パラスポ・ピックアップ・トピック (9)歴史が動く瞬間を目撃しよう! ~リオへの一歩。ブラサカ・アジア選手権まもなく開幕(星野恭子)
「パラリンピックに出る準備は整っている。あとは、その切符を獲るだけ」――ブラインドサッカー(ブラサカ)の魚住稿日本代表監督は、そう話します。その切符をかけた決戦の場、「IBSAブラインドサッカーアジア選手権」が9月2日(水)、東京・渋谷の国立代々木競技場フットサルコートで幕を開けます。7日(月)までつづく今大会で、日本代表は5カ国(中国、イラン、韓国、インド、マレーシア)と順に戦い、2位以内に入れば、リオデジャネイロ・パラリンピック行きの切符をつかめます。決まれば、日本代表にとって初めてのパラリンピック出場となります。リオ予選を兼ねたアジア選手権(9/2-7)に向け、最終合宿中の日本代表=国立代々木競技場フットサルコート(東京・渋谷区)
日本でのブラサカの歴史は2002年、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)の設立に始まります。以来、04年アテネ大会から正式種目になったパラリンピックへの出場に挑んできたものの、そのたびに跳ね返されました。なかでも、12年ロンドン大会の予選を兼ね、前年冬に宮城県仙台市で行われたアジア選手権はとても悔しい結果となりました。4カ国総当たり戦で、1勝1敗で迎えた最終イラン戦。引き分けでも切符が手に入ったこの試合、両チーム無得点と均衡した後半、残り15分から日本はまさかの2失点。つかみかけた切符はするりとこぼれました。
この悔しさをバネに、日本代表は12年6月に就任した魚住監督のもと、懸命に強化を図ってきました。数々の国内合宿や海外遠征を重ね、経験と自信を積んだ日本代表。先日8月27日に都内で行われたアジア選手権壮行会では力強い言葉が並びました。
落合啓士主将は、「この4年間はとても充実していて1点の曇りもない。自信に満ち溢れ、いい意味で平常心。リオに行けるイメージも鮮明に描けている」。代表のレジェンドでエース、黒田智成選手は、「僕がこれまで戦ってきた日本代表の中で確実に一番強いチーム。試合をするのが楽しみ。アジア選手権は厳しい戦いになると思うが、必ず切符を獲りたい。(点取り屋として)常にゴールを目指したい」と意気込みます。
11年の悔しさを知る一人、田中章仁選手もまた、決戦を前に、「あんな悔しい思いは2度としたくない。それが今の気持ち。この4年、練習を積み、海外遠征もたくさんこなし、自信をもてた。いいイメージで大会が楽しみ」と話します。魚住監督も、「選手たちはこの4年間、ひたむきに誠実に、我々を信じてやりきってくれた。このチームは過去最強の日本代表」と胸を張ります。
2020年東京大会の開催が決まり、日本は開催国枠として本大会出場が決まっています。つまり、自力でパラリンピック初出場を掴み取るのは、リオ大会が最後のチャンス。それだけに今大会にかける選手の思いは強いものがあります。初のパラ予選に臨む、若きエース、川村怜選手は、「2020年の前にリオでパラリンピック大会を経験したい。そのためにも、このアジア選手権はとても重要。貴重な経験となるし、この緊張感を楽しめるよう、しっかり準備したい。(エースとして)1点でも多く取って、チームの勝利に貢献したい」と抱負を話します。
また、今大会に向けブラジルから帰化し日本代表として母国でのパラリンピック出場を目指す、佐々木ロベルト泉選手は、「ブラジルには家族もいて応援してくれる。自分のできることを見せたい。帰化を進めてくれた魚住監督の期待にも応えたい」とリオへの思いを募らせます。佐々木選手は出稼ぎ中の日本で交通事故により視覚障害者となり、ブラサカと出会いました。
さて、こんなふうに力強く、いい意味で楽しそうに、「パラリンピック初出場をかけた決戦」に臨む日本代表たちの雄姿を、ぜひ一緒に現場で目撃しませんか?
見どころの一つは、日本チームの特長である、組織化された堅い守備です。日本の守備の陣形は4人のフィールドプレイヤーがボールをもった相手に対して1-2-1で並ぶダイヤモンド型。4人が互いの距離を保ち、相手の進撃を阻みます。しかし、隣に並ぶ味方との距離を目で見て測ることができない選手たちにとって、陣形を保つのは至難の業です。魚住監督は、「簡単にやっているように見えるが、その裏には非常な努力と濃密なコミュニケーションが隠されている。私は、『世界一美しいダイヤモンド』だと思う。(アジア選手権で)ぜひ見てほしい」と力をこめます。磨きのかかった“世界一美しいダイヤモンド”をぜひ間近で!
もともと堅守速攻型の日本は、昨秋東京で開催された世界選手権で強豪たちを相手に、流れのなかでの失点はなく、12チーム中、過去最高の6位となり、守備力に手応えを得ました。そこから約9カ月、その精度にさらに磨きをかけ、「50cm単位での修正にこだわってきた」と魚住監督。
距離の保ち方については、例えば落合主将は「2秒に1回は確認する」と言います。実際、落合選手のプレイぶりに注目してみると、「トモー、トモー(黒田選手の愛称)」というふうに、隣にいるだろうチームメートに頻繁に声をかけ、「オッチー」と返ってくる声を頼りに微調整しているようです。そして、これは「約束事」としてチームに浸透し、美しいダイヤモンドが保たれているのです。この“業”、たしかに必見です。
また、スポーツの生観戦の楽しみはさまざまですが、ブラサカならではの楽しみ方をもう1つだけ。ご存知の方も多いかと思いますが、視覚障害のある選手たちが行うブラサカは鈴入りの特性ボールが奏でるシャカシャカという音と、監督やキーパー、ガイド(コーラー)からの声による指示を頼りにプレイします。そうした音声が選手によく届くよう、試合は基本的に静寂の中で行われ、観客さえも声を出さず、じっと見守ることを強いられます。
特にゴール前の攻防は息をひそめて見守ってほしい場面です。例えば、1本目の惜しいシュートの後は思わずため息が漏れてしまう場面ですが、そこはぐっと我慢が必要です。こぼれ球の行方を聞き分け、次のチャンスにつなげるには、「静けさ」が何よりもの後押しになるからです。
その分、シュートが決まったときには存分に声をだし、選手とともに喜びあうことができます。また、試合前の応援や、タイムアウトや選手交代時などでも、思いを発散するように声を出し、大いに盛り上がることができます。見えない選手にとって大声援はお腹に響き、体の芯を刺激して、「次」への大きな力になるそうです。
このメリハリの効いた応援スタイルこそ、ブラサカスタイル。魚住ジャパンのモットー、「総力戦」の一員となって試合に入り込めば、きっと楽しいはず。それが、パラリンピック初出場という歴史をつくるかもしれない試合だったら、応援しがいもひとしおでしょう。
実は、今大会の会場は原宿駅至近の便利な場所にある分、車道にも近く、また上空にはヘリコプターが舞うこともあり、さらには大会期間中、近くでロックコンサートが開催予定とか。そこで、直前合宿では騒音対策のため、練習中にあえてBGMを流すなどブラサカらしくない環境への対応にもはかり、準備は万端です。
今大会では、ネットや衛星放送でのライブ中継(下記)なども予定されていますが、スポーツは生観戦が一番! 日本戦のほとんどは夜7時半キックオフと、お仕事帰りの観戦も可能です。悲願のパラ初出場が決まる歓喜の瞬間に立ち会えるかもしれないチャンスなんて、そうそうありません。会場でぜひ、お会いしましょう!2015アジア選手権に臨む日本代表選手団=8月27日壮行会より
<IBSAブラインドサッカーアジア選手権2015>
・9月2日(水)~7日(月)
・国立代々木競技場フットサルコート (東京都渋谷区)
・日本戦予定
2日19:30~ vs中国
3日19:30~ vsイラン
4日19:30~ vs韓国
5日17:30~ vsインド
6日19:30~ vsマレーシア
7日: 順位決定戦 (時間は総当たり戦の結果しだい)
・大会公式サイト: http://www.asia2015-blindfootball.com/
・チケット購入サイト: http://www.b-soccer.jp/8368/news/asiaticket.html
▼Ustreamによる、ライブ映像配信
6カ国総当たり戦と順位決定戦全18試合をインターネットで生中継
・配信チャンネル: http://www.ustream.tv/channel/VT7qK5KkEj2
▼スカパー!による、衛星放送生中継
日本戦全5試合と決勝戦を放送。さらに、初戦(9/2、vs中国)とリオ切符の行方が確定するマレーシア戦(9/6)はスカパー!契約者なら無料で視聴可。
・スカパー!大会特設サイト: URL:http://www.bs-sptv.com/b-soccer
(文・写真:星野恭子)