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「週刊Jリーグ通信」第2ステージ第5~7節「監督交代効果」(大住良之)

JリーグはEAFF東アジアカップ(8月2日~9日、中国・武漢)をはさんで「第2ステージ」の第5節から第7節まで開催された。

7月25日(土)の第4節に続き、29日(水)に第5節、日本代表は8月2日(日)、5日(水)、9日(日)と3試合をこなし、10日(月)に帰国して12日(水)第6節、16日(日)に第7節と試合をこなした。「準備の時間がほしかった」と日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督は不満をもらしたが、こんな日程では、クラブ側もやりきれない。

なかでも、浦和レッズのDF槙野智章とFC東京のDF森重真人の2人は、この全試合にフル出場。槙野は8月16日(日)の第7節、湘南ベルマーレ戦で湘南の攻撃を無失点に抑えただけでなく後半13分に自ら決勝ゴール。だがミハイロ・ペトロヴィッチ監督は「本来ならプレーさせたくない状態」と、槙野が疲れ切っていることを明かした。

Jリーグは今季「2ステージ制」を復活させたが、チャンピオンシップの日程をつくるためにレギュラーシーズンの閉幕が例年より2週早くなっているうえに、両ステージの間に無意味な中断期間(週末1回)をつくったことが、この酷暑のなかでの連戦を生むことになった。こんなことが日本のサッカーの発展につながるのだろうか。

さて第2ステージでは、中断前はサンフレッチェ広島が開幕から破竹の5連勝で首位を快走していたが、中断後にいずれもホームで鹿島アントラーズに0-1、柏レイソルに0-3と連敗、2位に後退した。広島は東アジアカップには代表選手をひとりも出しておらず、丸2週間を調整に充てることができた。広島自体の調子が落ちたわけではない。中断期間中に対戦チームがじっくりと分析し、戦い方を研究した結果だろう。

そして首位に立ったのが鹿島だ。5勝1分け1敗、勝ち点は16。ところがこの鹿島、「第2ステージ」の第3節を終わった時点では1勝1分け1敗で11位と低迷していた。第4節からの4連勝で急上昇し、首位に立ったのだ。背景にあるのは監督交代だ。

「第1ステージ」では6勝4分け7敗と負け越して8位。「第2ステージ」でも修正できず、第3節には前の節まで7連敗だった松本山雅FCに0-2で完敗したことで、クラブはブラジル人のトニーニョ・セレーゾ監督の解任に踏み切った。

セレーゾ監督は2000年に鹿島の監督に就任し、その年に史上初の「3冠(Jリーグ、ナビスコ杯、天皇杯)」獲得に成功、2005年まで指揮をとり、2013年に復帰、クラブ財政悪化により急激に若手への切り替えを迫られるなか、2年目の昨年には3位につけた。

代わって就任したのは、コーチから昇格の石井正忠監督だ。鹿島アントラーズのスタート(1992年)から97年までMFあるいはDFとしてプレーし、Jリーグ最初のタイトルである「1993年第1ステージ」優勝を決めた浦和戦(駒場スタジアム)では決勝点を決めている。1999年からユースコーチ、フィジカルコーチ、トップチームコーチを歴任するなど、ほぼ「鹿島ひと筋」でサッカー人生を歩んできた人だ。

大幅にチームを変えたわけではない。しかし石井監督着任とともに鹿島は勝ち始めた。F東京に2-1(得点:柴崎岳、昌子源)、サガン鳥栖に3-0(柴崎2点、赤崎秀平)、首位・広島に1-0(山本脩斗)、そして第7節には0-2の劣勢からベガルタ仙台に3-2(山本、土居聖真2点)で大逆転勝ちした。

この仙台戦、1-2の劣勢のまま終盤を迎えた鹿島は、後半35分に土居を投入、その土居が後半37分、42分に連続するという鮮やかな勝利だった。

今季のJ1では、すでに3クラブで監督交代が行われている。世界のサッカーを見回してみても監督交代は日常茶飯事。Jリーグはこれでもまだ少ないほうだ。

悪い結果が続き、何かを変えなければならない。しかし選手を何人も移籍させることは簡単にはできない。手っ取り早くチームの雰囲気を変えるには、監督を替えるしかない。選手たちの気持ちが引き締まり、起用方法なども変わることで緊張感が生まれる。

セレーゾ前監督より石井現監督が優秀であるということではない(そうなのかもしれないが…)。ただ、石井監督がそれまでの鹿島に欠けているものが何かを的確につかみ、それを補うことに成功した結果なのだろう。

今季の最初の監督交代はヴァンフォーレ甲府。「第1ステージ」の第11節終了後、5月13日に1年目の樋口靖洋監督を解任し、佐久間悟GMが自ら指揮をとることになった。

この監督交代の効果も劇的だった。それまで11戦して2勝9敗、最下位に沈んでいた甲府が、佐久間新監督就任後は「第1ステージ」の残り6試合を無敗(4勝2分け)で乗り切り、一挙に「残留圏内」の12位まで順位を上げてしまったのだ。

「第2ステージ」では7試合して1勝2分け4敗と調子を落としている甲府だが、年間通算順位はまだ14位。「残留圏内」にいる。

そして甲府と鹿島に続き、8月1日には3人目の監督交代があった。「降格圏内」からなかなか抜け出せない清水エスパルスで大榎克己監督が辞任、田坂和昭コーチが昇格したのだ。興味深いことに、田坂コーチは6月1日付けでJ2大分トリニータの監督を解任され、7月2日に清水のコーチになったばかり。監督交代は既定路線だったのかもしれない。

だが田坂監督は他の2人のようにはうまくいっていない。東アジアカップで10日間ほどの準備期間があったにもかかわらず、リーグ再開後の2試合は湘南ベルマーレに1-2で敗戦、アルビレックス新潟に1-1で引き分けと、まだ勝利がない。

監督を替えれば必ず連勝するなら、もっと多くの監督交代劇が起こっているだろう。しかしときには、監督交代でさらに事態が悪いことになることもある。清水の田坂監督は確固たる信念の持ち主であり、安易な妥協をしない強いパーソナリティーの持ち主だが、清水の選手たちはその指導に応えられるだろうか。

シーズン半ばでの監督交代は「非常事態」ではあるが、1シーズンに必ずいくつかのチームがこの状態に陥る。今季も、さらに交代劇が起こる可能性は十分にある。

文:大住良之(サッカージャーナリスト)