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佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.② 勝負度胸と良質のジャンプを備えた三原舞依。浅田真央の新たなアプローチは魅力充分、だからこそコンディションの回復を

デビュー戦でも、まったく怖気づいていなかった三原

   今回の「スケートアメリカ」が、シニアデビュー戦だった17歳の三原舞依ですが、堂々の3位に輝きました。彼女は昨シーズンのジュニアのGP(グランプリ)シリーズの2大会で2位に入り、GPファイナルにも出場した経歴の持ち主ですが、ジュニアとシニアのGPシリーズでは、まるで雰囲気が違います。観客の数も桁違いですし、緊張で自分の持てる力を発揮できなかったとしても不思議ではありません。

 ですが、今回の三原の滑りを観ていると、怖気づいた様子がまったくありませんでした。たいしたものです。もちろんミスはありましたけど、そりなりに場数を踏んでいる先輩たちのほうが、もっとたくさんのミスをしてくれた。FS(フリー・スケーティング)では、伏兵マライア・ベル(アメリカ)が三原の上を行き、最終滑走者には実績のあるグレイシー・ゴールドが控えている。「表彰台は難しいかな」と思ったところで、ゴールドがまさかのミス連発。三原に銅メダルが舞い込みました。

全身の関節が痛む病気のため、氷に乗れない時期を長く過ごしたと聞きますが、スポーツの世界では、何かひとつの出来事をキッカケに、競技人生がガラッと好転することがあります。今回の3位をターニングポイントにして、彼女が大きく飛躍することを期待したいと思います。

高さ、幅、降りたあとの流れが良い、質の高いジャンプ

 彼女の最大の魅力は、ジャンプの質の高さです。具体的には、高さと幅があって、ジャンプを降りたあとの流れが良い。滞空時間が長く、それでいて着氷したあとに淀むことなく、次の滑りに美しく移ることができるのです。

現在の女子フィギュアにおいて、3回転-3回転のコンビネーションジャンプは、勝負を左右する重要な要素です。三原はルッツからの連続3回転ジャンプを、難なくこなしています。演技構成点に関しては、まだまだ改善の余地がありますが、技術要素点だけでしたら、いまの段階でも世界のトップと渡り合えるレベルにあります。日本女子にまたひとり、楽しみな存在が現れました。

滑り込み不足を感じさせた浅田の演技

 総合6位に終わった浅田真央については、今月上旬のフィンランディア杯のときにも指摘されていた、左ヒザの痛みによる滑り込み不足が、今回も露呈してしまった印象です。FS冒頭の3回転フリップ-2回転ループにしても、3回転-3回転のコンビネーションにトライしたものが、失敗した結果だったように、僕の眼には映りました。演技後半の「らしからぬ」失速ぶりなどは、調整不足の最たるものでしょう。

これまでの浅田でしたら3回転-3回転を跳ばなくても、トリプル・アクセルで補填することができていたのですが、トリプル・アクセルを回避している現状では、3回転-3回転が不可欠になります。

 5(ファイブ)コンポーネンツと呼ばれる演技構成点には、満点があります。言い換えれば、上限があるのです。浅田クラスの選手になれば、演技構成点はすでに満点に近いため、どうしても伸び幅は限られてしまいます。「勝負」に勝つためには、技術要素点の積み上げを重要視する必要があるからです。

新しいアプローチは魅力的。こだわりのステップも素晴らしいだけに…

 SPとFSを同じ曲(「リチュアルダンス」)で滑るというのは、これまであまり見たことのないアプローチです。「黒」と「赤」のイメージを使い分ける演出も、インパクトがありました。ひじょうに魅力のあるプログラムです。

 また、彼女自身こだわっていると言われるステップについては、なるほど素晴らしいクオリティです。ステップを踏むときに細かく入ってくるターンのときのエッジワークが、ものすごく深くて正確なのです。僕なんかだと性格上、ついつい「流しがち」にしてしまうところなのですが(笑)、ジャッジのみなさんは、そうした細かいところをよく見て評価するのです。

 だからこそ、左ヒザの状態が気になります。今大会後、浅田本人は「次はトリプル・アクセルと3回転-3回転を入れるくらいの勢いでいかないと」と決意を語ったそうですが、まずはどこまでコンディションを回復させることができるのか。浅田の次戦となる11月中旬の「エリック・ボンパール杯(フランス大会)」の注目点は、そこに尽きるでしょう。

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉