佐野稔の4回転トーク vol.⑤復帰Vへと結実した浅田真央の攻めの姿勢
誰にも真似できない女子最高難度のSP
本格復帰初戦でいきなりの優勝。FS(フリー・スケーティング)ではミスが相次いでしまい、本人は不満が残ったようですが、またひとつ浅田真央の凄さを見せつけられたグランプリ(GP)シリーズ中国杯になりました。 なかでも私が今回驚かされたのは、SP(ショート・プログラム)の構成に現れた、彼女の「攻め」の姿勢です。
冒頭にトリプル・アクセル、続いて3回転フリップ-3回転ループのコンビネーション、後半に3回転ルッツ。このプログラムを聞いたときには、耳を疑いました。これほど攻める浅田のプログラムは久しぶりでしたし、休養明けの最初の試合で、そこまでやる必要はないだろうと思ったからです。
6種類のジャンプを得点の高い順、すなわち難しい順に並べると、アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコゥ、トゥループ。このような順番になります。つまり今回浅田が披露したプログラムには、3回転ジャンプが難しいほうから4種類、盛り込まれているのです。女子のSPでは、世界で最も難易度の高いプログラムだと言えます。浅田同様、SPでトリプル・アクセルを跳んでいるトゥクタミシェワ(ロシア)にしても、コンビネーションジャンプは3回転トゥループ-3回転トゥループにして、負担を軽減させているくらいです。
今回ループは回転不足、ルッツは踏み切り違反となりましたが、SPを滑り終えた直後にみせた浅田の表情を見ていると、かなりの手応えを感じた様子でした。結果的にSPであげた高得点に守られる形での優勝となりましたが、それだけの意気込みで、この復帰初戦にのぞんだこと。そして、自分に課した高いハードルに負けなかったことが、GPシリーズ15回目の優勝につながりました。
相次いだミスは、トリプル・アクセルが良過ぎたため?
SP、FS揃って浅田がトリプル・アクセルを成功させたのは、彼女が19歳のときのバンクーバー五輪以来のことだったそうですが、特に今回のFSで跳んだトリプル・アクセルは高さ、幅、着氷後の流れ…、すべてが「完璧」と言いたくなるくらい。GOE(出来栄え点)が1.86点もつく、素晴らしいジャンプでした。ただ、演技冒頭のトリプル・アクセルがあまりに良過ぎたことで、どこか安心してしまったのか。そのあと立て続けにミスが起きたのは、いろんな心の動きが生じたことが要因だったのかもしれません。
10月の「ジャパン・オープン」では、素晴らしい「蝶々夫人」を見せていましたが、あのときはFS一回勝負でした。やはり独特の緊張感が2日間連続する大会となると、選手の心身にかかる疲労や重圧は別物なのだと、つくづく感じさせられました。1年間競技を離れていた影響もあったでしょうし、今後試合を重ねていくことで克服できる課題だと思います。次に出場予定のNHK杯(11月27~29日・長野県ビッグハット)で、同じ失敗はくり返さないはずです。
〈文:佐野稔(フィギュアスケート解説者)〉