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パラスポ・トピック (23) リオ代表推薦へ向けて、最後のアピール。 パラ陸上国内最終選考大会が閉幕。(星野恭子)

リオ・パラリンピック開幕まであと3カ月となり、代表選手選考も大詰めを迎えるなか、6月4日と5日には新潟市で、「ジャパンパラ陸上競技大会」が開催されました。「リオ代表選手最終選考会」を兼ねており、約300選手が「世界最高峰の舞台」をめざし、自身の限界に挑みました。

23_01 6月3日行われた開会式より。左から、T54(車いす)永尾嘉章選手(ANAOR.A.C.)、T47(上肢切断など)辻沙絵選手(日本体育大学)と三須穂乃香選手(同)、T42(片大腿切断など)山本篤選手(スズキ浜松AC)。新潟県出身の三須選手が、「日ごろの練習の成果を十二分に発揮し、パラリンピック出場を目指し正々堂々最後まで諦めず、戦い抜くことを誓います」と力強く選手宣誓

実は、陸上競技のパラリンピック日本代表選手の選考は、少々複雑なプロセスをたどります。国際パラリンピック委員会(IPC)が一定の条件(*)によって「各国に割り当てる参加資格枠数」に応じ、日本パラ陸上競技連盟、日本知的障害者陸上競技連盟、日本盲人マラソン協会の3団体が「代表推薦選手」の選考を協議し、日本パラリンピック委員会(JPC)に推薦し、最終的にJPCが派遣選手を決定します。

(*)参考資料: 日本パラ陸上競技連盟発表「参加資格枠の割り当てについて」
http://jaafd.org/pdf/03-1/rio2016_info1.pdf

この「推薦選手」に入る基準としては、まず、昨年の世界選手権の金、銀メダル獲得選手のほか、選考対象大会で参加標準記録を突破した選手のなかで、さらに世界ランキング上位の選手となります。「上位」とは世界5位前後となるとみられ、かなり高い目標となっています。

しかも、IPCがこの「割り当て枠数」を確定し、各国に通知するのがギリギリなるのが通例であり、今年も大会まで3カ月を切った今でも、まだ確定通知がないようです。

そのため、“ボーダーライン”上にいる選手は、「とにかく記録を伸ばし、ランキングを上げておく」ことが今大会での大目標だったわけです。そのため、ミックスゾーンでも、「自己ベストは更新したが、ランキングを上げるまでの記録じゃない。悔しい……」といった複雑な表情の選手も少なくありませんでした。パラリンピックレベルの高さと厳しさを改めて実感しました。

そんな張り詰めた戦いが繰り広げられた今大会を少し振り返ってみましょう。世界選手権の走り幅跳び金メダルで推薦内定を得ている、T42クラス(片大腿切断など)の山本篤選手(スズキ浜松AC)は6m49の好記録で快勝。5月に樹立した6m56の世界記録はすでにデンマーク選手の6m67により塗り替えられたものの、「あと3カ月。見えた課題を克服すれば、6m70から80は狙える」と力強くコメント。

同じく推薦内定を得ているT52(車いす)の佐藤友祈選手(WORLD-AC)は、400mを58秒20の自己新で制し、「リオに向けて、いい手ごたえを得られた」と自信にあふれる笑顔を見せてくれました。

マラソン代表入りとして推薦1位に内定しているT12(視覚障がい・強度弱視)の堀越信司選手(NTT西日本)は昨年秋から体調不良や故障などで途中棄権のレースが続いていましたが、リハビリを経て復帰。今大会は5000mで15分11秒05の大会新で優勝し、「安心した」と順調な調整をうかがわせました。

23_02 5000mで快走し、故障からの回復ぶりを披露した堀越選手

また、T42女子100mでは大西瞳選手(ヘルスエンジェルス)が日本人で初めて17秒の壁を破る16秒90のアジア新記録で優勝し、初のパラリンピック代表入りに向けて大きくアピール。「ずっと目指してきた16秒台。リラックスして臨めたのがよかった」と喜びを語りました。とはいえ、走り幅跳びは3m52で日本記録を更新したものの、「世界ランキングを上げられる記録までいかなかった・・・」と悲喜こもごもな表情。

23_03 T42女子100mで競り合いを制し、アジア新をたたき出した大西瞳選手(右)。となりは前川楓選手、左は村上清加選手

そして、T47(上肢切断など)女子の短距離代表を目指す辻沙絵選手(日本体育大学)は、日本記録を更新した200m(27秒38)も含め、100メートル(12秒96)と400m(1分0秒34)も制して三冠となったものの、特にリオでのメダル獲得に近い400mで、「目標タイムには届かなかった」と悔しさをにじませました。両選手の言葉や表情に、「アスリートとしてより高みを目指す」意識の高さを感じますが、そんなシーンが今大会では多かったように思います。

このように、パラリンピックの普及、拡充に伴い、開催回を追うごとに、「代表選手への道は狭く険しいもの」になっています。なかでも陸上は、対象とする障がいが大きく分けても、車いす、義手・義足、視覚障がい、知的障がいなどがあり、さらに各選手の障がいの程度も多種多様です。そのため、できるだけ公平に競技ができるように各選手を障がいの種別と程度ごとに「クラス」に分けて競技を行っています。

例えば、リオ大会で実施予定の100m走は、男子で16クラス、女子で14クラスあります。仮に、トラック種目、フィールド種目ともすべての障がいクラスを実施すると、「膨大なレース数」となってしまうので、パラリンピックでは競技人口やレベルなどが加味され、実施するクラスを絞って行われる種目がほとんどです。例えば、5000m走なら、男子で3クラス、女子で1クラスだけが予定されています。

さらに、実施クラスは大会ごとに多少変動があるので、パラリンピックに出場するため、4年に1度、専門種目を変える選手もいます。「本当は砲丸投げが得意だけど、次のパラリンピックでは自分のクラスは実施されないことが決まったので、円盤投げに挑戦することにした」といった話を選手から聞くことも少なくありません。障がい者選手数は世界的にみても人数に限りがあるため、実施クラスの調整は仕方ないことかもしれません。でも、選手にとってはなかなか複雑で、シビアな「ハードル」でもあります。パラリンピックは簡単には出られない、高くて貴重な舞台なのです。

さて、こうしたプロセスを経て、「代表推薦選手」が競技団体から発表されるのは6月下旬から7月にかけての見込みです。すでに推薦内定を得ている選手以外にとっては、まさに、「人事を尽くして天命を待つ」状態です。さまざまな「ハードル」を乗り越え、「代表推薦権」を手に入れる選手がどんな顔ぶれになるのか、私自身もドキドキです。発表されたときには改めて、こちらでリポートし、リオ大会での展望などをお伝えできればと思っています。

(文・写真:星野恭子)

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