「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(155)“パラスポーツのこれから”に大きな刺激! 史上初の「オリンピック・パラリンピック合同パレード
2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が13年秋に決定して以降、日本におけるパラスポーツを取り巻く状況が大きく変化しています。10月7日に東京・中央区で行われた、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピック日本代表選手団合同パレードも、そうした変化の一つでした。両大会のメダリスト計87人が参加して銀座8丁目交差点から日本橋室町までの約2.5キロのルートをパレード。沿道には約80万人の観衆が訪れましたが、実はオリンピックとパラリンピック合同で行われたのは今回が初めてのこと。日本のパラリンピック史にとって大きな一歩であり、パラリンピック選手をはじめ、パラスポーツに関わる人たちを強く勇気づけた出来事になりました。
パレードの終着点、日本橋室町でも観衆が大歓声で選手を迎えた。パラリンピック3号車には立位選手(視覚障がい者や義手・義足選手など)のメダリストが集合
パレード車に乗った選手たちは誰もが弾ける笑顔で、精一杯大きく手を振って声援に応え、「ありがとうございます」と感謝の言葉を口にしていました。パレード後に会見に立った車いすテニスの銅メダリスト、上地結衣(かみじ・ゆい)選手は、「自分の名前を呼んでくださる方もいて、すごく楽しく、2.5キロはあっという間だった」と振り返り、今大会個人最多4個(銀2、銅2)のメダルを獲得した全盲のスイマー、木村敬一選手は、「声援の大きさで、たくさんの応援をいただいたことを実感できた。オリンピック選手と同じように扱ってもらえて嬉しかった」と話していました。パラ選手たちにとって、「日本代表選手」としての誇りを改めてかみしめた時間になったことと思います。
また、声援に応えながら、その責任と期待の重さも実感し、20年大会に向けての決意を新たにした時間にもなったようです。「東京までの4年間はもう始まっているので、1日1日を大切にし、『パラスポーツが面白い』ということをもっと皆さまに伝えられるように頑張っていきたい」と意気込むのは、陸上の銅メダリスト、辻沙絵選手。また、ウィルチェアー(車いす)ラグビー史上、初のメダルを獲得した、池透暢(ゆきのぶ)選手は、「銅メダルという結果はウィルチェアーラグビーの歴史には一つ、名を刻んだことになるが、これからはメダリストとして社会人として努力をつづけ認められ、パラスポーツ選手は素晴らしいと言っていただけるような人材になりたい」と語っていました。
パレードの会見の様子。左から、パラリンピック代表の、木村敬一選手(水泳)、辻沙絵選手(陸上)、上地結衣選手(車いすテニス)、オリンピック代表の伊調馨選手(レスリング)、内村航平選手(体操)、萩野公介選手(水泳)
このパレードはオリンピアンにもよい気づき、刺激になったようにも思います。例えば、パレードに先立って虎の門ヒルズ(港区)で行われた「出発式」で、オリンピック選手代表の吉田沙保里選手(レスリング)は、「今回は初めてオリンピック・パラリンピックと合同のパレードということで、本当に普段交流ができない選手たちと同じチーム・ジャパンとして一緒にパレードをすること、できることを大変うれしく思う」とコメント。また、パレードを生中継したNHKの番組内で、ゲストの室伏広治さんも、「今回のパレードのポイントは、合同で行えたこと」と話しました。今後は練習環境や指導体制などでも交流が進んでいくことを期待したいです。
「チーム・ジャパン」として一致団結する姿勢は、20年大会への機運を高めることにも大切なことでしょう。今回のパレードも、パレード車はオリンピック選手用3台、パラリンピック選手用3台(うち2台は車いすが固定できる特別仕様車)の計6台で行われました。オリンピック選手目当てで沿道に来て、「パラリンピックもこんなにメダリストがいるんだと知った」という方も少なくありませんでした。オリンピックと同等の扱いは、まだまだ認知度の低いパラリンピックやパラスポーツにとって、アピールの大きな機会になったと思います。
パラリンピック1号車には銅メダルを獲得したウィルチェアーラグビーの12選手が乗車。車いすが固定できる特別仕様のトレーラーが使われた。2号車も車いす仕様車だった。
メダリストパレードは4年前の12年ロンドン大会にも銀座で行われ、約50万人を集め話題になりましたが、実はパラリンピックの開催前に行われ、オリンピック選手だけの参加でした。パラリンピック選手や関係者はとても残念な思いをしたのですが、その思いにはロンドン大会を開催したイギリス選手団「チームGB(ジービー=Great Britten)」の状況も影響していたのではないかと思います。
というのは、イギリスはパラリンピック閉会式の翌日まで開催を待ち、オリンピアン、パラリンピアン合同でパレードを行いました。しかも、メダリストだけでなく、「チームGB」として選手は基本的に全員、ほかにスタッフやボランティアの代表も、共に行進するという、「大パレード」を行ったのです。
しかも、現地で取材しながらパレードを見守っていた私を感動させたのは、「合同パレード」が真の意味での「合同」だったことです。それは、オリンピック選手とパラリンピック選手が分乗するのではなく、「Swimming」車には両大会の水泳選手が同乗し、「Volleyball」車にはバレーボールとシッティングバレーボールの選手が同乗するというもの。まさに、「共生社会」がそこにあったのです。
2012年ロンドンでの合同パレードの様子。写真は「Swimming車」で、オリンピアンと車いすのパラリンピアンが並んで観衆に手を振る。
さて、「チームGB」はリオ後のパレードはどうしたのだろうと思って調べてみたら、「合同」での実施予定はもちろんのこと。なんと今日17日にはマンチェスターで、明日18日にはロンドンでと2日間連続での開催へとバージョンアップしていたのです。観衆は? 熱狂は? 選手の表情は? いったいどんなパレードになるのでしょう?
日本も4年後に東京大会を控えます。ぜひ、「チーム・ジャパン」としての大パレードを観たいですし、そのためにもパラ選手たちにはぜひ、一層の奮起を期待したい。そして私も、認知度アップに少しでも貢献できるよう、がんばっていきたいと思います。
(文・写真: 星野恭子)