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パラスポ・トピック (17) リオ・パラリンピック水泳、 「一発選考」で、日本代表候補選手が決定!

リオデジャネイロ・パラリンピックの開幕まで200日を切り、日本代表争いも山場を迎えています。昨日3月6日には水泳の最終選考会、「春季静岡水泳記録会」が静岡県富士水泳場で開催され、全19名(男子12、女子7)の日本代表候補選手が決定しました。

「代表内定」ではなく、「代表候補」と呼ぶのは、パラリンピックの場合、各競技団体が選んだ日本代表候補選手を日本パラリンピック委員会(JPC)に推薦し、書類選考や健康診断などを経てJPCが正式に「代表選手」を決定して発表するというプロセスがあるためです。国際パラリンピック委員会(IPC)により競技別の各国参加枠が配分されるため、このような2段階での選考プロセスとなっています。今回も、日本身体障がい者水泳連盟(JPSF)が昨日の記録会の結果をもとに候補選手を選考、発表したというわけです。正式な代表選手の発表は、6月から7月頃になる見込みです。

ところで、今回の代表候補選考会は、水泳としては画期的な試みでした。いわゆる「一発選考会」が初めて導入されたのです。昨年末にJPSFが発表した「派遣標準記録」をこの記録会で突破すれば、その時点で自動的に、「候補選手決定」となります。そして、もし、派遣記録を突破した選手の数が、IPCが配分した日本の水泳選手参加枠「男子12、女子7」を下回った場合は、記録会終了後に開かれるJPSFの選考委員会で選考されるのですが、選考の決め手となるのも、この記録会での結果だったのです。

また、JPSFが設定した派遣標準記録も、世界選手権5位相当の記録をもとになっており、かなり高めの設定でした。JPSFの桜井誠一常務理事によれば、「入賞でなく、メダル獲得を期待できる選手」にこだわった設定記録であり、さらに、「こうした一発勝負的な選考形式は初めて。選考の分かりやすさに加え、リオ大会を見据え、『本番にコンディションを合わせられる力』も重視した」からだそうです。

選手にはこれまでになく厳しい選考となったわけですが、桜井理事によれば、20年東京大会が決定して以来、主管が厚生労働省から文部科学省に移管されたり、スポーツ庁が誕生したりして、パラリンピックもオリンピックと並んで扱われるようになってきたことへの対応だそうです。例えば、以前は使えなかった国立トレーニングセンターの施設が利用できるようになったり、医科学サポートなども受けられるようになったりと、パラ選手の競技環境は以前より好転しています。そのため、選手に競技に対するより高い意識を求めたからだと桜井理事は話していました。

このように一発選考のプレッシャーのなか代表候補に選ばれた選手たち。ベテランから新人まで幅広い顔ぶれとなりました。

男子では、2008年北京大会金メダリストの鈴木孝幸選手(肢体不自由/ゴールドウイン)や12年ロンドン大会銀メダリストの中村智太郎選手(肢体不自由/HISAKA)らが派遣標準を突破して、候補選手に名乗りを上げました。また、昨年の世界選手権で金メダルを獲得し、早々に代表候補に決まっていた木村敬一選手(視覚障害/東京ガス)もこの日、派遣標準をきっちりと突破して、好調さを示しました。

また、知的障がいクラスの選手の活躍も見逃せません。男子12人中5人が候補選手に選ばれています。知的障がいという特性により、一般的に調子の波が大きく、大会本番に体調を合わせることが難しい選手も多いとされますが、一発選考の記録会で結果を出しました。潜在能力は計り知れず、リオ大会でも楽しみです。

1996年アトランタ大会からパラリンピック4大会に連続出場し、通算20個のメダルを獲得している「水の女王」、成田真由美選手(肢体不自由/横浜サクラ)も候補入りしました。女子7人中ただ一人、派遣標準記録を突破しての選出です。成田選手は2008年の北京大会後に一度は現役を引退し、パラリンピック普及活動などを行っていましたが、「水の中から普及活動を」と昨年、現役復帰。代表決定となれば、45歳で2大会ぶり5度目のパラリンピック出場になります。

その他、今回代表候補に選ばれた選手名と選考理由を下記にリストしました。「一発勝負」の緊張を乗り越え、代表候補枠を勝ち取った選手たち。最終的に「日本代表」となった際には、その高い集中力と強い精神力でリオ大会本番での活躍も多いに期待したいと思います。

<リオデジャネイロ・パラリンピック競泳 日本代表候補選手>

男子

木村敬一(視覚障害):2015年世界選手権で優勝し、推薦決定済み。3月6日記録会でも3種目で派遣標準突破
鈴木孝幸(肢体不自由):3月6日に2種目で派遣標準突破:
山田拓朗(同):3月6日に2種目で派遣標準突破:
中村智太郎(同):3月6日に1種目で派遣標準突破:
小山恭輔(同):3月6日に1種目で派遣標準突破:
中島啓智(知的障がい): 3月6日記録会の記録を基に、選考規定に基づいて選考され2種目で推薦決定
田中康大(同): 同
津川拓(同): 同
坂倉航季(同): 3月6日記録会の記録を基に、選考規定に基づいて選考され1種目で推薦決定
宮崎 哲(同): 3月6日記録会の記録を基に、選考規定に基づいて選考され1種目で推薦決定
江島大佑(肢体不自由): 3月6日記録会の記録を基に、選考規定に基づいて選考され1種目で推薦決定
廣田真一(知的障がい): 3月6日記録会の記録を基に、選考規定に基づいて選考され1種目で推薦決定

女子

成田真由美(肢体不自由): 3月6日に1種目で派遣標準突破
一ノ瀬メイ(同): 同
森下友紀(同): 同
小野智華子(視覚障がい): 同
笠本明里(同): 同
生長奈緒美(同): 同
池愛里(肢体不自由): 同

*詳細は日本身体障がい者水泳連盟及び日本知的障害者水泳連盟 に掲載されます。

(文:星野恭子)