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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (152) 南米初のパラリンピック、リオ大会が開幕。序盤戦、日本のメダルは銀1、銅4

百聞は意見に如かず……。9月7日、障がい者スポーツの祭典、パラリンピック大会がブラジル、リオデジャネイロで開幕しました。15回目にして初となる、南米大陸での開催となります。開幕前には、治安や会場の設備問題、予算不足による運営規模の縮小、さらには国ぐるみでのドーピングによるロシア代表団の締め出しなどなど、さまざまな課題が山積し、開催自体が不安視されることもありました。

でも、始まってしまえば、そんな不安はどこ吹く風。開会式はほぼ満席となり、「限界なき心」をテーマにした演出は大きな感動がありました。そして、大会12日間のうち、あっという間に5日目が終わろうとしています。開会式直前の会見で、国際パラリンピック委員会(IPC)のフィリップ・クレイブン会長も、「開幕2週間前に我々は、前例のない事態に直面していた。そして、以来、前例のないチームワークを目の当たりにしている」とコメントしたように、大会は無事に開幕し、今のところ、大きなトラブルや事故、事件などはなくほぼ予定通り、大会は進行しています。

それは、「ブラジルの国民性のなせるワザ」のおかげかも知れません。例えば、運営予算不足から、大幅に減ったというボランティアですが、必要最小限の配置でなんとか運営されています。陽気で明るい姿には、日本とは一味違う、「おもてなし」の心を感じます。声をかければ、もれなく笑顔がついてくるし、一生懸命です。また、音楽のある環境ではリズムを刻んだり、時にはダンスをしたり。こちらまでつられて、体がウキウキしてきます。

もうひとつ素晴らしいのは観客です。お祭り好きの国民性もあって、盛り上げるというよりは、自ら盛り上がるのが上手です。観客席から自然発生的にウエーブが起こり、ほおっておくとエンドレスに続きかねません。また、一人ひとりが目いっぱい声を出すので、たとえ少ない人数でも地鳴りのような大音響。ブラジル選手に対する大騒ぎはもちろんですが、外国選手への拍手や声援も惜しみません。例えば陸上競技場では、最終走者へのエールがひときわ高く響きます。こうした「リオの声援」については、12年ロンドン大会で「満員の会場」でプレイ経験のある選手たちをもってして、「ロンドンよりスゴイ!」と言わしめるほどです。

しかも、開幕直前まで予定の2割程度と伸び悩んだチケット販売が、オリンピック閉幕前後から急上昇カーブを描き、9日午前中時点で全体の7割を超える180万枚に達したそうです。08年北京大会の170万枚を上回りました。実際、10日、11日は週末だったこともあり、チケット売り切れの会場もあったようです。

この状況は、オリンピックでスポーツ観戦の楽しさを知り、パラリンピックでも楽しもうと思うようになったからとか、課題の多かったオリンピックをなんとか無事にやり遂げたこと国民に自信が芽生え、パラリンピックでももう一度という意識からだとか、いろいろ理由は挙げられています。平日は授業の一環なのか子どもの集団もたくさん見かけたし、週末は家族連れも多く、老若男女皆がパラリンピックを受け入れ、心から楽しんでいる様子がうかがえます。

楽しそうな笑顔は、周囲の人も笑顔にしてくれます。これから後半戦に向けて、チケットも完売に近づいていくと思われますし、「地鳴りのような大音響」もますますボリュームアップして、笑顔もどんどん広がりそうです。

とはいえ、あまりに自分が楽しみすぎて、選手そっちのけになっているところも見られます。例えば、陸上競技ではスタート直前でも大声援が収まらず、「シ~」という注意があったり、視覚障がい者のための球技、ゴールボールでは鈴入りのボールなど「音を頼りに」プレイするのに、観客の声援でプレイに支障が出てクレームになった試合もありました。国技であるサッカー観戦のマナーが染みついているのかもしれませんが、競技ごとに観戦マナーは身に付けることはスポーツ観戦には欠かせません。「観戦マナーを守ったうえでの大歓声」。東京に向けた一つのヒントではないでしょうか。

とにかく、観る!

さて、私はこれまで、陸上競技、水泳、ゴールボール、車いすバスケットボール、柔道、自転車、ボッチャ、トライアスロンの会場に足を運んでみました。全22競技中8競技なので3分の1強ではありますが、どの会場でもただ歓声だけでなく、好プレイは歓声で称え、接触や転倒には温かい拍手で励ます。そんなシーンが当たり前のように見られます。

パラリンピックをそのまま受け入れ、スポーツとして純粋に楽しんでいるように感じられるのです。言葉が通じにくいので、ちゃんと取材できたわけではありませんが、そこには「パラリンピック」とか「障がい者のスポーツ」とか、そんなことは端からおかまいなし。ルールだってよく知らないけど、ただ面白いから見て楽しんでいる、という雰囲気です。難しいことはあまり考えず、「スゴイことはスゴイ」「楽しいことは楽しい」と、屈託なく驚き、笑っているのです。

さて、この原稿を書き終える頃、嬉しいニュースが聞こえてきました。脳性まひや四肢まひなど比較的重い障害のある人を対象に考案された球技、「ボッチャ」で、日本代表が混合団体戦準決勝でポルトガルに勝利し、「銀メダル以上が確定」したというのです。

ボッチャでのメダル獲得は日本としては初の快挙です。北京で10位、ロンドンで7位入賞と着実にステップアップ。リオでのメダル獲得を目指し、地道に強化してきた結果、昨年頃から国際大会でも上位に食い込むようになり、ついに今年6月には世界選手権で初優勝を果たしています。自信をもってリオに臨んだと聞いていますが、そこできっちり結果を出すのはけして簡単ではないはずです。

ボッチャも奥の深い競技です。カーリングに似たスポーツですが、まだなじみの薄い競技のはず。障がいの重い選手たちがどのようにプレイするのかなど、疑問に思うことも多いことでしょう。私もいずれまた機会をみてお伝えできたらと思います。ともかく、リオでのボッチャ決勝戦は日本時間13日朝7時半にスタート予定。強豪タイとの一戦です。もしテレビ放送などがあったら、いい機会なので、ぜひご覧ください。リオの観客たちを見て実感していますが、まずは見ることが大事。単純に面白さや難しさを体感るだけで、興味も広がっていくはず。ルールや戦術の理解はそのあとでも。

まだ知らないことが多すぎるパラスポーツには、「百聞は一見に如かず」の姿勢が大事。せっかくの機会なので、ぜひチャンスがあれば、リオ大会をご覧ください。2020年東京大会を盛り上げ、自分自身も盛り上がれる、大きな一歩となるはずです。

<日本代表のメダル獲得状況>

■大会2日目(9月8日)
・柔道男子60キロ級 廣瀬誠選手 銀メダル 
→アテネ大会銀メダル以来、3大会ぶりのメダル
・柔道男子 66キロ級 藤本聰 銅メダル
→アトランタからアテネまでパラリンピック3連覇、北京では銀。悔しい代表落ちのロンドンから見事な復帰!
・水泳男子 100メートル背泳ぎS14(知的障がい) 銅メダル
→ロンドン(6位)のリベンジ達成

■大会3日目(9月9日
・柔道女子 57キロ級 広瀬順子 銅メダル
 →初出場で初メダル獲得。日本柔道女子にとってもパラリンピック初メダル

■大会4日目(9月10日)
・柔道男子 100キロ超級 正木健人 銅メダル
→ロンドン金につづく、2大会連続メダル

<参考>
■テレビ放送
・NHK Rio 2016パラリンピック: http://www.nhk.or.jp/paralympic/
・スカパー! Rio 2016 Paralympic Games: http://www.skyperfectv.co.jp/special/rio/

■大会情報サイト
・日本パラリンピック委員会 
特設サイト: http://www.jsad.or.jp/paralympic/rio/index.html
・日本財団「パラサポ」 
特設サイト: http://games.parasapo.tokyo/rioparalympic/

■大会ライブストリーミング (英語解説あり)
・国際パラリンピック委員会 公式サイト: https://www.paralympic.org/

(文・写真: 星野恭子)