パラスポ・ピックアップ・トピック (11) 2020東京パラ、会場満員化へのヒント 【3】 車いすバスケ男子、リオ切符獲得! (星野恭子)
車いすバスケットボール男子日本代表が苦しんだ末に、来年のリオデジャネイロ・パラリンピックの出場権をついに手にしました。17日に閉幕した、アジア・オセアニア選手権最終日の3位決定戦で韓国に80-56で快勝し、11回連続12度目のパラリンピック出場を決めたのです。団体競技としてはリオ出場決定の第1号となりました。
選手権には12の国と地域が参加。2組に分かれた1次リーグを経て決勝トーナメントを行い、オーストラリア、イラン、日本の上位3チームがパラリンピック出場権を得ています。
日本の戦いぶりを振り返ってみると、予選B組に入った日本は宿敵韓国を4年ぶりに破ったものの、中国戦を3点差で取りこぼし、B組2位で決勝トーナメントに進出。勝てばリオ出場が決まった準決勝で世界王者のオーストラリアと対戦し、41-70と大敗。背水の陣で臨んだ3位決定戦で韓国を再度下してリオへの道を切り開きました。
さて、3位決定戦は約3,600人の「ニッポンコール」がこだまし、日本代表のリオ出場を力強く後押ししました。試合後、選手やヘッドコーチから熱い声援への感謝の言葉がつづきました。
大黒柱の藤本怜央主将は韓国との大一番について、「声援を力に替えられた」と観客に感謝した
ホーム開催の利は何といっても声援の力です。8日間にわたった大会の観客数は初日と最終日はそれぞれ3,000人を超え、平日は少し下がったものの、のべ12,000人以上を数えました。連日の熱戦が数多く報道され、迫力あるプレーに興味をもったり、直接応援したいと思い、会場に足を運んだ方も多いでしょう。でも、観客増の陰には大会前からさまざまな取り組みがあったことも事実です。
大会は入場無料で行われましたが、三菱電機が冠スポンサーとなったり、車いすバスケをテーマにした人気コミック『リアル』(井上雄彦原作/集英社)が大会PRに協力したりと、さまざまなコラボがありました。大会前には、会場となった千葉市内を走るモノレールで、『リアル』のイラストなどで車体がラッピングされたり、車内に選手紹介ポスターなどが掲示されるなど、大会周知が図られました。
また、代表選手らが近隣の小学校に出かけ、車いすバスケットボールの体験会や講話などを行うスクールキャラバンも何回か実施しました。そのおかげもあり、大会期間中、会場には子どもたちの姿も大勢見受けられました。ひときわ高い声での「ニッポンコール」は、きっと選手の耳にも届いていたはずです。
会場では特別編集のファンブックや車いすバスケガイドなどが無料配布されたり、写真展や応援メッセージパネルなど、来場者を楽しませる工夫も見られました。また、応援用バルーンも用意され、会場一体となった応援に貢献していました。「ニッポン、ニッポン」のコールに合わせてバルーンを叩くと響く、「バン、バン」という音の波は、たしかに選手の背中を押していたと思います。
来場者に配布された、応援グッズ類
とはいえ、声援がプレッシャーになることもあります。「勝てば、リオ切符獲得」だった準決勝のオーストラリア戦に敗戦後、藤本主将は試合前の心境について、「怖かった」と明かしました。大きな期待を背負い、ホームの大勢の観客の前で臨む大一番。プレッシャーは相当なものだったことでしょう。
でも、20年東京パラリンピックでは、そうした状況が連日、続くはずです。ホームゲームがプレッシャーでなく、パワーになり続けるためには、「慣れ」がカギでしょう。日本での国際大会開催ももっと必要でしょうし、国内リーグ戦などでも観客を増やし、大きな声援の中でプレッシャーを背負って戦う経験を積み重ねる必要性を感じました。
また、10日の開会式には遠藤利明オリンピック・パラリンピック担当大臣が視察に訪れ、開幕戦の観戦とともに、障がい者スポーツの大会運営などについて大会関係者から聞き取りを行っていました。また、16日には鈴木大地スポーツ庁長官が日本男子とオーストラリアとの準決勝を観戦。「車いすバスケは初めて見たが、ファイトあふれるプレーに感銘を受けた。これはまさにスポーツ。もっと多くの人に観てほしいし、そのためにできることがあれば考えたい。他の(パラスポーツ)競技もできる限り観て、選手発掘や強化策など専門家と相談したい」などと話しました。
大臣らによる直接の視察はこれまでは珍しく、大きな前進だと思います。パラスポーツには一般には馴染みのない競技も多いですし、現場で見て感じることが一番の情報源ですから、ぜひ今後も多くの会場に足を運び、国としての支援につなげていただきたいと思います。
これまで、
ウィルチェアー(車いす)ラグビーや
ゴールボール の大会なども例に、「20年東京大会での会場満員化」について考えてきましたが、今回の車いすバスケの会場の様子に、もっと前倒しで会場を満員にする必要があるなと感じました。これからもアンテナを大きく張り、引き続きこの課題に迫っていきたいと思います。
(文・写真: 星野恭子)