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オリンピック競技種目が「選ばれる理由」(玉木 正之)

オリンピックの競技種目

ロンドン・オリンピックで行われるのは、26 Sports(競技)、302 Games(種目)。4年前の北京大会(28 Sports 302 Games)で行われた野球とソフトボールが除外されたが、女子ボクシング、女子競輪、テニス混合ダブルスなどが増えたため、競技数は減ったが、種目数は前回の北京と同数になった。

そのような競技種目からオリンピックを眺めてみると……というわけで、以下のコラムは雑誌『ビッグ・イシュー』2008年6月号の「北京五輪特集」に寄稿したものです。


四年に一度のオリンピック。
今年(2008年)の北京五輪は、開催前からチベット問題や四川大地震で「大揺れ」に見舞われた。

が、競技が始まれば、連日テレビ・メディアを中心に世界各国のメダル争奪戦の様子が報じられ、地球に暮らす我々は、「衛星電波によるオリンピック」で、良くも悪くも「一つ」に結ばれるに違いない。

これほど世界中の人々が大騒ぎするイベントは、他にない。が、我々は、意外とオリンピックのことを知らない。

たとえば、次にあげるスポーツのなかで、かつてオリンピック競技として行われたことがあるものはどれか? と問われて、きちんと答えられる人は、どれくらいいるだろうか?

▼綱引き ▼綱登り ▼片手重量挙げ ▼ゴルフ ▼ラクロス ▼ラグビー ▼ポロ ▼モーターボート ……。

正解は「すべて」で、どれもかつてはオリンピック大会で行われたことがあるのだ。

これら以外にも、陸上競技で助走をつけないで跳躍の長さや高さを競う「立ち幅跳び」や「立ち高跳び」、馬術で跳躍の高さを競う「馬跳び」や、競馬の「障害飛越競争」、水泳の潜水泳法で距離を競う「潜水」などもあった。

こうしてみると運動会的ともいえる単純な競技が消え、世界的に競技人口の少ない競技も消えていったように思える。

オリンピック憲章では、オリンピックに採用される競技や種目は、男子は4大陸75か国以上、女子は3大陸40か国以上で広く行われている競技でなければならない、と規定され、「ゴルフ」「ラグビー」「空手」「スカッシュ」「ローラースケート」などは、その条件を満たしている。

が、プロ組織とアマ組織の関係がギクシャクしていたり(ゴルフや、北京大会を最後に廃止の決まった野球やソフトボールが、その理由による)、競技の性質から(ラグビーは身体的に2週間以内に多くの試合を消化できない)、正式競技に採用されていないもの、されなくなったものもある。

(ゴルフと7人制ラグビーは、以上の「問題」が解消され、2016年リオデジャネイロ五輪から正式競技として復活、あるいは新しく採用されることになった。)

オリンピックの正式競技となると、やはり世界的な注目度も違ってくるうえ、IOC(国際オリンピック委員会)から国際競技団体へ援助金も出るので、まだ五輪の正式競技や正式種目となっていない競技団体の関係者は、五輪の正式競技に採用されることを目指し、強力に運動を展開する。

また、かつて正式競技だったこともある「ラクロス」の他、「サーフィン」「ローラーホッケー」「熱気球」「スカイダイビング」「SUMO(相撲)」といった競技も、オリンピック競技となることをめざし、国際化と競技人口の増加をめざしている。

さらに「ダーツ」や「チェス」やトランプの「コントラクトブリッジ」も……と書くと、「エッ?」と驚く人がいるかもしれないが、Spotsという言葉の原点は、「余暇」「遊技」という意味。

将棋や碁や麻雀も(五輪競技をめざしてはいないが)、Sportsの一種といえるのだ。

そういえば、かつては「絵画」「彫刻」「文学」「作曲」といった芸術作品の創造も「芸術競技」として正式競技とされ、金銀銅のメダルが授与されていた。

それらは、芸術は競い合うものではないという考えから、1948年のロンドン大会を最後に正式競技でなくなったが、現在も「文化プログラム(芸術祭)」としてオリンピック開催都市は、スポーツ競技と同時に「芸術イベント」を催すことが義務づけられている。

芸術競技は、古代ギリシアのオリンポスの祭典(古代オリンピック)でも行われており、要するに「身体表現」としてのスポーツと、「精神表現」としてのアートが一体化した祭典が、オリンピックというわけなのだ。

身体だけもなければ、精神だけでもなく、身体と精神が絡み合って「人間」が存在してるのだから、それは当然のことで、オリンピックとは、政治に振りまわされるものでもなければ、スポーツ競技でメダルを争うだけのものでもなく、本来は真に「人類の祭典」である、というのが近代オリンピックの創設者であるクーベルタン男爵の「理想」だった、ということを知っておいたほうがいいだろう。

【ビッグ・イシュー』2008年6月号より】