「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」 (146) 3,000人以上が来場! ブラインドサッカー日本選手権が示した、「パラスポーツの可能性」
3000人以上の観客で埋まった、「第15回 アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権」決勝戦の観客席
特に、7月11日付のこちらの記事 でもお伝えしましたが、同選手権では決勝戦と3位決定戦に限り、障がい者スポーツの国内大会では珍しい「有料席100席」を設けるという挑戦も試みたところ、前売りで完売しています。実際、有料席の観客数名に声をかけたところ、「ブラインドサッカーをニュースで見て、一度見たかったから」と埼玉県から来たという老夫婦や、「友人からチケットをプレゼントされたが、想像以上に迫力があった。今度は決勝だけでなく、他の試合も観たい」という都内の若者。あるいは、「新聞で『初の有料席』と知ってきてみたが、見ごたえがあった」という横浜在住の男性など、「お金を払ってみるパラスポーツ」の可能性も示した大会だったと思います。
観客増について、日本におけるブラインドサッカー黎明期からの“サポーター”、日本障がい者サッカー連盟(JIFF)の北澤豪会長は、「日本代表のリオ(パラリンピック)の出場がかなわなかったのは残念だが、(ブラインドサッカー人気は)途絶えてはいないと感じた。日本のスポーツは出場権を逃すと、注目度が下がるものだが、そうならなくてよかった。代表選手だけでなく、日本選手権だったり、普段のリーグ戦だったりに広がりを持たせていかないといけない。今の強化と先々の普及をどのようにするかを考えなければ、2020年がゴールで終わってしまう」と今後へのさらなる広がりを期待していました。さて、そんな多くの観客が見守った今大会ですが、1日目の予選ラウンドを経て2日目には順位決定戦が行われ、15チームの頂点に立ったのは日本代表の川村怜主将や佐々木ロベルト泉らを擁するAvanzare(アヴァンツァーレ)つくばでした。大会4連覇の偉業達成となったのですが、同じく日本代表の落合啓士が所属するbuen cambio yokohama(ブエン・カンビオ・ヨコハマ)を2-0で下した決勝戦は見ごたえのある一戦でした。
「第15回 アクサブレイブカップブラインドサッカー日本選手権」決勝の熱戦を見守る観客たち】試合は開始からAvanzareが立て続けに攻め、yokohamaが体を張って守るという緊張感ある状況で進みますが、前半5分、Avanzareのストライカー、田村友一がゴール前の混戦から押し込んで先制。さらに15分には佐々木がドリブルで持ち込んだボールを、田村が仕留めて加点。リードを広げます。
後半も息詰まる展開がつづきます。追加点こそならなかったものの、日本代表のエース、川村が豪快なシュートでyokohamaサイドを何度もひやりとさせ、一方のyokohamaも落合らがゴールを狙い、晴眼選手の阿部良平らが気迫あふれる守備を見せました。また、決勝戦の前に行われた、松戸・乃木坂ユナイテッドとたまハッサーズの顔合わせとなった3位決定戦は互いに譲らない守備合戦となり、0―0で終了。PK戦に突入する熱戦となりました。1人目は両チームとも外し、先攻のたまハッサーズ2人目、晴眼選手の中尾拓実がゴール右に決めます。松戸・乃木坂ユナイテッドの2人目、日本代表の佐々木康裕のシュートは左ポストに当たりゴールならず。この結果、たまハッサーズが3位となりました。
ブラインドサッカーの場合、選手は見えない状態なのでPKの際も大きな助走は取りにくく、多くの選手は片手で抑えるようにしてボールの位置を確かめ、低い姿勢から片脚を振り抜いてボールをとらえるといった独特のシュートを放ちます。ゴールの枠を正確に狙うシュート力やキーパーとの駆け引きが見どころです。両チームの攻防は固唾をのんで見守った多くの観客を楽しませたことと思います。スポーツはやはりプレイの質が観客への最大のアピールです。そして、そんなプレイの数々をまずは観てもらい、「面白い」と思ってもらうことの積み重ねがパラスポーツを根付かせるには不可欠です。そういう意味で、「有料席」を設け話題をつくったことも有意義な挑戦だったし、観客を唸らせるいいプレイを“魅せる”ことができた今大会は、パラスポーツの今後に向けて大きな足跡を残した大会だったと思います。
(文・写真: 星野恭子)