パラスポ・トピック (16) パラリンピックとメディア。取材現場から(星野恭子)
最近、パラスポーツやパラアスリートがメディアに登場する機会がグッと増えました。転機は2020年東京パラリンピック開催が決定した13年9月であることは間違いなく、本当に急激な変化です。私は07年頃からパラスポーツを取材していますが、ここ数年のカメラや記者がズラリと並んだ大会会場を見ると、隔世の感を抱かずにはいられません。
リオ・パラリンピック代表予選だった2016別府大分毎日マラソンで、逆転で2位に入った全盲の和田伸也選手(左)と中田崇志ガイドを多くのカメラや記者が取り囲んだ
最初の頃は、新顔のメディアのほとんどは、パラ取材初心者でした。一般競技とは少し異なるパラ競技独特のルールや、「障害」の扱い方や表現に戸惑いや遠慮のようなものがあり、取材者である私が、そうした記者に囲まれて“取材”されることもありました。
最近は、一般紙の社会部記者が多かった顔ぶれも、しだいに運動部やスポーツ紙の記者も目立つようになり、テレビカメラも格段に増えています。そして、「初めて見たけど、パラスポーツも面白い」とか「選手は本当にアスリートですね」といった感想を耳にするようにもなりました。このままいい方向に、つまり、「パラスポーツも『スポーツ』として報道される」ことが定着していくことを願います。
とはいえ、急激な変化に対する選手や関係者の戸惑いは私の比でなかったはずです。実際、競技団体の中には、これまで兼務されていた広報部門に専任担当を置くようになったり、所属する選手を対象に専門家を招いてメディア対応についての講習会を開いたりなど、対策に乗り出したところも少なくありません。私も、顔見知りの選手から、「メディア取材への答え方」を相談されたことも何度かあります。
でも実際には、選手たちはただメディア慣れしていないだけで、その言葉はとても魅力的です。自然体で真面目な受け答えに、私は「おお!」と唸ったり、「そうそう」とほほ笑んでしまったり、そんなこともしばしばです。選手の言葉は力強く、ウィットに富んでいるものが多いのです。
そんな例を少し紹介します。ひとつは、2月7日開催の別府大分毎日マラソン前日記者会見でのこと。この大会はリオ・パラリンピック視覚障害者マラソンの日本代表選手選考会を兼ねており、会見には有力候補7選手が登壇しました。パラ選手のレース前の記者会見自体、日本ではかなり異例でしたが、こちらにも多くのカメラ、記者が集まっていて驚きました。
別府大分毎日マラソンの前日記者会見に出席した視覚障害ランナーたち。左から、堀越信司選手、岡村正広選手、和田伸也選手、熊谷豊選手、道下美里選手、西島美保子選手、藤井由美子選手
実は視覚障害の部の前に、一般エリート男子の海外招待3選手、国内招待4選手の会見も行われました。マラソン大会だけに、「風や低温というレース当日の天気予報について」の質問が出たのですが、特に日本人選手からは、「向かい風はあまり吹いてほしくない」「風よけを探しながら」「暑いよりはいい」といった「ちょっと弱気?」と感じる答えが大方でした。
そのあと、入れ替わって登壇した視覚障害選手に同じ質問が投げかけられたのですが、「練習コースが河川敷なので強風には慣れている」「北陸育ちなので寒さは平気」「天気は気にしない。こんな舞台で走れることを楽しみたい」といった力強く前向きなコメントが並んだのです。
聞いていた私は選手たちが本当に頼もしく、清々しい思いでした。選手たちは皆、「市民ランナー」。しかも、障害もあって練習環境や伴走者問題などを抱え、苦労しながら走力を磨いています。「悪天候なんて苦じゃない。走れることが幸せ」とそんな心境だったのだろうと思います。
もうひとつの例は、昨年11月、日本財団がパラリンピック競技の普及促進を図るために「日本財団パラリンピックサポートセンター」を立ち上げた、その発表記者会見でのことです。「支援予算100億円以上」などと言われ、森喜朗元首相や舛添要一東京都知事などが顧問職に就くといった“華々しさ”で、集まったメディアの数は驚くほど。
日本財団パラリンピックサポートセンター発表記者会見に列席したパラ選手と政府要人ら。前列左から、一ノ瀬メイ選手(競泳)、国枝慎吾選手(車いすテニス)、池崎大輔選手(ウィルチェアーラグビー)、高桑早生選手(陸上)
さらに、会見直前にスペシャルサポーターとして人気グループSMAPの就任が発表されたこともあり、芸能メディアも目立っていました。実際、私の隣にも有名な女性芸能リポーターが座っていて、壇上に並んだ4人のパラ選手を見ながら、「イケメンね」とか「かわいい」などと周りの記者たちと話していました。
そして始まった会見で、政府要人の挨拶に続き、列席したパラ選手への質問タイムになりました。選手が語ったそれぞれの競技への思いや同センター開設への感謝の言葉は堂々としてパワフルだったり、時にはユーモアたっぷりだったり。私の隣の芸能リポーターは、おそらくパラ選手の言葉を初めて耳にしたのでしょう。「へ~すごいわね」「そうなんだ~」と周囲の記者と囁きあっていました。
さらに、ある質問に対してある選手が、「それについては、私は存じ上げておりませんが・・・」と答えたところ、隣のリポーターは「日本語もきれい~」と感嘆の声を上げたのです。そんな様子に私は、「パラ選手に対して、どんな先入観を持っていたのだろう」とその時は少し違和感を覚えたものです。
でも、もしかしたら、まだまだそうした誤解やイメージは多いのかもしれません。逆にしっかりと驚いて、その驚きを素直な形で、しっかりと世に広めて誤解を解くことに貢献してもらえたらと思います。
ともかく、パラ選手たちは魅力いっぱいです。その横顔や競技の面白さを正しく、より魅力的に紹介できるよう、私も取材者としてさらにアンテナを広げ、感性を磨き、筆力を上げなければと、改めて気を引き締める、この頃です。
(文・写真:星野恭子)