佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.④ 次につながる宮原の攻めた3位。思わず身体が震えた圧巻だったメドベジェワのフリー
宮原の攻めの姿勢を感じさせた後半の3回転-3回転
「ノーミスの女王」「ミス・パーフェクト」らしからぬ、ショート・プログラム(SP)でミスが出た宮原知子でしたが、最後の3回転フリップのエッジ・エラーについては、どうしてエラーの判定になったのか。私が見る限り疑問に感じるレベルでした。ですが、3回転ルッツ‐3回転トゥ・ループの回転不足については、そういう判定になっても仕方ないかなといったジャンプでした。ただ、このミスについては、宮原の攻めの姿勢の表れだったのではないでしょうか。というのも、昨シーズンまでの宮原のプログラムを振り返ると、3回転‐3回転のコンビネーションジャンプはSPの冒頭に組み込んでいました。つまり最も体力に余裕があるタイミングで跳んでいたわけです。ところが今回は、基礎点が1.1倍になる演技後半に、彼女自身初めて3回転‐3回転を持ってきていました。
前々回の世界選手権、そして昨シーズンのGPファイナルと、いずれも銀メダルに終わっている宮原自身が「いつまでも優勝できずにいるワケにはいかない」と話していたように、世界一を目指す上での、彼女にとっての大きな変革、取り組むべきテーマだったのでしょう。
フリー・スケーティング(FS)に関しても、厳しい採点に苦しむ結果となりましたが、演技内容自体は今まで通りいつもの宮原知子で、5位から3位に順位を上げてみせました。今回のSPで出た課題や掴んだ手応えを、次戦以降に活かしていって欲しいと思います。
メドべジェワの“ストーリー性”あふれたFSには、身体が震えた
今回の「スケート・カナダ」で、私が最も心を奪われたのは、女子で優勝したエフゲニア・メドベジェワ(ロシア)のFSです。手を振って大切な人を見送るところから演技が始まり、その人の訃報を知らせる電話のベルが鳴ってのフィニッシュ。そのときの哀しげな表情。衝撃のあまり身体が震えました。完全にやられました。彼女の演技が終わった瞬間、私だけでなく世界中のフィギュア関係の「親父ども」が、騒然としたのではないでしょうか。ぜひ、また観てみたいと思わせるストーリー性があって、そのさなかに難易度の高いジャンプを、ポンポンと成功させている。スケーティングがあれだけ滑り切れて、表情があんなにも豊かで、ジャンプがあれほど跳べる…。昨シーズンの世界女王は、格段にレベルアップしてきました。宮原知子をはじめとする日本の女子選手たちが世界のトップに立つためには、彼女の上を行かなくてはならない。相当に手強い存在だと言うしかありません。
〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉