パラスポ・トピック (18) 「日本障がい者サッカー連盟(JIFF)」が誕生。 パラスポーツの普及、発展へのけん引役を期待! (星野恭子)
障害者差別解消法が施行された2016年4月1日、日本に新たな障がい者スポーツ団体が誕生しました。国内の障がい者サッカー7団体を統括することを目的に、日本サッカー協会(JFA)の関連団体として設立された、「一般社団法人日本障がい者サッカー連盟(JIFF:Japan Inclusive Football
Federation)」です。
日本障がい者サッカー連盟初代会長となった北沢豪氏(左から4人目)と、7団体の代表選手=2016年4月1日/星野恭子撮影
英語名に、「多様性を尊重し、あらゆる人が孤立したり、排除されたりしないよう援護し、社会の構成員として包み、支え合う」といった社会政策の理念を表した、Inclusive=インクルーシブ(包括的)が使われていますが、JIFFでは、「広くサッカーを通じて、障がいの有無に関わらず、誰もがスポーツの価値を享受し、一人ひとりの個性が尊重される活力ある共生社会の創造に貢献する」という理念を掲、活動していくそうです。
1日には設立発表会見がJFAハウスで行われ、初代会長に就任した元サッカー日本代表の北沢豪氏は、「多くの皆さんは、障がい者サッカーがこんなにあるのかと驚き、そのことを初めて知る人たちも多いのではないでしょうか。これが日本における障がい者スポーツの現状。どの団体も、(パラリンピックやワールドカップなど)世界を目指して戦っていますが、それに向けた強化の面では決して恵まれた環境ではありません。そのお手伝いをしていきたい。また、サッカーファミリーを増やすためにも、皆が同じユニフォームを着て、同じ夢を追う、という形を実現することで、今まで以上に障がい者サッカーを知っていただくことにつなげていきたい。サッカーなら、どんな障がいでも乗り越えていけると信じています。2020 年東京パラリンピック開催に向けて大切なことは日常を変えていくこと。連携をはかりながら、活動していきたい」と力強く語りました。
一般に、障がい者スポーツ団体の多くはそれぞれ国際組織が異なるなどでヨコの連携が薄く、また、健常者の統括団体とのタテのつながりも一部の競技に限られています。したがって、JIFFの発足は画期的であり、他の競技への広がりも期待されますが、実はこうした取り組みの先駆けは水泳です。13年に発足した「日本障がい者水泳協会」は、日本身体障がい者水泳連盟と日本知的障がい者水泳連盟、そして日本ろう者水泳協会の3団体を統括する組織で、翌14年には健常者の日本水泳連盟にも加盟を果たしています。
元日本水連の会長で、この日の会見にも列席した鈴木大地スポーツ庁長官も、「北澤会長も話されたように、障がい者サッカー団体が7つもあることに驚いた。私が水泳連盟の会長時代に障がい者水泳の3団体が一緒になって、ひとつの団体を設立し、水泳連盟の加盟団体になっていただいたが、このように障がい者の団体が結びつき、互いに刺激し合うことが、日本サッカー協会にとってもいい刺激になるのではないかと思う。スポーツ庁として、こういった障がい者の各地の大会に多くの観客をよびかけ、満員になるように全員でサポートしていきたい」と祝辞を述べています。
また、日本障がい者スポーツ協会の鳥原光憲会長も、障がい者スポーツの普及や強化は、「各団体だけでは限界がある。7団体がJFAに加盟し、連携することは望ましい第一歩。当協会としてもさらなるすそ野の広がりに期待するとともに精一杯支援したい」と歓迎しました。
今年度からJFAの新会長となったばかりの田嶋幸三氏も、この発表会見が、「私の(JFA)会長としての初めての公式行事。私ごとではあるが、実家は長崎で肢体不自由者の施設と授産施設をやっており、帰るたびにそういう人達との接点を多く持っている。この7団体に限らず本当に多くの障がい者がサッカーに関わり、サッカーを楽しんでいける、そういうサッカー界にしていきたいと思うし、私たちもサポートしていく」と決意を表明しました。
JIFF設立に先駆けJFAは昨年4月、「JFA グラスルーツ宣言」に基づく取り組みの一環として、障がい者サッカー7競技団体とともに「障がい者サッカー協議会」を設置し、これらを統括する団体設立に向けて取り組んでいましたが、ちょうど1年後に計画通り誕生しました。
そのグラスルーツ宣言を推進してきたJFA理事で、JIFFの専務理事も務める松田薫二氏によれば、JIFF設立までには、さまざまな「壁」があったそうです。例えば、1年前には7団体の多くが法人化されておらず、まずはその手続きから必要だったこともその一つ。ただ、その壁を突破した大きな力は、「7団体の強い思い」だったと松田氏は言います。「障がい者のサッカーを広めていきたい」という共通の思いが一つにまとまったのだそうです。
会見では、各団体から1名ずつ代表選手も登壇しました。例えば、ブラインドサッカー日本代表の川村怜主将は、「これをきっかけに、それぞれのサッカーの魅力がもっともっと世の中に浸透していくことを願っていますし、同じサッカーをする身、同じサッカーで世界に挑戦する身として、サッカー日本代表と同じユニフォームを着て世界と戦いたいという想いを強く抱いている」というコメントは、他団体の選手や関係者の思いを代弁していたと思います。
例えば、ブラインドサッカーのブラジル代表はA代表「セレソン」と同じユニフォームを何年も前から身につけ、世界の舞台で戦っており、他国選手の憧れの的です。ただ、JIFFが設立されたとはいえ、各団体のユニフォーム契約などの調整もあり、統一ユニフォーム着用までにはもう少しかかりそうですが、統一ユニフォームは皆の悲願でもあり、「連携」の象徴。「できるだけ早く」と話した田嶋会長の言葉を信じ、一日も早く実現を期待したいし、JIFFとして本当の意味での連携が推進されることも期待したいです。
そして、加盟7団体の規模や競技人口、国際統括団体の違いなど課題は少なくありませんが、パラスポーツの発展の一歩として、見守り、応援していきたいと思います。
<参考>
【一般社団法人日本障がい者サッカー連盟(JIFF:Japan Inclusive Football Federation)】
公式サイト: http://www.jiff.football
所在地: 〒113-8311 東京都文京区本郷サッカー通り(3-10-15)JFA ハウス内
加盟7団体と、対象者や主なルール(参考: 『障がい者サッカーHAND BOOK』=日本サッカー協会発行):
■特定非営利活動法人日本アンプティサッカー協会
アンプティサッカー: ゴールキーパー(GK)は上肢に切断など障がいのある人、フィールドプレイヤー(FP)は下肢に切断など障がいのある人が対象の7人制サッカー。FPは日常生活やリハビリ医療目的に使われるクラッチを使って競技するが、クラッチでボール操作を行うことは禁止。一般のサッカーより小さいピッチで、25分ハーフで競技。
■特定非営利活動法人日本ソーシャルフットボール協会
ソーシャルフットボール: 精神障がいのある人を対象に、一般にはFIFAルールを一部修正した、フットサルとして行われるが、試合時間やピッチサイズは大会ごとに規定される。国内には現在、130を超えるチームが存在する。
■特定非営利活動法人日本知的障がい者サッカー連盟
知的障がい者サッカー: 知的障がいのある人が対象で、FIFAルールのもとに競技する(11人制、国際試合は45分ハーフ)。日本国内には約5,500名のプレイヤーが存在する。フットサルもある。
■一般社団法人日本電動車椅子サッカー協会
電動車椅子サッカー: 電動車椅子の前にフットガードを取り付けて行うサッカーで、選手の多くは自立歩行ができないなど比較的重度の障がいがあり、ジョイスティック型のコントローラーを手や顎で操って車椅子を動かしながらプレイする。男女混合の4人制(FP3人、GK1人)で、ボールは直径約32.5センチと大きく、ピッチはバスケットボールコートを主に使う。国際的には、「Powerchair Football(パワーチェアー・フットボール)」と呼ばれ、電動車椅子のスピードは時速10キロ以下に定められている。
■一般社団法人日本CPサッカー協会
比較的軽度の脳性まひがあり、立位でプレイできる人を対象にした、7人制のサッカー。ピッチサイズは11人制よりは少し小さく、オフサイドがない、片手で下から投げるスローインが認められていること以外は、一般のサッカーとほぼ同じルールで行われる。1988年よりパラリンピックの正式競技。
■特定非営利活動法人日本ブラインドサッカー協会
ブラインドサッカー(B1): アイマスクをつけ、ボールの音と声のコミュニケーションで行う5人制サッカー。フットサルと同じピッチで、両サイドライン上には高さ1mほどのフェンスがあるため、ボールが飛び出すことを防ぎ、選手も自分の位置を知ることができる。アイマスクをつけた4人のフィールドプレイヤーに対し、晴眼、または弱視のゴールキーパーと、中央ライン外に立つ監督、そして相手ゴール裏に立つガイド(コーラー)が音声で情報を与えるなどしてプレイする。2004年よりパラリンピックの正式競技。アイマスクはせず、自身の視覚状態のまま行う、ロービジョンフットサル(B2/3)もある。
■一般社団法人日本ろう者サッカー協会
デフサッカー: FIFAルール(11人制、45分ハーフ)のもとに競技するが、笛の音が聞こえない選手のため、主審は笛だけでなく、フラッグも使って合図する。さらに、副審2人と、国際試合では、両ゴール裏にも1人ずつ、計5人のフラッグをもった審判員が、プレーの停止を多方向から伝える。選手はアイコンタクトや手話でコミュニケーションをとりながらプレイする。5人制のデフフットサルもある。
(文・写真:星野恭子)