パラスポ・トピック (2) 「金メダル2個は最低目標」 パラサイクリングのリオ代表候補選手たち(星野恭子)
リオデジャネイロ・パラリンピック開幕まで4カ月を切り、「日本代表候補選手」が続々と決定しています。パラリンピックの場合は、各競技団体が選んだ日本代表候補選手を日本パラリンピック委員会(JPC)に推薦し、書類選考や健康診断などを経てJPCが正式に「代表選手」を決定して発表するというプロセスがあるため、現時点で各競技団体から発表されるのは、あくまでも「代表候補としてJPCに推薦する選手」となります。全競技団体からの推薦手続きが終わり、JPCが最終選考を経て日本選手団として正式発表するのは、6月後半から7月中になる見込みです。
そんななか、5月13日には日本自転車競技連盟により、パラサイクリング競技のリオ・パラリンピック代表候補選手5名が発表されました。パラサイクリングは、障がいの種類と使用する機材によって大きく4つに分かれ、さらに障がいの程度などによって細かくクラス分けされていますが、今回、代表候補として選手されたのは、Cクラス(切断・機能障害など/二輪自転車)に男子3選手とBクラス(視覚障がい/タンデム車)に女子1選手とパイロット(晴眼者)の2名です。
リオ・パラリンピック日本代表候補選手に選ばれた、パラサイクリング選手たち。左から、川本翔大選手、藤田征樹選手、石井雅史選手、鹿沼由理恵選手、田中まいパイロット
選考基準については、UCI(国際自転車連盟)主催の国別ランキング対象大会におけるポイント獲得上位選手であることや、そのほか指定大会での成績などを比較検討し、リオ大会で「入賞以上が見込める選手」としたことを、リオでの代表監督を務める権丈泰巳(けんじょう・たいし)日本パラサイクリング連盟理事長が説明しました。
では、選考された選手を一人ずつ紹介します。まず、C2クラスの川本翔大(しょうた)選手(大和産業)。左脚太腿切断の選手ですが、義足は付けず、右脚一本でペダルを漕ぎます。今年の世界選手権で1kmタイムトライアルと3km個人追い抜きでそれぞれ11位に入り、そのタイムが昨年の世界選手権10位のタイムを上回ることなどから入賞が期待されるとして選出されました。
実は、川本選手の自転車競技歴はわずか半年。昨年高校を卒業したばかりの19歳で、生後まもなく発症したガンの治療のため左脚を切断。ずっと松葉づえで生活し、障がい者野球の日本代表も経験した運動神経の持ち主。昨年、パラリンピック競技体験会で権丈理事長と出合ったことで自転車競技を始めると、「走るたびにタイム短縮」するなど急成長。自分の強みは、「限界が見えないこと。本番までにもっと力をつけたい」と話し、「(パラリンピックは)初出場になるが、自分の力を十分に出してがんばりたい」と初々しくも、しっかりと抱負を述べました。
つづいて、C3クラスの藤田征樹選手(日立建機)は大学生で交通事故により両足を太腿から切断。事故前からつづけていたトライアスロンから自転車に専念してパラリンピックを目指し、2008年北京大会に初出場。銀2、銅1を獲得し、ロンドン大会でも銅1個を獲得しています。その後も、2015年ロード世界選手権ロードレース優勝を筆頭に、世界トップクラスの実力を維持しつづけ、出場枠獲得ポイントも最多と、文句なしの選出となりました。
藤田選手はロンドン大会はメダルを獲ったとはいえ、世界との差を見せつけられたと感じ、リオでのリベンジを胸に、この4年間、しっかり準備してきたといいます。目標通り無事に、正式に候補選手に名を連ね、「やはり胸が高まっている。日本代表としてのプレッシャーと誇りをかみしめて、今回は優勝を目指して、見ていただく人にワクワクしてもらえるようなパフォーマンスを行うことを自分に課して頑張りたい。ご注目ください」と力強く宣言しました。
藤田選手の魅力はスプリント力と大舞台でもしっかり発揮できる、勝負強さです。また、競技専用義足の開発にも関わっており、担当の義肢装具士と二人三脚で改良を重ね、自転車と美しく融合し、より効率よくペダルに力を伝えることを目指した義足も見どころです。
男子3人目は、C4クラスの石井雅史選手(藤沢市みらい創造財団)です。競輪選手として活躍していたものの、交通事故により高次脳機能障害を負い、パラサイクリングに転向した石井選手。記憶障がいや麻痺などを抱えながら、北京パラリンピックでは、金、銀、銅の計3個のメダルを獲得。ロンドンは6位に終わりましたが、これで3回目のパラリンピック代表候補となります。
43歳の石井選手は、「パラ競技を始めて今年で10年。リオを集大成とし、入賞、そしてメダルを目指したい」と話します。事故による絶望から、選手として再び希望へと導いてくれたパラサイクリングへの感謝の思いは強く、個人として「悔いを残さず、全力をぶつける覚悟」であり、また、日本チームとして好成績を収めることで、「こちらからスカウトするのではなく、自転車をやってみたいと申し出てもらえるよう」未来に向けた新人選手の発掘にもつなげたいと、最年長ならでは意気込みを語りました。
女子では、Bクラス(視覚障がい)の鹿沼由理恵選手(楽天ソシオビジネス)と、目の代わりとなるパイロット、田中まい選手(日本競輪選手会千葉支部)が選ばれました。2人乗り自転車の前の席に乗り、舵を担うことから、パイロットと呼ばれます。
鹿沼選手は元々、クロスカントリースキー選手として2010年バンクーバー冬季パラリンピックに出場。14年ソチ大会を目指し練習中の事故で肩を負傷し、ストックが使えなくなったことから、自転車競技に転向した選手です。13年から田中選手とペアを組み、14年世界選手権ロードタイムトライアルでの優勝をはじめ、数々の国際大会上位入賞が評価されての選出となりました。
鹿沼選手は、スキー選手時代のケガも含め、数々のケガに泣いてきた選手ではありますが、「ケガにくじけることなく、何度も復帰できたのは、『自転車が好き』という強い気持ち。試合では常にスタートから全力で漕ぎ、ゴールで倒れるくらい力を出し切るところを見てほしい」とアピール。
一方、ペアを組む田中選手は、本業が「ガールズケイリン」。たまたま乗ってみたところ、鹿沼選手との相性もよく、競輪選手とパイロットと二足のわらじで携わってきましたが、「性格的に両立は無理」と昨年はパイロットから離れました。でも、鹿沼選手から、「もう一度ペアでやりたい」と乞われ、変心。この5月から9月までは競輪を休業し、鹿沼選手のパイロットに専念するそうです。
「タンデムパイロットに選ばれて光栄です。大きな舞台に挑戦できることに感謝し、メダル獲得を目指し全力を尽くして努めたい」と話しました。2人で練習できる時間がこれまで以上に増えることで、2人の息をさらに合わせ、コンビネーションを磨き、大きな結果を手にしてほしいものです。
会見終了後、リオでのチーム目標を権丈代表監督に伺ったところ、「最低目標として男女で金メダルを一つずつ。あとは色にこだわらず、獲れるだけ。さらには全員入賞」と、力強く答えられました。実はリオ大会に向けた出場枠として、日本は男子3枠、女子2枠を獲得していたそうですが、「税金を使って派遣する以上、遊びでなく、本気で行かねばならない」という同連盟の方針を貫き、「女子2枠目の該当選手はなし」ということで1枠を返上したことも同時に発表しました。
いろいろな考え方がありますし、連盟としても苦渋の判断だったと思います。悔しい思いをした選手もいることでしょう。私も、パラリンピック出場は簡単に手に届くものではなく、高く大きな舞台であることを改めて実感しました。藤田選手の決意ではありませんが、選ばれた選手の皆さんにはプレッシャーと誇りを胸に、悔いのない活躍を心から期待します。
(文・写真:星野恭子)