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佐野稔の4回転トーク vol.⑧~確信のないまま跳んでいた浅田、緻密な練習が報われた宮原

微調整の利かなかった浅田のトリプル・アクセル

ショート・プログラム(SP)で精彩を欠いた浅田真央は、フリー・スケーティング(FS)でも巻き返すことができませんでした。どちらもトリプル・アクセルのミスが、大きく響く結果となりました。浅田のことなので、SPの失敗からうまく微調整して、FSには臨んでくるだろうと予想していたのですが、それも利かなかった。本人のなかでも確信の持てないまま、FSのトリプル・アクセルを踏み切っていたような印象を受けました。

今シーズン、ノーミスが続いていたトリプル・アクセルでしたが、これまでの試合と較べると、高さが足りず、キレもありませんでした。身体から溢れだすような力感やスピード感が、全体的に欠けていました。もしかすると、1年間のブランクの影響もあって、公式戦が続いたなか、疲労が蓄積していたのかもしれません。

それでも最終的には3位に入り、GPファイナル出場権を獲得したのです。トリプル・アクセルについても、技術的な問題ではなく感覚的な問題でしょうから、何日間かあれば、取り戻すことは可能だと思います。浅田本人は「すべてをあらためて見直したい」と話していましたが、グランプリ(GP)・ファイナルまで日数の少ないなか、まずはトリプル・アクセルの感覚を戻すことで、さまざまなことが好転していくのではないでしょうか。

いくつもの重圧を乗り越えた宮原の初優勝

NHK杯初優勝となった宮原知子については、動き全体がすごく良くなっています。これまでは、ひとつひとつは正確なのだけど、面白みに欠ける…。ともすれば、そんなイメージのあった宮原でしたが、ずいぶんと魅せる雰囲気を醸し出すようになってきました。演技が大人っぽくなってきています。浅田真央が休養していた昨シーズンの全日本選手権に優勝、世界選手権2位と、日本の女子フィギュアを牽引してきたことが、彼女をひと回り大きく成長させたようです。

今回の宮原には、さまざまなプレッシャーがあったはずです。彼女がGPファイナルに進出するためには、優勝が不可欠でした。ついつい忘れられがちですが、この大会で優勝するということは、浅田真央に勝たなくてはいけないことを意味していました。カナダGP優勝者のアシュリー・ワグナー(アメリカ)も出場していたのです。その重圧たるや、ものすごいものだったでしょう。

またSPでは、自分の前に演技した選手たちがミスを連発。そのなかで、ひとりノーミスで締めくくりました。FSでも最終グループ最終滑走の緊張感を、見事はね除けてみせました。最終滑走者というのは、グループで行う6分間練習を終えてから、ほかの選手の演技が続いている間、40分くらい待たされることになります。その時間をどう過ごすのかは、大きな勝負の鍵になります。おそらくSPの滑走順が最後になると決まった時点で、それに合わせて宮原陣営全体で、緻密な準備をしてきたはずです。そうした積み重ねが報われた結果、浅田との直接対決に初めて勝つことができた。ますます彼女の自信は深まっていくことでしょう。

余談になりますが、宮原知子を見るたびに、私は小林綾子さんが演じていたテレビドラマ「おしん」を思い出します。苦労と困難を強いられた幼少時代のおしんの姿が、宮原に重なるのです(若い人には分かりづらくてゴメンなさい)。ある意味、日本人の琴線に最も触れるタイプかもしれません。浅田真央とは、また違った色の花を咲かせることができる。いまフィギュアの練習を頑張っている全国の少女スケーターたちに、希望の光を与えてくれる選手です。

日本勢5選手がGPファイナルへ

この結果、男子で羽生結弦、宇野昌磨、村上大介、女子の浅田真央、宮原知子の5選手が、12月10日に始まるGPファイナルに出場することが決まりました。男女計12選手のうち5選手が日本勢と、これ自体が素晴らしい成果ですし、現地での心強さもあるでしょう。どれだけの選手が表彰台に昇るのか。期待したいところです。

男子については、今回のNHK杯で頭ひとつ抜け出した感のある羽生の3連覇なるか。羽生の進化に、ほかの選手がどれだけ喰らい付いていけるのかが焦点になります。昨シーズンの世界王者ハビエル・フェルナンデス(スペイン)と羽生との、今シーズン初対決も楽しみです。

初のGPファイナルとなる宇野、村上については、フランスでの痛ましいテロがあっての後なので、複雑な気持ちもあるでしょうが、巡ってきた舞台を活かして欲しいと思います。

奇しくも女子は、日・米・ロから各2選手ずつが出場する三つ巴の様相になりました。過去GPファイナル4勝をあげている浅田が、どんな演技をみせるのか。注目の多いGPファイナルになります。