「週刊Jリーグ通信」第2ステージ第4節「そろそろ『危険水域』見えてきた」( 大住良之)
7月25日(土)に行われたJリーグ「第2ステージ」の第4節、私は川崎の等々力競技場で川崎フロンターレ対清水エスパルスを取材した。
余談になるが、等々力競技場はことし春に2年間にわたるメインスタンドの改築工事が完了、なかなか魅力的なスタジアムになった。とくにメインスタンドを外から見て左右非対称になっている2階コンコースへの階段のデザインは、スタジアムというより最新の大型ショッピングモールのようで、バス停から等々力緑地公園を抜けてこのスタジアムを見上げると、心躍るのを覚える。
しかしこの7月25日は猛烈な蒸し暑さに襲われた。夜7時のキックオフ時でもピッチレベルで気温30.0度、湿度67%。ほとんど風がなく、スタンドに座って観戦しているだけでもうんざりするような夜だった。そうしたなかで、試合は逆転、再逆転というスリリングなものとなった。
前半11分に川崎のエース大久保嘉人がMF森谷賢太郎とのパス交換でフリーになり、余裕たっぷりけり込んで先制。しかし守勢一方だった清水はDF犬飼智也の好プレーをきっかけに攻め込み、FWピーター・ウタカがヘディングで連続得点して逆転に成功する。
川崎は前半の4-3-3からシステムを3-4-3に変えて後半は再び攻勢に立ち、12分にはFKを生かして同点、26分には自陣から見事な速攻を組み立てて大久保が再逆転の決勝ゴールを叩き込んだ。1点目といいこの3点目といい、シュートに際しての大久保の落ち着きと果敢さは見ていてほれぼれするようだった。
さて、問題は清水である。「第1ステージ」で17戦して3勝4分け10敗、勝ち点13で最下位(18位)に終わったのだが、「第2ステージ」も第4節を終わって2分け2敗とまだ勝利がなく、勝ち点2で17位。「年間順位」では21戦3勝6分け12敗、勝ち点15で最下位となっている。
1993年のJリーグ初年度の在籍クラブは10。そのうち横浜フリューゲルスが1998年限りで消滅し、残る9クラブのうちJ2への降格を経験したことがないのは鹿島アントラーズ、名古屋グランパス、横浜F・マリノス、そして清水の4クラブに過ぎない。その清水が降格の危機に立たされているのだ。
昨年の7月に成績不振のチームを引き継いだのが現在の大榎克己監督(50歳)。リーグ後半は守備の立て直しに苦労し、順位を下げたものの、なんとか最終節で15位を確保して残留を決めた。しかし今季の「第1ステージ」は最下位。第2ステージでも苦戦が続いている。
清水は「第2ステージ」に向けて日本生まれの北朝鮮代表FW鄭大世(チョン・テセ)を韓国の水原から補強したが、手続きが遅れ、ようやくこの川崎戦で初出場した。
FWにこの鄭大世とナイジェリア代表FWウタカ、そして一昨年にドイツから復帰した大前元紀という力のある3人を並べ、左サイドのMFにはオーストラリア代表のミッチェル・デュークを擁する清水。DFにはクロアチア生まれ、カナダ国籍のデヤン・ヤコヴィッチもいて、けっして「弱い」と思える陣容ではない。
しかし「第2ステージ」がスタートしたばかりとはいえ、「降格」を決める「シーズン通算成績」ではすでに21試合を消化し、残りは13試合とどんどん少なくなっている。
18クラブで攻勢されるJ1からJ2への降格は3クラブ。16位から18位が、入れ替え戦などをすることなく自動的に降格となる。現時点では、勝ち点15で最下位の清水のひとつ上が17位モンテディオ山形(勝ち点17)、さらに16位がアルビレックス新潟(20)。「残留圏」の15位松本山雅FCは勝ち点21。「第1ステージ」終了時の15位はやはり松本だったが、その時点では「2」しかなかった最下位清水との勝ち点差が「6」へと開いている。
通常、「残留ライン」は試合数にいくつか上乗せした勝ち点が必要とされている。今季なら、「第1」と「第2」を合わせた両ステージの試合数34+アルファということになる。
智将・反町康治監(51歳)督率いる松本の「21試合21勝ち点」はぎりぎりの状況。下位チームのなかでは「第1ステージ」終了時で勝ち点14、17位、清水と同様3勝しかできなかった新潟が、「第2ステージ」ではすでに2勝を記録、勝ち点を20に伸ばした。松本も鹿島アントラーズ(2-0)、ヴァンフォーレ甲府(1-0)と連勝して15位をキープしているが、残留するには残り13試合で少なくとも15程度の勝ち点は必要になるだろう。
新潟を率いるのは、厳しい指導で知られる柳下正明監督(55歳)。現在のJリーグで最高のボランチと言われるブラジル人MFレオ・シルバ、元ブラジル代表左サイドバック・コルテースなど強力なメンバーをそろえ、「第1ステージ」から「こんな順位にいるチームではない」と言われていた。下位にいるクラブのなかで今後どんどん勝ち点を伸ばしていけそうなチームをひとつ挙げろと言われたら、私ならずともこの新潟を推すだろう。
山形を率いるのは、常に筋金入りのチームをつくる石崎信弘監督(57歳)。「第2ステージ」では横浜FM、浦和レッズ、名古屋グランパスという上位と3連続引き分けという粘りを見せてきたが、まだ勝利がないのが苦しい。
1分け3敗で、「第2ステージ」の成績が最下位の仙台(通算13位)、「第1ステージ」途中の監督交代で12位まで浮上したものの「第2ステージ」では少し勢いが落ちている甲府(通算14位、ともに勝ち点24)も、「残留争い」を意識しなければならない。昨年4月から仙台を率いている渡邉晋監督(41歳)、ことし5月に監督に就任してステージの残り6試合を4勝2分けの無敗で乗り切り、最下位から一気に12位に引き上げた佐久間悟監督(52歳)も、まだまだ気を抜くことができないだろう。
Jリーグは世界でもまれに見る競争の激しいリーグと言われる。ほんの小さなことで連敗の泥沼に落ちることもあるし、上位と下位のチームで思いがけない結果になることも珍しくない。毎年繰り返される「残留争い」だが、今季も「危険水域」が具体的に見え始め、その苦しさに耐えながら1試合1試合を戦う季節が訪れようとしている。
〈文:大住良之(サッカージャーナリスト)、写真:Jリーグ公式サイトより〉