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「週刊Jリーグ通信」第2ステージ第8節「シュートが多ければいいというものではない?」(大住良之)

Jリーグ1部(J1)の「第2ステージ」は8月22日(土)を中心に第8節が行われ、鹿島アントラーズが首位を守った。

この節のうち1試合のみ、柏レイソル×松本山雅FCが20日(木)に行われたのは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝第1戦のためだ。柏は25日(火)に強豪・広州恒大(中国)をホームに迎える。松本戦が他チームと同じ22日(土)の試合だと、広州恒大戦まで「中2日」となる。ACLに出るチームをできる限り応援するという方針をとっているJリーグは、できる限り良いコンディションで試合に臨んでもらおうと、2日前倒しにすることを認めたのだ。

もう1チーム、ACL準々決勝に出場するガンバ大阪は全北現代(韓国)との対戦だが、その第1戦は8月26日(水)。アウェーの全州での試合なので土曜日に試合をしても「中3日」を確保できるため、清水エスパルスとのホームゲームを動かさなかった。

さて、首位をキープした鹿島のことは、先週も少し触れた。「第2ステージ」第4節を前に監督がトニーニョ・セレーゾから石井正忠に交代し、以後全勝で、この第8節にはホームでモンテディオ山形を3-0下して5連勝となった。

山形は「第2ステージ」にはいってまだ勝利がなく、0勝4分け4敗で最下位。首位と最下位の試合が3-0というのは、ごく当然のように思うかもしれない。

しかし興味深いデータがある。この試合、山形は11本のシュートを打った。鹿島は7本だけだった。なかでも前半は山形が7本、鹿島はわずか2本しかシュートを打てなかった。それでも鹿島は前半40分のFW金崎夢生のゴールで先制した。

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鹿島は前節のベガルタ仙台戦から先発5人を入れ替えてこの試合に臨んだ。その影響か、前半は山形の攻撃を受ける形になった。前半5分にCKからDF植田直通がヘディングシュートを放ったが、その後はシュートも打てず、山形のFWディエゴに何度も決定的なチャンスをつくられた。鹿島がようやく2本目のシュートを放ったのが前半40分。それが金崎の先制点だった。

そして後半、鹿島は12分、29分と加点する。この試合3本目のシュートがMFカイオの2点目、そして4本目がMF遠藤康の3点目となった。すなわち、鹿島は放ったシュートを3本連続で山形のゴールに叩き込んだのだ。このあたりに、現在の鹿島の好調さの秘密があるのかもしれない。

もちろん、どの試合でも相手よりシュート数が少ないという意味ではない。第7節の仙台戦(3-2の勝利)では25本のシュートを放ち、仙台に5本しかシュートを許さなかった。5連勝中の得失点は、得点12、失点3、シュートは65本(5.4本で1得点)、被シュートは36本(12本で1失点)だった。

サッカーのチームが目指すのは勝利である。そのためには得点しなければならない。また失点数をその得点数より少なくしなければならない。得点するためにはシュートを打たなければならない。チームのトレーニングというのは、いかに得点するかというかというより、いかにシュートを打つかというプロセスの統一イメージをつくり、試合でその状況を数多くつくり出すために行うものだ。

しかし、相手より数多くのシュートを打ったからと言って、相手より数多くの得点が得られるわけではない。

それがサッカーの最も難しい部分であり、また、サッカーをサッカーたらしめている最も特徴的なポイントと言ってよい。

ラグビーと比べるとわかりやすいかもしれない。シュートとは、ラグビーなら「トライ」に当たる(サッカーのことを書いた英文では、シュートのことをよく「goal attempt=ゴールの試み」と表現する)。ラグビーは「トライ」すれば大きなポイントになるが、サッカーではシュートだけでは得点は得られない。

今季のJリーグ「第2ステージ」の第8節まで、全72試合を調べてみた。

72試合のうち引き分けが16試合。勝負が決したのは56試合だった。そのうち相手より多くのシュートを放ったチームが勝ったのは24試合。相手よりシュートが少なかったチームの勝利が28試合。4試合は、2チームのシュート数が同じだった。

すなわち、相手より多くのシュートを打っても、それは勝利を約束してくれるものではなく、今季のJ1「第2ステージ」第8節までの72試合では、相手よりシュートが少ないチームが勝ったケースが多いのだ。

第3節の浦和レッズ×サンフレッチェ広島は、浦和が圧倒的な攻撃を見せて広島を防戦一方に追い込み、広島ゴールに向かって23本(前半12本、後半11本)ものシュートを放った試合だった。前半、広島は浦和の3分の1の4本しか打てなかった。しかし浦和の得点は前半35分にMF関根貴大が決めた1点のみ。広島は後半22分にカウンターから交代出場のFW浅野拓磨が抜け出して同点ゴールを決め、39分には浅野のドリブル突破を浦和DFが防いだところを拾ったMF青山敏弘が逆転ゴールを決めて2-1で逆転勝ち。これが「第2ステージ」開幕から5連勝という広島の快進撃を支えた。

サッカーの質としては、はるかに浦和が上だった。見事な攻撃で突破し、シュートの雨を降らせた。しかし勝利は広島のものだった。

ひと言で「決定力」と言ってしまえばそれまでだが、決定的な形をつくってもそれを決めきるかどうかはまた別の問題であり、そこがJリーグを筆頭に日本サッカーの重要な課題であるのは間違いない。


文:大住良之(サッカージャーナリスト)