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《サッカー》東アジアレポート①「分かれた明暗」(大住良之)

なぜこんな時期にこんなところで大会をするのか―。まず思い浮かぶ疑問がこれだ。

中国湖北省の武漢。長江(揚子江)河口の都市上海から西、1000キロほどのところにあり。内陸で気温が高いうえにたくさんの湖沼に囲まれており、湿度も高い。とてもサッカーなどできるコンディションではない。この時期に中国で大会を開催するなら、夏でも22度ほどにしかならないという雲南省の昆明あたりが最適と思えるのだが…。

ともかく暑い。日本も暑いが、武漢の暑さは格別のような気がする。そのなかで8月1日(土)に開幕したEAFF東アジアカップ。男子と女子の大会がいっしょに開催され、それぞれ4チームが参加して総当たりで優勝を競う。今回は男女とも日本、中国、韓国、北朝鮮が出場し、初日には女子が登場し、2日目には男子の試合が行われた。そして日本は男女とも北朝鮮と対戦し、女子(なでしこジャパン)は2-4、そして男子代表は1-2でと、ともに敗戦となった。

男女ともにまず日本が試合を支配し、北朝鮮は日本のパスワークに振り回されていたが、暑さのせいで日本の動きが落ちてくると果敢な攻撃をかけるようになり、最後はふらふらになりながらも日本を突き放した。

女子は7月5日までワールドカップ(カナダ)があったため、ワールドカップでレギュラーとして活躍した選手やベテラン、そしてヨーロッパのクラブに所属する選手たちは呼ばず、出場機会の少なかった選手と代表経験のほとんどない若手で構成された。

男子も「国内組」だけ。この大会は国際サッカー連盟(FIFA)が認める「国際試合カレンダー」にはいっておらず、クラブには選手を放出する義務がないからだ。

こうした状況は韓国もほぼ同じで、中国と北朝鮮はほぼフルメンバーなのに対し、日本と韓国は国際経験の少ない選手を大量に起用しての参加となった。なでしこジャパンの佐々木則夫監督、男子日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督にとっては、そうした若手のなかから今後使える選手がひとりでも多く出てきてほしい、若手の力を見極めたいという大会だっただろう。

だが男女ともに北朝鮮に敗れるなかで、当然のように評価を上げた選手と、逆に「ダメ出し」をされた選手がいた。

女子で良かったのは、左MFで先発し、前半の途中からボランチに移ってどちらでも果敢な動きを見せ、後半25分には強烈なミドルシュートでなでしこジャパンに同点ゴールをもたらした杉田亜未(伊賀FCくノ一所属)だ。小柄ながら切れ味鋭いプレーが目を引いた。

一方、信じがたいほど悪かったのがMF上尾野辺めぐみ(アルビレックス新潟レディース)だ。ことしのカナダ大会だけでなく2011年の女子ワールドカップ・ドイツ大会のメンバーであり、今大会の23人のなでしこジャパンでは最年長の29歳。ボランチで先発したが中盤での安易なミスパスが多く、押していた日本が北朝鮮にペースを渡すきっかけをつくってしまった。

男子では、ともに初代表のMF武藤雄樹(浦和)とDF遠藤航(湘南)が、デビュー戦とは思えない落ち着いたプレーを見せた。

前半3分の日本の先制点は、右に上がった遠藤がパスを受けるとタイミングを逃さずにゴール前に鋭いボールを送り、走り込んだ武藤がワンタッチで決めたもの。武藤の良さを完璧に引き出した遠藤のパスはすばらしかった。

武藤はデビュー戦で得点しただけでなく、今季の浦和で急激に台頭した要因である判断の速さと思い切りの良さが光り、チャンスメークでも大きな働きをした。とくに前半24分、山口から縦パスを受けるとゴールに向かって走るFW川又堅碁(名古屋)にさらに鋭いパスを通した。川又は完全にフリー。そのまま突っ走ってゴールに流し込むだけだったが、なぜかストップして左足にもち替え、わざわざ相手を外してからシュート。GKに防がれた。

これが決まっていれば試合は終わっていただろう。しかし決められなかったことが北朝鮮に勇気を与え、この試合で初めて日本は守勢に回るようになる。宇佐美貴史(G大阪)のドリブルシュートも永井謙佑(名古屋)のチップシュートもセーブされ、チャンスに外し続けて試合はまるで6月のシンガポール戦(0-0の引き分け)のようになっていく。

遠藤は「生まれて初めて」という右サイドバックだった。湘南では3バックの右ストッパーU-22日本代用ではボランチと、常にピッチの中央でプレーしてきた遠藤だが。この新しい役割を見事にこなした。守備面での一対一の強さは、すでに日本でもトップクラスではないか。このままA代表の右サイドバックのレギュラーにしてもいいとまで感じた。北朝鮮は遠藤のサイドからの突破の試みがことごとくつぶされ、右に偏った攻撃となった。

武藤、遠藤のように見事なプレーを見せた選手がいた一方、大きく失望させた選手もいた。まずは3月にハリルホジッチ監督が就任してからチームにはいっているFWの永井と川又だ。川又はまったくボールが収まらず、中央での組み立てを苦しくさせた。永井は周囲の選手とまったく合わせることができず、永井のところでリズムが狂った。そしてふたりとも決めなければならないシュートを決めきることができなかった。

代表2試合目のボランチ谷口彰悟(川崎)は、足でのパスはいいのだがヘディング能力の低さを露呈し、運動量も足りなかった。やはり代表2試合目の左サイドバック藤春廣輝(G大阪)も、守備面であまりに非力で、持ち前の攻撃力を生かすこともできなかった。

猛烈な暑さのなか、少しでもコンディションに不安があると思い切ったプレーができず、「ひどい出来」のように見えてしまうのかもしれない。しかし佐々木監督、ハリルホジッチ監督のどちらも、この大会を通じて「使える選手とそうでない選手」の見極めははっきりとつきそうだ。

大会のこれからの日程は、8月4日(火)に女子の韓国戦、翌5日(水)に男子の韓国戦、そして2日おいて8日(土)に女子の中国戦、そして9日(日)は男子の中国戦となる。

この大会は暑さがひどいうえに疲労も重なる。男女とも「ターンオーバー(選手を入れ替えながらの戦い)」になるだろう。初戦で悪かった選手たちにも少なくとも1回はプレーを見てもらうチャンスが訪れるはず。そこで盛り返せるか…。

文:大住良之(サッカージャーナリスト)