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パラスポ・ピックアップ・トピック (13) 2020東京パラ、会場満員化へのヒント 【4】 障害者と健常者がタスキをつなぐ 「パラ駅伝」にみた、「これもあり!」

2020年東京パラリンピックまで、あと5年を切り、大会ピーアールを目的とした活動が活発化しています。11月29日、秋晴れの空の下、駒沢オリンピック公園陸上競技場をメインに開催された、「パラ駅伝 in TOKYO 2015」というイベントも、その一つでした。

13_01「パラ駅伝 in TOKYO 2015」のスタートの様子。19チームから、視覚障害ランナーと伴走者ペアの38名が号砲とともに一斉に駆け出した

「こんな駅伝、見たことない!」がキャッチフレーズの「パラ駅伝」は、さまざまな障がいのある人たちと健常者が1チームとなり、1本のタスキをつなぐというユニークな駅伝です。第1区は視覚障害者と伴走者のペア、第2区は男子健常者、第3区は女子車いす走者、第4区は女子健常者、第5区は義足など立って走る肢体不自由者、第6区は知的障害者、第7区は聴覚障害者、そしてアンカーは男子車いす走者が務め、1区間約2.5kmのコースを計8周、約20kmをタスキリレーするというイベントでした。

主催したのは、2020年東京パラリンピックの成功などを目的に今春発足した、「日本財団パラリンピックサポートセンター」です。最高顧問には東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長、特別顧問には舛添要一東京都知事などが名を連ねます。パラリンピック競技団体の基盤整備も事業のひとつで、11月には同財団ビル(東京都港区)の1フロアをオフィススペースとして約30団体への無償提供もスタートさせています。

パラ駅伝は一般向けに東京パラリンピックをピーアールするために企画された初めてのイベントでした。第1回となる今大会には11都県から19チームが出場しましたが、今後も継続開催し、いずれは42都道府県すべてのチームを集めたいとしています。

今年は天候にも恵まれ、10代から70代までパラリンピアンから市民ランナー、他競技の選手まで171人が力走。初代王者には神奈川代表の神奈川スターズが輝き、また各区間賞の選手も表彰されるなど、笑顔あふれる大会となりました。(詳細な結果は、大会公式サイトをご参照ください。)

13_02初開催の「パラ駅伝 in TOKYO 2015」で優勝した、神奈川スターズチーム。第3走者で、ふだんは車いすバスケットボールでパラリンピック出場を目指す鈴木百萌子さん(前列左から3人目)は、優勝のカギは「メンバーの仲のよさ」と笑顔で話した

さて、このパラ駅伝、主催者の意図通り、パラリンピック普及につながったのでしょうか? 当日、競技場内の観衆は約1万4000人。日本国内で行われたパラスポーツのイベントとしては、異例ともいえる「大入り」でした。実は、大会サポーターとして予め、人気グループSMAPの参加が発表されており、観戦チケット(無料)を事前申請して入場した大半は、SMAPファンだったと思われます。

さすがに、ライブ会場のような派手な衣服やタレント名が書かれたウチワなど小道具の持ち込みは見られませんでしたが、実際、観客席には若い女性のグループ連れが目立っていました。おそらくパラスポーツへの関心はほとんどないまま訪れた人が大半だったと思います。大会の趣旨と観客の期待とに大きなギャップのある客席を見て、私は最初、「これでいいのだろうか?」と、違和感を覚えていました。

でも、実際にレースがスタートすると、そんな気持ちも少しずつ変わっていきました。「これもありかな」と。SMAPも「サポーター」に徹しようという姿勢が見えましたし、力走する選手たちには観客席から拍手や歓声が絶えず送られていたからです。競技場外もコースになっていて、沿道では公園内も散歩やジョギングする一般の方も多く、声援を送る姿も見られました。

健常者のランナーが次の車いすランナーの肩に優しくタスキをかけてあげる姿や、聴覚障害のランナーを送り出す時の手話での応援、車いすランナー同士のデッドヒートなど、通常の駅伝には見られないようなシーンがあちこちに見られ、観客の皆さんにはきっと新鮮だったのではと思います。

13_03タスキを渡した後、エールや拍手で送りだしたり、背中をそっと押したりする選手も多く、リレーゾーンには笑顔とやさしさがあふれていた

実際、参加した選手にも好評でした。第1区の区間賞を受賞した、にっこり栃木の2008年北京パラリンピックのマラソン視覚障がいクラス日本代表の加治佐博昭選手は、「チームに貢献したいと思い、(スタートから)全力でいきました。さまざまな障がい者が参加する駅伝で、みな障がいは違うけれど、それぞれ使える機能をフルに使ってやっている。それを皆さんに見てもらえたことは最高なことだなと思いました。声援も大きく聞こえ、鳥肌が立ちました」と話してくれました。

13_04第1区区間賞を獲得した、パラリンピアン加治佐博昭選手(左)と伴走の豊島聡さんの力走

また、ロンドン・パラリンピック陸上競技日本代表の高桑早生選手も東京総合ランナーズの第5走者として出場し、「(障がい者のスポーツの)魅力を伝え、共有する場として、こういう大会があるのはすごく意味のあること。また、機会があれば、積極的に参加したい」と笑顔でした。

13_05パラリンピアンの高桑早生選手も力走。短距離走が専門で、長距離を走ることはあまりなく、「今日は走り切って(タスキを)次につなげることだけで精一杯。沿道からの応援を受けて、楽しく競技場に帰ってこられた」とコメント

観客席にいた20代女性は、障害のあるランナーの走りを目の当たりして、「初めてだから、よくわからないけど、『すごい』とは思いました。きっかけはSMAPだったけど、来てよかったです」と話し、また、ランニングが趣味という30代の女性は、「私も脚が疲れたなんて言ってられないですね。刺激を受けました」と話してくれました。

まだまだ認知度が低いパラスポーツを広げていくには、新しいファンを取り込まなければなりません。今は多くの人の目に触れ、心に触れることが大事。そのためのきっかけが、たとえSMAPだとしても、今回こうして足を運んでくれた人の一人でも二人でもが関心をもち、「今度は友だちを誘ってみよう」「他のパラスポーツも見たいな」などと思ってくれれば、いいのではないでしょうか。「人気スターの力を借りる」こともまた、「2020年大会会場満員化」のひとつの手段かもしれない。そんなことを思った、パラ駅伝でした。

2020年は「東京」開催ということで、特に西日本地域とは盛り上がりに温度差が感じられます。パラ駅伝が、主催者の目標通り、全47都道府県からチーム参加が実現すれば、また新たな広がりもでてくるでしょう。今回は初開催ということで課題も見えましたが、少しずつ改善して来年、再来年と継続され、充実していくことを期待したいと思います。

(文・写真: 星野恭子)