジオノワ、長い手足を活かした演技のマリア・ソツコワと、それぞれに個性があって多種多彩。2年連続の表彰台を目指す宮原からすれば、強敵ばかりです。 このロシアの隆盛の背景には、2年前のソチ五輪に向けて、国を挙げての強化に取り組んできたことがあります。じつは女子に遅ればせながら、男子のほうも、12月にシニアと同時に開催されるジュニアのGPファイナルに、ロシアから4選手が出場することになっています。当時蒔いた種が芽を出しつつあるのです。 日本の女子については、いまがちょうど、鈴木明子さんや安藤美姫さんといったソチ五輪の前後に競技生活から引退した世代から、次の世代に移行する、端境期だと言えるのではないでしょうか。NHK杯4位の樋口新葉をはじめ、将来楽しみな10代の選手たちが、次々と登場しています。女子のジュニアGPファイナルには、ロシアから3選手、負けずに日本からも坂本花織、本田真凜、紀平梨花の3選手が出場します。ロシア勢に対抗するには、彼女たちに大きく成長してもらわないと。宮原ひとりに頼って孤軍奮闘させておいてはいけません。 (文:佐野稔)