ノーボーダー・スポーツ/記事サムネイル

NBS創設記念!! 「外交力」勝負のオリンピック招致以上に大切なことは…?!(玉木正之)

2020年の五輪招致合戦は、7月3日のIOC委員全員へのプレゼンテーションも終わり、立候補3都市が横一線に並ぶ大接戦の状態らしい。

大震災と原発事故を抱える東京、財政危機、経済危機のマドリッド、反政府デモの続くイスタンブール……と、各都市がマイナス点を競い合う状況とも言えるなかで、前回リオデジャネイロに敗れたマドリッドは最大32票、東京は22票を獲得。イスタンブールは北京大会が決まったときに17票を集めた。

そんな過去の実績に基づけば、現在3都市とも20~30票の固定票を獲得し、総数約百票のうち残る10~20票の浮動票を奪い合ってる状態と言えるらしい。

投票は過半数を獲得した都市が勝利。1回目の投票では、どの都市も過半数獲得は無理だろうから、まず最下位となった都市が失格。上位の2都市が失格した都市の獲得した得票を奪い合うことになる。

最終決定の日(ブエノス・アイレスでのIOC総会・五輪都市の投票は9月7日)まで約2か月、3都市とも票読みを行いながらの票固めと、票獲得のために、あらゆる機会(IOC委員の集まる世界水泳や世界陸上など)を利用してロビイ活動を展開することだろう。

が、今回決定する2020年の大会の次、2024年の大会は前回のパリ五輪から百周年で、パリ開催が最有力といわれている。また、同じIOC総会(9月8日)で、現在のIOC会長のジャック・ロゲ氏が退任し、その後任との呼び声高いドイツのトーマス・バッハ氏が、2026年の冬季五輪大会のミュンヘン開催を強く希望。

だからマドリッドは不利(西欧だけで、マドリッド―ミュンヘン―パリと、3大会続くことは考えられない)とも言われている(そのため、スペイン人でIOC前会長のサマランチ氏の息子であり、国際近代五種連合会長のサマランチ・ジュニア氏は、マドリッドの五輪開催を諦めるかわりに、近代五種競技をオリンピックに残してくれるよう、IOCの理事や委員に強く要望した、とも言われている)。
ならば……1回目の投票でマドリッドに「同情票」を入れるラテン系委員の心をつかみ、2度目の投票で、自らの都市への投票へと導いた都市(東京? イスタンブール?)が勝利する……と言えそう?……だが、1回目の投票でマドリッドへの「同情票」が増えすぎて……となると、1回目の投票結果で、早くも開催都市が決定……などということにもなりかねない。

東京有利……などと思ってると、どうせ東京はカタイから1度目はマドリッドに義理を果たして……という委員が増えて、1度目で落選……誰もが驚く中、2度目の投票でイスタンブールが……なんてことにもなりかねない。そうならないためには、ロビイ活動で富士山を、美保の松原も含めて世界文化遺産に導いた文化庁長官のような人物を、ロビイ活動の陣頭指揮に招きたいくらいだが……。

このようなIOC委員による選挙は、「自民党総裁選」に酷似している、とスポーツ議員連盟の代議士の方々は口を揃える。

つまり投票する人の「顔」が見え、考え方もわかり、家族構成や趣味もある程度わかっているなかで、直接説得できる選挙なのだ。

それだけに東京の招致委員会の方々は最後のツメを誤らないよう全力を尽くしてほしいが、これは現在の日本の外交力が評価される闘いとも言えそうだ。

とはいえ、ただオリンピックやパラリンピックの東京開催を勝ち取ればいい、というわけではない。その結果、日本のスポーツ環境が、本当に素晴らしいものにならなければ、せっかくの東京オリンピック&パラリンピックも、お祭り騒ぎだけで終わりかねない。

東京五輪が決定したら、必ずスポーツ庁ができる。しかし、高校野球は教育だから……と、高野連は、文科省の管轄に留まることを希望するかもしれない。高野連同様に、大マスコミに支配されてるプロ野球は、オリンピックをキッカケ二大マスコミの支配から離れることはできるのか……。

オリンピックは文科省、パラリンピックは厚労省という縦割り行政は、スポーツ庁の誕生によって、どのように解決されるのか……。全柔連の問題は、オリンピック招致によって「解決」へと導かれるのか……。日本の柔道が、国際的に発言力を増すようになれるのか……。そして、全国的に存在する「スポーツと体罰の問題」は、はたして……?

東京オリンピック・パラリンピック招致は、招致そのもの以上に、それらの問題の解決のために存在しているということを忘れてはならないだろう。

(毎日新聞7月6日付スポーツ面コラム「時評点描」+Camerata di Tamakiナンヤラカンヤラ + NBSオリジナル)
写真提供:フォート・キシモト