佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.⑤ 今シーズンの世界選手権を目指すなら、浅田真央はまずジャンプを戻すこと。GPデビューで2位の可能性もあった樋口新葉
自分に確信を持てていなかったように映った浅田
フリー・スケーティング(FS)の3回転ジャンプはことごとく、フィギュア界で言うところの「パンク」。ジャンプ中に回転が止まってしまい、予定していた回転数を回ることができませんでした。GP(グランプリ)シリーズ・フランス大会全体を通じて、浅田真央の演技はどこか中途半端。本人のなかで「さぁ、行くぞ!」といった確信が持てないまま、リンクに立っていたように映りました。おそらく今回も、しっかりとした練習ができていなかったのでしょう。少なくとも「勝負ができる」状態ではありませんでした。満足な練習をできない原因が、報道で伝えられているように左ヒザの状態だけなのか。それとも、ほかに何かあるのか。そうなると、本当に身近な人でなければ分からない話になりますけど、いずれにせよ、いま一番悔しい思いをしているのは浅田本人でしょう。
もし、今シーズンの世界選手権を目指すのであれば、その出場権の懸かる全日本選手権までには、まだ1ヶ月以上あります。それこそ死に物狂いに練習すれば、本来の滑りを取り戻すのに充分な時間だと言えるでしょう。ですが、もし身体の状態がそれを許さないのであれば、平昌(ピョンチャン)五輪のためにも、今シーズンはあえて無理をしないといった選択もあるのではないでしょうか。
終わってみれば、このフランス大会は、女子の1位から5位まですべてを、10代の選手が占めてみせました。現在の女子フィギュア界は、10代の選手が目覚ましい活躍をみせています。そして3回転‐3回転のコンビネーションがないと、彼女たちとは勝負にならないのが現状です。
ですが、浅田と言えば、そんな時代の先駆けのような存在です。トリプル・アクセルという「伝家の宝刀」も持っている。本人は「自信を失った」と話していたそうですが、浅田真央が自信を回復させようと思ったら、まずは代名詞であるジャンプを取り戻すことではないでしょうか。それだけの練習ができるコンディションを整えることを、第一にして欲しいと思います。
あえて2位になれずに惜しかった、と言いたい樋口新葉
シニアのGPシリーズ初出場となった樋口新葉が、SPの5位から逆転して、表彰台に昇りました。「よくやった」と褒めてあげたい気持ちは山々なのですが、ここではあえて「惜しかった」と言わせてもらいます。というのも、FS後半に予定していた3回転ルッツからのコンビネーをョンが、単発のシングルになってしまいました。そのミスがなければ、3番ではなく2番目の表彰台に立っていた可能性がありました。そうすれば、次に出場を予定しているNHK杯で、GPファイナルの出場権を得るチャンスがグッと高くなっていた。それだけに「惜しかった」と言いたくなってしまうのです。とはいえ、その失敗をした直後の3回転フリップに、ダブルのトゥ・ループを加えてコンビネーションにしてみせたり、「ダブル・アクセル+ダブル・トゥ・ループ+ダブル・ループ」の予定だった3連続ジャンプを、これまでやったことのなかった「ダブル・アクセル+3回転トゥ・ループ+ダブル・ループ」に咄嗟に変更したりするあたりは、とても15歳とは思えない。「鍛えられているなぁ」と、唸らされました。彼女の最大の武器であるスピード感あふれるジャンプも披露できていましたし、まったく物怖じしている様子がありませんでした。
やはりシニアのGPシリーズデビュー戦となった「スケート・アメリカ」で3位に入った三原舞依のときにも、似たようなことを話しましたが、ジュニアとシニアのGPシリーズとでは、まるで雰囲気が違います。それでも、まったく意に介さずに自己ベストを更新してみせる。「怖いもの知らずと言えば、それまでかもしれませんが、こうした物怖じのなさは、最近の若い選手たちに共通した特長だと言えそうです。
仲の良い友だちだと聞くエフゲニア・メドベジュワ(ロシア)とは今回、約27点の大差をつけられました。本人のなかで、いろいろと感じるところがあったことでしょう。世界女王のライバルに、ぜひ名乗りをあげて欲しい15歳です。
〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉