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「香川復活で蘇ったコンビネーション」(大住良之)

「9月8日のアフガニスタン戦をどんな形でも勝ちきることが、何より重要だ。ここまでは、内容は問わないことにする」

 前回、9月3日のカンボジア戦(3-0)のレポートの最後に、私はそう書いた。アフガニスタン戦も、アウェーとはいえ、相手が自陣に引いて守備を固めてくることが予想された。現在の日本代表がそうした相手になかなか良い試合をできないのはある程度仕方がない。だからこそ、「勝ち点3」だけという結果に集中してほしいという思いだった。良いプレーができないことに苛立たず、泥臭い形でもともかく相手ゴールを割って勝利をつかんでほしいと思ったのだ。

 アフガニスタン戦が行われたイランのテヘラン、アザディスタジアムは標高1200メートルという高さの影響が出る環境にあり、気温の高さとともに、日本や西ヨーロッパのグラウンドとは大きく違うピッチコンディションも予想された。日本代表は、これまでずっとこうしたピッチでは苦しめられてきた。

 だが今回は違った。アフガニスタンはボールを奪うと果敢に前進して攻めようとしたが、日本がボールをもつと素早く自陣に引き、4人のDFと4人のMFで自陣ゴール前に密集守備を構築した。日本がパスを回すと、2トップも下がってその守備に吸収された。明らかに、現在の日本がこうした守備にとまどう傾向があることを知っての守備だった。

 これに対し、日本は吉田麻也と森重真人の両センターバックが相手陣中央まで前進して攻撃をつくるという形になった。右の酒井宏樹と左の長友佑都の2人はタッチライン際に高く上がり、吉田と森重の背後のスペースはGK西川周作がカバーするという形だった。

 「日本を自陣に引き込んでカウンターで背後のスペースをつき、得点する」

 これがアフガニスタンを率いるスラバン・スケレジッチ監督の戦略だっただろう。

 それをつぶしたのは、日本の見事な切り替えだった。ミスなどでボールを失っても、間髪を入れずに切り替えて奪い返した。9月3日のカンボジア戦でも、攻撃はうまく進まなかったが、その姿勢は90分間貫かれていた。「コンビネーションプレー」のレベルは低かったが、日本代表の「モラル」自体が低下しているわけでないことは、この姿勢で明確だった。

 そしてこの日は、コンビネーション面でも、6月のシンガポール戦、9月3日のカンボジア戦よりはるかに良かった。その背景にあるのが香川慎司の復調だ。

 バヒド・ハリルホジッチ監督はこれまで「4-3-3(4-1-2-3)」システムを基本としてきた。香川はずっと2列目の左という形だった。しかし9月のシリーズから「4-2-3-1」システムが採用され、香川は「3」の中央、「トップ下」と呼ばれるポジションに置かれた。そしてこのアフガニスタン戦で、このポジションでは世界有数の選手であることを彼は自らのプレーで証明した。

 前半10分の先制点は、まさに香川の「天才」が生んだもの。左からドリブルではいり、中央の香川に預けて縦に走り、リターンを受けようとした原口元気。香川は小さなフェイントで原口を使おうというふりをみせ、急激に反転してマークを外すと、迷わずシュートを放ったのだ。すべてのプレーが流れるようにスムーズで、香川にはまったく力がはいらず、相手はどうしようもなかった。まさにワールドクラスのプレーだった。

 このプレーでリズムに乗ったのだろう、その後の香川のプレーは際だっていた。

 後半に日本は相手ペナルティーエリアにかかるところで2回の見事なコンビネーションプレーを見せ、その突破から2点を奪った。そのいずれも、香川がコンビネーションの軸となった。

 後半12分には、縦に走り込んだ山口蛍に対し、香川は右からペナルティーエリア手前を横切るようにドリブルしながら絶妙のタイミングでパスを出した。この1本のパスで、日本は4人もの選手が相手ペナルティーエリアでフリーとなり、山口のパスを受けた岡崎慎司が無人のゴールに流し込んで4点目とした。

 さらに後半29分には、左サイドで長友と宇佐美貴史(交代出場)のパス交換のなかに加わり、長友からパスを受けると絶妙のヒールで宇佐美に落とし、宇佐美のスピードを引き出してチームの6点目を生んだ。

 どちらの場面でも、アフガニスタンの守備組織はしっかり整っていた。スペースはほとんどなかった。しかしワンタッチプレーを使ったコンビネーションが発揮されれば、たとえ相手が3メートル間隔で立っていたとしてもただの「棒杭」に過ぎない。そのコンビネーションの軸となり、ハリルホジッチ監督が求めていた「相手ゴール前でのスピード」を生んだのは、間違いなく香川だった。

 10月には、日本がはいっているワールドカップのアジア第2次予選E組で最大のライバルであるシリアとのアウェーゲーム(オマーンのマスカットで開催)が待っている。シリアは9月8日にはアウェーでカンボジアに6-0と大勝し、日本と同じ3試合を終わって全勝、総得点13、失点0と首位を快走している。

 この試合を落とすと、自動的に最終予選に進出できる「1位通過」はきわめて難しくなる。こうした重要な試合を前に香川が完全復調し、日本代表の攻撃が鋭さを増したのは、非常に大きなことだった。

〈文:大住良之(サッカージャーナリスト)〉