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佐野稔の4回転トーク vol.⑥ジャンプが安定した本郷理華 世界に衝撃が走った金博洋

着実なレベルアップをみせた本郷

総合2位に輝いた本郷理華は、SP、FSとも大きなミスもなく、高いレベルで演じ切っていました。自己ベスト更新もうなずける、素晴らしい滑りでした。優勝した浅田との得点差は、わずか1.72点。FSだけの得点では堂々の1位でした。昨シーズンGPシリーズ初出場で、いきなりGPファイナルに出場するなど、大きな飛躍を遂げた彼女でしたが、さらにもう一段レベルアップした印象を受けました。

昨シーズンと較べて格段の成長をみせていたのが、ジャンプの安定感です。 トリプル・アクセルこそないものの、すべてのジャンプの確率が上がっています。体力的にも充実しているのでしょう。私の兄弟子にあたる長久保裕先生が、本郷のコーチをしているとあって、彼女のジャンプはまさに「メイド・イン・長久保」。私の大好きなタイプです(笑)。また、同じリンクを拠点にしていた鈴木明子さんの指導が話題になっていますが、自分の演じるひとつひとつの手足の動きを、鈴木さんのような表現力豊かだったスケーターが、目の前で実演して見せてくれたなら、それは何よりのお手本になるはずです。

あれほど手足の長い大型の女子選手は、日本のフィギュア界ではひじょうに貴重です。これまでいなかった新しいタイプのスケーターです。昨シーズン以上の活躍を期待させる、中国杯の本郷の滑りでした。

フィギュア界に衝撃が走った金博洋の登場

最後に、金博洋(ボーヤン・ジン)について触れないワケにはいきません。フィギュア界に衝撃が走りました。日本国内では、浅田の優勝の話題で持ちきりでしたが、世界的にはおそらく、SPで2種類の4回転ジャンプ、FSで4度の4回転ジャンプに挑戦した金博洋の登場が、今年の中国杯最大のトピックスでした。

宇野昌磨、エフゲニア・メドベジェワ(ロシア)、永井優香、そして金博洋と、今シーズンシニアデビューをはたしたばかり選手たちの、GPシリーズ表彰台が続いています。以前のこのコラムでも指摘しましたが、近年ジュニアのGPシリーズのレベルが、飛躍的に向上しています。

金博洋は13-14年シーズンのジュニアGPファイナルで優勝した実績の持ち主です。ところが、昨シーズンはジュニアGPファイナル、ジュニア世界選手権で、いずれも宇野昌磨の前に苦杯を嘗め、2位に終わっていました。おそらく宇野から相当な刺激を受けたのでしょう。地元中国でのシニアデビュー戦に、周到な準備してきました。男子では4回転ジャンプをSPで2度、FSで3度跳ばないと、勝てない時代がもうすぐ来ると、私は常々言っていたのですが、一気にその先の次元に足を踏み入れる選手が現れたのです。

もちろん優勝したハビエル・フェルナンデス(スペイン)とは、滑りの質の部分でまだまだ差がありましたし、4回転ジャンプ自体にも着氷に乱れがありました。それでも、SP冒頭のコンビネーションジャンプ(4回転ルッツ-3回転トゥループ)基礎点だけで、17.90点を獲得。これほどの高得点、初めて見ました。

これから、さらに伸びてくる素地のある選手です。同世代の宇野と、これから熾烈なライバル・ストーリーをくり広げていくのはもちろんのこと、すぐさま世界の頂点を争っていても不思議ありません。フィギュア界の勢力図を塗り替える、末恐ろしい存在です。しかも、次回はNHK杯の出場が予定されており、羽生結弦との直接対決が実現します。おそらく世界の注目が集まる、ひじょうに楽しみな一戦になります。

〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉