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「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(94) 8.30~9.6

国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトした「パラスポーツ・ピックアップ」シリーズ。今号はパラリンピック初出場を目指し、東京開催のアジア選手権に臨んだブラインドサッカー日本代表の挑戦を中心に、陸上や競泳の大会情報などもリポートしています。

ブラインドサッカー: パラリンピック初出場ならずも、さらなる進化に期待!

・ 9月2日~3日: 「IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015」が2日、東京・渋谷で開幕した。大会は来年のリオデジャネイロ・パラリンピック予選を兼ねており、日本(世界ランキング9位)のほか、中国(同5位)、イラン(同12位)、韓国(同14位)、インド(同28位)、マレーシア(同30位)の全6カ国が参加し、総当たりの予選リーグを経て、順位を決定する。上位2カ国がリオ出場権を獲得する。

日本は2日、初戦の中国戦を0-1で落とし、翌日のイラン戦を0-0で引き分け、暫定5位と序盤は苦しんだ。魚住稿監督は中国戦について、「ほんのちょっとしたミスで、アンラッキーな試合」だったと振り返り、イラン戦は、「(日本の持ち味である)いい守備からいい攻撃につなげることを考えていたが、引き分けは厳しい現実」と振り返った。ただ、監督自身が「世界一美しいダイヤモンド型」と自負する、日本の1-2-1の守備陣形は流れの中で大きく崩されることはなく、またイラン戦は早い時間からラインをあげ、高い位置からボールを奪いドリブルからのシュート狙いという攻撃的な意識がうかがえ、得点の期待は高かった。

・4日~5日: 3戦目の韓国を2-0で下し、暫定3位に浮上すると、つづくインド戦を5-0で快勝し、リオ行の切符獲得に望みをつないだ。得点は、代表歴最長のエース黒田智成が各ゲーム1点ずつに加え、さらに、パラリンピック出場初挑戦となる若きエース川村怜が韓国戦の1点を皮切りに、インド戦では4得点と大活躍した。川村は、「(リオに行くには)目の前にある試合に勝つしかない。日本が積み上げてきたサッカーを全部ピッチ上で表現したい。そうすれば、必ず道は開けると信じています」と力強く語った。

・6日: 大会4日目(5日)を終え、3勝1分け(勝ち点10)の中国、2勝2分け(同8)のイラン、そして2勝1敗1分け(同7)の日本、2勝2敗(同6)の韓国まで、予選暫定4位までにリオ切符(2枚)の可能性が残されていた予選最終日。1試合目で中国がインドに勝利し、勝ち点13で1枚目の切符を手にした。

2試合目のイラン-韓国戦で、イランが引き分け以下に留まり、3試合目に日本がマレーシアに勝利すれば、2枚目の切符を手にできるはずだった。だが、自力に勝るイランが韓国に4-0と快勝。日本のリオへの道はここで閉ざされた。

雨が強まる中、キックオフとなった3試合目。スタンドには約900人の人々が、盛大な「ニッポンコール」で日本代表を迎えた。難しいだろうモチベーションのなか、また、豪雨のため途中13分半も試合が中断するようなピッチコンディションのなか、日本は川村が前後半に1点ずつをあげ、マレーシアに勝利。リオへの切符には届かなかったが、予選3位を確定させた。

試合後、魚住監督は、「この4年間、選手はひたむきにリオへの出場を目指してやってきました。そして、そんな選手たちをスタッフは本当に懸命に支えてくれ、また本当に多くの方々に我々は支えられ、ここまで歩んできました。そのなかで最後、結果でお返ししたかったが、それが届かなかったことは私が責任を痛感するところです」と唇をかんだ。

「自力でのパラリンピック初出場」という夢にまた、あと一歩、届かなかったが、さらなる進化を感じさせる戦いぶりだった。4年前の冬、ロンドンパラリンピック出場を惜しくも逃して以降、魚住稿監督体制となり、「総力戦」でリオを目指してきた。日本らしさの象徴、1-2-1のダイヤモンド型の守備を徹底して磨き上げた。それは、昨秋の世界選手権では流れの中では1失点もせず、今大会も中国に1失点はしたが、陣形が大きく崩されるような場面は一度もなかった。

攻撃力は長年の課題だったが、ベテランエース黒田に加え、川村という厚みも加わり、下位チーム相手とはいえ、「取るべき時間帯にしっかりと得点できたことはひとつの結果がだせた」と魚住監督は評価した。さらに、今大会ここまでで日本の9得点中、7点を挙げている川村は、「中国やイラン相手にも点を取って勝てるようにならないと上には行けない。もっともっとレベルを上げて、イランや中国にもしっかりと勝てるように、点を取れる選手になりたいと思う」とさらなる成長を誓っていた。

試合終了後、雨が降り続くなか、「ニッポンコール」を繰り返すスタンドのサポーターに対し、佐々木ロベルト泉は目を赤くしながら、「4年間、ありがとうございました。まだ夢は終わらない!」と叫んだ。「自力での初出場」の目標は未達に終わったが、20年東京大会はすでに自国開催枠での出場が決まっている。さらに大きな目標を設定し、今度こそ輝く笑顔を見せてほしいと思う。

なお、日本代表は今日7日、韓国とのアジア選手権3位決定戦に臨むことになっている。川村は、「この多くのサポーターの前で、このピッチで戦えるのも明日が最後。明日勝つことが次につながると思うので、積み上げてきたことをしっかりとピッチ上で表現すれば必ず明日も勝てる。最高の準備をして、最高のパフォーマンスで(大会を)終えたいと思います」と力強く前を向いた。

大会最終日の予定は下記の通り。2020年東京大会への一歩を踏み出す日本代表の挑戦をぜひ目撃してほしい。

<IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015>
・7日(月):最終日
14:00 5位決定戦 (マレーシア-インド)
17:00 3位決定戦 (日本-韓国)
19:00 決勝戦 (中国-イラン)

▼大会公式サイト
http://www.asia2015-blindfootball.com/
▼チケット購入サイト
http://www.b-soccer.jp/8368/news/asiaticket.html
▼Ustreamによる、ライブ映像配信
http://www.ustream.tv/channel/VT7qK5KkEj2
▼スカパー!衛星放送生中継 
http://www.bs-sptv.com/b-soccer

■ブラジル発
・5日: 国際パラリンピック委員会(IPC)によれば、ちょうど1年後に開会式を迎えるリオデジャネイロ・パラリンピックを記念して9月7日に当地で行われるパラリンピック・フェスティバルに出席する予定のフィリップ・クレイヴン会IPC長がリオ大会について、「記録破りの成功を収める大会となり、それは南アメリカの変革をもたらすほどだろう」とコメントした。

新競技カヌーとトライアスロンを含む全22競技が実施される同大会には過去最高となる、約170の国と地域から4,350名以上の選手の参加が見込まれている。会長はさらに、会場観戦者とテレビ視聴者の数も過去最高になるとみる。過去最高を記録した12年ロンドン大会での累計視聴者数は38億人だったが、リオ大会について会長は、「新たな地域での放送契約も締結され、累計視聴者数は40億を超えるだろう」

また、北京(08年)やソチ冬季(14年)大会を契機に、中国やロシアにバリアフリー化が進んだように、「リオ大会が契機となって、ブラジルのみならず、南アフリカ全体にもアクセシビリティを考えた街づくりが広がり、大会後も多くの人々が恩恵を享受するだろう」などと期待を寄せた。

■陸上競技
・8月30日: 札幌市内で「はまなす車いすマラソン」が開催され、国内トップクラスの車いすランナーが多数参加、ハーフマラソンの部はゴール前のスプリント勝負を制した浩之が40分54秒で優勝した。1秒差で2位に樋口政幸、3位に洞ノ上浩太がつづいた。

同大会は昨年まで「はまなす国際車いすマラソン」の名称で6月に開催されていたが、今年から新たな名称で「北海道マラソン」と併催されることになった。一般と障がい者の大会を一体的に行うことで、障がい者スポーツへの理解を深め、また車いす選手の参加増への期待、さらには運営体制(警備や医療救護など)共有のメリットなどが、その理由。

また、「北海道マラソン」には、日本盲人マラソン協会(JBMA)の男女強化指定選手13名(うち女子5名)が夏マラソンの強化レースの位置づけで出走した。同選手らのなかでトップフィニッシュは、T12クラス(弱視/伴走者なし)の岡村正広で2時間31分41秒。女子では3時間23分28秒の西島美保子がトップだった。

■競泳
・5日~6日:国内最高峰の大会、「2015ジャパンパラ水泳競技大会」が東京辰巳国際水泳場(江東区)で開催された。7月にイギリスで開催された世界選手権で金メダルを獲得し、リオデジャネイロ・パラリンピック代表内定を得た木村敬一や7年ぶりに現役復帰を果たした成田真由美なども出場。

日本身体障がい者水泳連盟によれば、アジア新記録2、日本新記録30、大会新記録58と記録ラッシュに沸いた。また、1年後に迫ったリオ大会の参加標準記録突破選手も生まれ、手応えある大会となった。

(文・写真: 星野恭子)