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佐野稔の4回転トーク 16~17シーズン Vol.①  4回転フリップを武器に、宇野昌磨が「3強」時代に名乗り

ライバルが脱落するなか、完成度の高い2種類の4回転ジャンプをあやつった宇野が、当然のごとく優勝

 今シーズンのGP(グランプリ・シリーズ)第1戦「スケート・アメリカ」は、宇野昌磨が自己ベストを更新する279・34点で優勝。SP(ショート・プログラム)、FS(フリー・スケーティング)のいずれでもひとつ、大きなミスがあったものの、2位のジェーソン・ブラウン(アメリカ)とは 10点以上の差をつけてみせた。シニア2シーズン目、これがGPシリーズ2勝目となった宇野ですが、少し大人っぽくなった表情を含めて、貫録すら感じさせる「完勝」でした。

最大の勝因は2種類の4回転ジャンプを、ひとり自在にあやつってみせたことです。昨シーズンの終わりに、宇野が「世界で初めて」成功させて話題となった4回転フリップですが、ひじょうに完成度が高かった。いくら昨シーズンの段階で習得していたとはいえ、新シーズンのスタート時点で、あれだけしっかり跳んでみせるというのは、それほど簡単なことではありません。

 SPでは出来栄え点がマイナス評価だったものの、4回転フリップは基礎点だけで12.30点。これは大きなアドヴァンテージになります。ひじょうに頼もしい武器を身に付けたものです。

 FSでは4回転ジャンプを3度、キッチリまとめてみせました。後半の4回転トゥ・ループ-2回転トゥ・ループも鮮やかでした。

今大会、最大のライバルと思われた金博洋(中国)が、優勝争いから早々と脱落。トゥ・ループとサルコウの2種類の4回転ジャンプを持つマキシム・コフトゥンも、SPが終わったところで最下位に沈んでいた。4回転ジャンプを2種類跳ぶ選手がほかにいなかったことも、宇野の追い風になりました。

いまや1種類の4回転ジャンプでは、世界の頂点に立てない時代です。FS、SPあわせて、2種類の4回転ジャンプを最大6度跳べるのか。ましてや、このままの流れだと、平昌(ピョンチャン)五輪のある来シーズンには「3種類の4回転を計7度」が、金メダル獲得の条件になる可能性だってあります。

羽生、フェルナンデスに続く「300点超え」の可能性も…

SPでは、前半の4回転トゥ・ループ-3回転トゥ・ループのコンビネーションジャンプの着氷で転倒。FSでも終盤の3連続ジャンプに失敗はしたものの、どちらのミスも致命的な技術面の欠点があったワケではありません。おそらくちょっとした心の揺れに拠るもので、さほど心配をする必要はないでしょう。

 もしもSP、FSのどちらもノーミスで演技を終えたなら、間違いなく「300点」超えるプログラムです。羽生結弦、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)に続く、史上3人目の「300点超え」候補に、宇野昌磨が名乗りをあげた。そう言って差し支えないでしょう。

 GPシリーズ第2戦となる今週末の「スケート・カナダ」には、羽生結弦が出場します。今月初めのオータム・クラシック終了後のインタビューで「次の試合は絶対にノーミスでやります。そうじゃなきゃ羽生結弦じゃない」と宣言しているところに、今回の宇野の優勝です。羽生の負けず嫌いに火を点ける、格好の材料になったはずです。また、次に宇野が出場するGPシリーズは11月の「ロステレコム杯(ロシア大会)」ですが、ここにはハビエル・フェルナンデスも出場の予定で、直接対決が実現します。

昨シーズンの男子フィギュアは、羽生とフェルナンデスの「2強」を中心に展開されました。18歳の若武者・宇野昌磨が、ふたりの牙城にどこまで迫るのか。「3強」時代の到来となるのか。ひじょうに楽しみな、今シーズンの注目ポイントです。

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉