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佐野稔の4回転トーク vol.②世界を驚かせた宇野昌磨 4強時代の到来も近い!?

大いに賞賛したい宇野のシニア・デビュー戦

今回のジャパン・オープン、男子1位になった宇野昌磨の演技には、衝撃が走りました。それほど素晴らしい内容でした。浅田真央の見事な復帰戦の陰になって、メディアの扱いはそれほどの量ではありませんでしたが、実質シニア・デビューとなった17歳が、昨年の世界王者であるハビエル・フェルナンデス(スペイン)と、世界選手権3連覇のパトリック・チャン(カナダ)に、圧勝したのです。世界中のフィギュア関係者を驚愕させる、大ニュースと言えます。

2度の4回転ジャンプを含めて、8つのジャンプをすべて成功。試合後、パトリック・チャンが「僕からしたら、4回転を2度跳ぶなんてあり得ない」と、感心したような、呆れたようなコメントを出していましたが、演技構成点だけを抜き出しても、チャンの89.58、フェルナンデスの90.64(減点1.00)に対して、宇野は86.00と、大きく劣ったわけではありません。ISU(国際スケート連盟)非公認の大会ではありますが、新しいシーズンの始まりに、あれだけの滑りをしてみせたことは、間違いなく良いイメージをジャッジに与えたはずです。今後の戦いに向けても、大きな意味がありました。

2年ぶりの優勝となった日本ですが、エース羽生結弦は不在だったのです。それでいて、男子選手だけの合計点を見較べても、宇野と村上大介の日本が3チームのなかでトップでした。ライバル国のフィギュア関係者にしてみれば「なぜ日本から、こんなにも次から次へとスゴい選手が登場してくるんだ」といった気分でしょう。

世界のトップに肉薄するには、もう1種類の4回転

このジャパン・オープンはSP(ショート・プログラム)のない、フリー一発勝負。ジュニアより競技時間の長いシニアに、初めて本格参戦する宇野にしてみれば、助けられた面があったかもしれません。ですが、結局のところ、勝負を決するのはフリーの成否です。しかも約4分30秒の演技が終了しても、宇野はスタミナの不安をほとんど感じさせませんでした。たとえば、あの羽生ですらシニア・デビューしたばかりの頃は、フリーの演技を終えると、疲労のあまり肩で息をするようなシーンをよく見かけました。そういった点でも、今回の宇野には驚かされました。

いまのところ宇野の4回転ジャンプは、トゥ・ループの1種類だけ。その1種類の4回転を、ものすごく丁寧に、大事に跳んでいます。ただ、現在の男子フィギュア界で世界の頂点を争っている羽生、フェルナンデス、デニス・テン(カザフスタン)たちと、互角に渡り合っていこうとすれば、やはり4回転ジャンプが2種類欲しいところです。すでに4回転サルコゥの練習を始めていると聞きますが、宇野の持つポテンシャル、昨シーズンからの階段を駆け上がるようなジャンプの習得を見ていると、かなり早い時期にその日は来るはずです。そうなれば、先に述べた3人に、宇野を加えた‘4強時代’が到来するかもしれません。平昌(ピョンチャン)五輪に向けて、ひじょうに頼もしい存在になってきました。

ブランクの影響を感じさせたチャン、ソトニコワ

新シーズンのスタートとあって、各選手がそれぞれどんなことをやってくるのか。楽しみにしていたのですが、海外勢については、まだまだ試運転の感が否めませんでした。昨シーズンを休養に充てたパトリック・チャンにしても、ケガからの復帰となったアデリナ・ソトニコワ(ロシア)にしても、実戦の感覚を取り戻すまでには、もうしばらく時間が掛かりそうです。むしろ、それが当たり前です。言い換えれば、1年間の休養明けにも関わらず、ああいう滑りができてしまう浅田のほうが、特別なのです。

そんななか宮原知子は、いまの自分にできるベストの演技を、シッカリとやってみせた印象があります。スコアの面でも、初優勝した去年12月の全日本選手権での、自身のフリーの点数を上回りましたし、昨シーズンは1度も勝てなかったエリザヴェータ・トゥクタミシェワ(ロシア)を、見事うち負かしたわけですから。宮原本人としても、手応えを感じたのではないでしょうか。

浅田があれだけ高いレベルの復帰をしたことによって、宮原をはじめ、日本の女子選手の戦い方が、昨シーズンとは違ってくるかもしれません。世界で勝つより、国内で勝つことのほうが難しい。そんな数年前のような状況が戻ってくる予感がします。

〈文:佐野稔(スケート評論家)〉