パラスポ・ピックアップ・トピック (6) 2020東京パラ、会場満員化へのヒント(星野恭子)
すったもんだしていた、2020年東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の建設計画は7月17日、ついに見直しが発表されました。1週間後の24日には、同オリンピックの開幕までちょうど5年を記念して大会エンブレムもお披露目されました。大会に向かって時計の針は確実に進んでおり、待ったなしの状況です。
さて、大会の成功を測る指標にはメダル獲得数や興行収入額などさまざまありますが、日本パラリンピック委員会(JPC)の鳥原光徳会長は、「2020年東京パラリンピックの全会場を満員にする」という目標を掲げています。観客席がいっぱいになることは、その何倍もの人がパラリンピックに関心を持っていることの表れであり、それは同時に日本が障がい者スポーツ、さらには障がい者へ深い理解を示す成熟した社会であると世界に発信することにつながると会長は話します。
実際、2012年に開催されたロンドン・パラリンピックは、約270万枚のチケットが完売し、どの会場も大声援に湧き、「パラリンピック史上、最も成功を収めた大会」と評価されました。
とはいえ、パラリンピック発祥の地であるロンドンでも、大会招致に成功した2005年当時は、その事実を知る市民はそれほど多くなく、大会関係者はパラリンピック認知度アップのため、開幕までの7年間、「We educated people (我々は市民を教育した)」と言います。
例えば、そんな“教育”の一つが、学校訪問。大会ピーアールのため選手が小中学校を訪れ、競技をデモンストレーションしたり、講演したりするものですが、その際、オリンピック選手とパラリンピック選手をペアにして参加させるようにしたそうです。子どもたちは、例えば、義足スプリンターのスピードに感嘆し、車いすバスケットボールの選手が座ったままで鮮やかにシュートを決める姿に尊敬のまなざしを向けます。そして、その感動を自宅に持ち帰って「今日ね、すごいアスリートに会ったんだよ・・・」と熱く語り、家族も巻き込むことで、パラリンピックファンが増えていったというのです。
実は、同様の取り組みが今、日本でも少しずつ行われています。5月下旬に千葉市内で行われた、ウィルチェアー(車いす)ラグビーの国際親善大会「2015ジャパンパラ ウィルチェアーラグビー競技大会」では、事前に会場周辺の小学校数校を選手らが訪問し、体験会などを行っています。さらに、大会初日には事前訪問を受け入れた2校から約650名の生徒が招待され、激しいタックルや得点シーンのたびに大歓声をあげました。大会開幕戦の日本-ニュージーランド戦には、観戦に訪れた約650人の小学生による“ニッポンコール”が響き渡り、日本チームに力を与えた=2015年5月22日/千葉ポートアリーナ
ある6年生の男児は「迫力があってびっくりした。ぶつかりあいながらも、冷静にシュートを決めるところがかっこいい」など目の当たりにした競技の面白さを笑顔で話してくれました。また、大声援を受けた選手たちにも、「励みになった。力になった」と好評でした。
会場ではほかにも、ウィルチェアーラグビーの認知・普及を図る取り組みがみられました。例えば、大会を主催したJPCは事前に、『かんたん!ウィルチェアーラグビーガイド』という小冊子を作成し、観戦者に無料配布していました。パラスポーツは、一般のスポーツとはルールが異なったり、障害の内容や程度によるクラス分けなどがあり、「少し分かりにくい」と言われます。こうした冊子は競技の基本を理解するのに役立ちます。
さらに、全試合を通してプロのアナウンサーと元日本代表選手らによる実況放送も行われました。プレイの解説から、ウィルチェアーラグビーのルールや見どころなどまでが盛り込まれ、観戦初心者だけでなく、競技をより楽しむための助けになっていました。JPC作成の『かんたん!ウィルチェアーラグビーガイド』
さらに、試合の合間には体験会も行われました。私も参加してタックルの衝撃とその恐怖感に体感したのですが、「選手が試合中に受ける衝撃の半分以下のタックルだった」と説明され、選手のすごさを改めて実感しました。この体験会はとても人気で、連日長蛇の列でした。
こんな風に、「2020年会場満員化」の取り組みは少しずつ進められています。パラスポーツは日常的に目にしたり、まして体験したりができにくいものです。まずは実際に見て、感じてもらうことが面白さを知る一番だと思います。そんなチャンスが今週末、あります。「2015ジャパンパラ ゴールボール競技大会」です。
ゴールボールは視覚障害者向けに開発された競技です。ロンドン・パラリンピックでは、日本女子チームが史上初めて金メダルを獲得したので、ご存知の方もいるかもしれません。その女子チームがロシア、トルコ、韓国チームと対戦する、国際親善大会が「ジャパンパラ大会」です。大会は7月31日(金)から8月2日(日)まで足立区総合スポーツセンターで行われ、入場無料、観戦自由です。試合の合間には体験会も予定されています。また、ゴールボールチームも、ウィルチェアーラグビーと同じく、大会ピーアールを兼ねて、地元足立区の小学校訪問も行ったと聞いています。
百聞は一見にしかず! ぜひ会場で一度、パラスポーツをご観戦ください。今から、観戦に慣れておけば、2020年の地元開催のパラリンピックもより楽しめるでしょう。そして、「満員化計画」にご協力ください。このコラムでは今後も、身近に観戦できるパラスポーツの大会情報をお送りしていきます。
ジャパンパラ ゴールボール競技大会
日時:2015 年7 月31 日(金)開会式 9 : 30 競技開始11:00 ~ 19:30
8 月01 日(土)競技開始9 : 45 ~ 18:30
8 月02 日(日)競技開始10 : 00 ~ 13:30
場所:足立区総合スポーツセンター(足立区東保木間二丁目27 番1 号)
※入場無料
(文・写真:星野恭子)