「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (149) リオ・パラリンピック、ここに注目!~(1)個人競技篇
メダルラッシュで盛り上がるリオ・オリンピックですが、あとにつづくパラリンピックも見どころ満載です。今大会に向け、NHKが生中継も含み、過去大会より放送枠を拡大して中継予定。また、衛星放送のスカパーが24時間専門チャンネルを開局して日本人選手出場競技を中心に生中継などを予定しています。ぜひ、じっくり試合を観戦し、パラスポーツの面白さを発見、堪能してもらえたらと思います。
そこで、今号と次号の2回にわたり、注目競技の簡単なルールや見どころなどをご紹介します。今号は、個人競技篇です。まずは花形競技の陸上競技を紹介しましょう。肢体不自由、脳性まひ、視覚障がい、知的障がいなどが対象となるため、できるだけ公平に競技ができるよう、障がいの種類や程度別に「クラス分け」されます。クラスはT(競争・跳躍種目)かF(投てき種目)と数字の組み合わせで表され、数字は小さいほど障がいが重くなります。ルールは一般の陸上競技とほぼ同じですが、各障がいの特性を考慮して一部ルールが変更されています。例えば、義手・義足や競技用車いす「レーサー」の使用が認められ、視覚障がい選手は「目」の代わりとなるガイドやコーラーと競技します。
リオ大会ではトラック種目とフィールド種目、マラソンを含めた男子96、女子81の計177のメダル種目が実施予定です。ちなみに、100m走は男子16クラス、女子14クラスが予定されています。つまり、クラス別に30人の金メダリストが誕生します。
日本代表は男子20名、女子16名の計36選手です。前回ロンドン大会では同じく36選手で銀メダル3個、銅メダル1個を獲得しており、さらなる躍進が期待されています。筆頭は、男子走り幅跳びのT42クラス(大腿切断など)に出場する左脚大腿義足の山本篤選手です。世界選手権で2連覇し、世界記録に10cmと迫る日本記録(6m62)をもち、金メダル有力候補です。ただし、この種目は大混戦。山本選手をはじめ強豪選手が今年に入って世界記録を次々塗り替えるハイレベルな戦いを展開しています。7月末時点ではハインリッヒ・ポポフ(ドイツ)選手が世界記録(6m72)を持ち、ダニエル・ワグナー(デンマーク)選手が6m70で続きます。リオでの3つ巴の戦いが今から楽しみです。
走り幅跳びは男子T44(片下腿切断など)も注目です。オリンピック出場も期待された、右脚膝下義足のマルクス・レーム(ドイツ)選手が出場します。彼の8m40の世界記録はすでに終了したリオ・オリンピックの金メダル記録8m38を上回っています。大舞台でのパフォーマンスに注目です。
車いすのトラックレースも、障がいの重い順にT51から4クラスあり、100mから5000mまで実施種目も多く、迫力、スピード感ともにパラリンピック特有の面白さがあります。特に障がいが最も軽いT54クラスは注目で、トレードマークの銀色のヘルメットにちなみ、“シルバー・ビュレット(銀の弾丸)”の異名をとるスイスのスター、マルセル・フグ選手や台頭著しいタイの各選手に、日本の中長距離のエース樋口政幸選手や、7度目のパラリンピックとなるベテランのスプリンター永尾嘉章選手らの日本勢の戦いぶりにも注目です。
大会最終日にまとめて行われるマラソンは日本選手のメダル量産に期待です。女子車いすマラソンでは夏冬合わせパラリンピック7大会連続出場の土田和歌子選手が悲願の金メダルを狙います。男子は海外の強豪勢に日本記録(1時間20分52秒)をもつ洞ノ上浩太選手らが挑みます。
視覚障がいクラスの男子は2015年世界選手権銅メダリストの堀越信司選手や日本記録(2時間24分42秒)保持者でロンドン大会(12年)4位の岡村正広選手の快走に期待です。リオ大会で初採用となる女子は、日本記録(2時間59分21秒)保持者で2015世界選手権銅メダリストの道下美里ら日本から3選手が初代女王の座に挑みます。
残存機能をいかしてつくりあげた個性豊かなフォームに注目~水泳
水泳もパラリンピックでは機能障がい、視覚障がい、知的障がいが対象です。選手は腕や脚がなかったり、体に麻痺があったり、その障がいはさまざまですが、補助具などの使用は認められず、ありのままの姿で持てる機能を存分に生かした多様なフォームで泳ぎます。陸上競技と同じく、選手が公平に競えるよう、障がいの程度や運動機能によって細かくクラス分けされ、クラスごとにメダルを競います。
基本のルールは一般の水泳と同じで、クラスごとに一番早くゴールした選手が勝ちとなりますが、クラスによって特別なルールも認められています。例えば、下半身が不自由で飛び込み台からのスタートが難しい選手は水中からのスタートが認められます。また、手指の形状や握力などの関係でスタート台のグリップを握れない場合は、替わりに補助ベルトを使ったり、片手で握ったり、紐やタオルを口でくわえたりして体を支えます。
視覚障がいクラスで最も障がいの重い選手は公平に競技するため、光を完全に遮る黒塗りのゴーグル(ブラックゴーグル)を使用しなければなりません。そのため、選手は壁の位置を確認できないので、コーチがターンやゴールの直前に棒(タッピングバー)で選手の身体にタッチすること(タッピング)で壁の接近を知らせて衝突を防ぎます。タイミングや叩く強度などが勝敗にも影響するので、練習で磨いてきたコンビネーションも見ものです。
リオ大会には日本から男子12名、女子7名の19選手が出場します。峰村史世監督によれば、目標は計8個(金2、銀2、銅4)のメダルを獲得した「ロンドンパラリンピック以上の成績」です。連続出場のベテランから伸び盛りの若手まで多彩な顔ぶれで挑みます。
注目の一人は、パラリンピック3大会連続出場となる、視覚障がいクラスの木村敬一選手です。5種目にエントリー予定ですが、特にロンドン大会でメダルを獲得し、昨年の世界選手権では優勝を果たしている100m平泳ぎとバタフライで悲願の金メダルを目指します。
もう一人は、アトランタ大会(1996年)から4大会連続出場し、計20個(金15、銀3、銅2)のメダルを獲得し、“水の女王”の異名をとる大ベテランの成田真由美選手です。脊髄炎による四肢麻痺で、日常生活では車いすを使用する機能障がいクラスの選手です。北京大会(08年)後、一度現役引退しましたが、昨年復帰し、7月に行われた国内大会では50mと200mの自由形で日本記録を更新するなど、いまなお進化中。個人4種目に、若手選手と組むリレーでも活躍が期待されています。
個人競技としては他に、車いすテニスや自転車競技などもメダルの期待大です。パラリンピックは普段なかなか見られないパラスポーツを観戦できる、またとないチャンス。ぜひ、ご注目ください。
(文: 星野恭子)