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夏巡業でも元気だった“最強2トップ”の白鵬と照ノ富士 〜流れは「モンゴル4横綱時代」へ〜(荒井太郎)

 秋場所は猛暑にも負けず稽古に打ち込んだ者が、その成果を発揮する場所である。今年の夏巡業は全17か所、20日の“長期ロード”。夏巡業が20日以上となるのは16年ぶり。相撲人気の復活で勧進元も戻ってきた。満員御礼続出の大盛況に終わった今回の巡業で元気だったのは、やはり今年に入って激しく賜盃を争う横綱白鵬と大関照ノ富士の現在の“最強2トップ”だった。

 石川県七尾巡業では、白鵬が地元出身でホープの十両輝を直々に稽古相手に指名すると連続で10番。ぶつかり稽古でもたっぷりとかわいがった。また、新潟県糸魚川では平幕の阿夢露を土俵に呼んで胸を出した。両膝の手術から這い上がって幕内の座をつかんだロシア出身の苦労人は「横綱に稽古をつけてもらうのは初めてです。本当にうれしい」と感慨深げ。右足親指の負傷で数日、稽古を回避した以外は土俵に上がり続けた白鵬は、ご当地力士や生きのいい若手に積極的に胸を出すサービス精神も交えながらの順調な調整ぶりだった。

 一方の照ノ富士も途中、左膝半月板を痛めて3日間稽古を休んだが、それ以外は各地で三役経験者らを相手に土俵を占拠。また、新鋭を捕まえては敢えて相手十分な体勢で攻めさせる余裕も見せていた。稽古熱心さには定評がある大関は「(毎日土俵に上がるのは)普通でしょ」とさも当然と言わんばかり。さらに「俺だけ長くやると他の人が出来なくなるから」とそれでも稽古量は物足りなさそうだった。

 2場所連続全休明けの先場所は千秋楽まで白鵬と優勝を争った横綱鶴竜は、12勝と見事に復活。ただし、苦手の稀勢の里や栃煌山には完敗を喫するなど、悲願の横綱初優勝に近づいたかどうかは評価が分かれるところ。巡業でも「(負傷した左)肩の状態を見ながら」と慎重な態度を崩さず、土俵に上がらない日も少なくなかった。
9月4日に行われた稽古総見でも、格下相手に12番と軽めの調整に終始。翌日からの二所ノ関一門の連合稽古も参加を明言していたものの最終日まで現れず、待ち構えていた稀勢の里は“肩透かし”を食った形だった。患部の状態が思わしくないのか、稽古ぶりを見る限り今場所も悲願は持ち越しかもしれない。

 横綱、大関陣全員が顔を出した稽古総見だったが、白鵬は土俵に入らず四股や摺り足などの基本運動に徹した。ただし、尻上がりに調子を上げていくタイプだけにいつものペースと言ってよく、不安はないだろう。

 右ヒジの負傷で先場所休場の日馬富士は逸ノ城、栃ノ心、遠藤らを相手に「力の入り具合を見ながら」と言いつつも、左前褌を引きつける力強い取り口で16番。今場所出場の明言は避けたが、順調な回復ぶりがうかがえる。
大関陣4人は意地と意地がぶつかり合う激しい申し合いとなり、13番を取って8勝と唯一、勝ち越した照ノ富士が頭一つ抜きん出ていた印象だ。ただし、豪栄道には右を深く差され、これを左からの小手投げで強引に振り解こうとして、かえって上体が起きてしまい墓穴を掘る場面が何度か見られた。照ノ富士の左からの投げを封じる取り口は“怪物大関”攻略のカギとなりそうだ。

 それでも照ノ富士の好調ぶりが際立った稽古総見ではあった。翌日の伊勢ケ濱一門の連合稽古でも遠藤に吊り落としや播磨投げといった豪快な技を見舞う一方で、絶妙なタイミングで相手の廻しを切って攻めるうまさも垣間見せ、20番を取って全勝だった。
秋場所の優勝争いは、夏巡業でも気を吐いた白鵬と照ノ富士を中心に展開されるだろう。先場所は14日目まで優勝を争って11勝と新大関としては及第点以上の結果を残した照ノ富士だが、白鵬、鶴竜の2横綱には敗戦。「番付が上の人に勝てるようにしないと」と本人は2度目の賜盃に意欲満々だ。

 白鵬とは14日目の対戦が予想されるが、その時点で白鵬と星の差1つ以内の優勝圏内にいれば、勢いとムードが後押ししてくれるに違いない。そうなれば、年内の九州場所後の横綱昇進もかなり高い可能性で見えてくる。優勝候補に日本人力士の稀勢の里、豪栄道あたりを挙げたいところだが、現状の“最強2トップ”との差は残念ながら埋めがたい。流れは確実に「モンゴル4横綱時代」に向かっている。

〈文:荒井太郎(相撲ジャーナリスト)〉