【週刊Jリーグ通信】 第2ステージ第2、3節「『無敗ストップ』は『無敵』へのスタート」(大住良之)
今季のJリーグで「第1ステージ」から19試合負けていなかった(13勝6分け)浦和レッズがついに負けた。
7月19日(日)に行われた「第2ステージ」第3節。「ステージ首位」のサンフレッチェ広島をホームの埼玉スタジアムに迎えた浦和は、前半にMF関根貴大のゴールで先制したものの、後半22分に広島FW浅野拓磨に同点ゴールを許すと、39分には広島MF青山敏弘に逆転ゴールを許し、1-2で敗れた。
この日、関東地方では梅雨明けが発表され、朝から快晴でさいたま市でも34度を超えた。夕方になっても気温が下がらず、風もなく、19時のキックオフ時にも私の手元の温度計は31.0度を示していた(湿度は63%)。公式記録に記載された情報は気温29.1度、湿度80%。キックオフの直前に大量の水を撒いたため、ピッチ上の気温は少し下がったが、湿度が大きく上がったという状態である。
しかもJ1は7月11日(土)に「第2ステージ」の第1節、15日(水)に第2節が行われ、この日の第3節まで3連戦。浦和は第1節を松本で、そして第2節を山形でと、ともにアウェーで戦い、ようやく「第2ステージ」ホーム初戦を迎えたということになる。
非常に過酷なコンディションながら、私には浦和がハイレベルのサッカーを見せて広島を圧倒するに違いないと予想していた。
広島は第2ステージにはいってアウェーでベガルタ仙台に4-3、ホームで松本山雅FCに6-0とただ1チーム連勝し、2試合で10得点と絶好調であることを示していた。対する浦和はともにアウェーで松本に2-1、モンテディオ山形に0-0と1勝1分け。松本戦は後半攻め込まれ、山形戦は「今季最悪の内容」(MF柏木陽介)というもので、DF那須大亮が退場になり、「負けなかったのはラッキー」という試合だったのだ。
守備の中心である那須だけでなく、松本戦で軽い故障をしたMF梅崎司も欠くなか、どうして私は浦和が「ハイレベルのサッカーができる」と考えたのか。
それは、常に前の試合の反省点を次に生かす今季の浦和のメンタリティーを知っているからだ。
松本戦後と同様、山形戦(ともに19時キックオフ)でも、浦和はその夜のうちにバスで地元まで帰り、翌日の午前中から練習をしている。深夜に山形から戻った翌日の7月12日から、浦和の選手たちは目の色を変えてトレーニングに取り組んだに違いない。
だからいくつもの悪条件があっても、浦和がハイレベルのサッカーをするのは間違いないと判断したのだ。
試合が始まってみると、その予想さえ甘かったことを知った。浦和は圧倒的なサッカーで広島を防戦一方に追い込んだのだ。
この試合では、DFの中央に永田充(今季初先発)が、そして梅崎に代わる「シャドーストライカー」にはMF高木俊幸がはいったのだが、その影響はまったく感じられなかった。
DFラインで何本かつないだ後、両サイドDFの槙野智章、森脇良太、あるいはボランチの阿部勇樹、柏木陽介から突然縦パスが出る。そのパスがFW興梠慎三やMF武藤雄樹にはいった瞬間、攻撃が加速する。短いパスが戻され、次の瞬間には思いもしないところに鋭いパスが出てシュートの形ができる。そして前半35分に相手ゴール前でボールを回して最後はMF関根貴大が決め、先制ゴールを奪った。
「私は2006年から日本で指導して10年になるが、これほどアグレッシブにプレッシングをかけ、連動した攻撃が見られる試合はそうなかった。素晴らしい内容の試合だった」
2012年から浦和を率いるミハイロ・ペトロヴィッチもこう手放しでほめた。浦和のサッカーは、「第1ステージ」時よりさらに進化したように感じた。
苦戦をしたり、「悪い試合」をしてしまっても、それがダメージになったり悪いサイクルになるのではなく、必ず良い方向に変える。それが今季の浦和なのだが、それはこの試合でも見事に発揮されていたのだ。
「ただし65分間」。ペトロヴィッチ監督はそうも語った。
後半22分に相手陣でのパスミスからカウンターを許して同点とされ、勝ち越そうとさらに前がかりになったところをまたカウンターを食らって逆転されてしまったからだ。
「それまでに4点か5点取っておくべき試合だった。そうしていれば、カウンターで1点を取られても、余裕をもって4-1、5-1で勝つことができただろう」
前半25分に浦和はPKのチャンスを得た。柏木の縦パスを受けた高木がペナルティーエリアで相手を1人かわした後、2人目のDFに蹴り倒されたのだ。
浦和の本来のPKキッカーはMF阿部かFW興梠。しかしこのときには高木が自らボールを拾ってペナルティースポットにセットした。そして相手GKに止められた。
今季清水から浦和に移籍した高木は、高い期待を受けながらなかなか良い結果を残せず、まだノーゴール。「無名」から一躍「エース」となった武藤とは好対照だった。
本人だけでなく、周囲の選手もそれを気にしていた。だから「高木に初ゴールを取らせよう」と、誰も異を唱えなかったのだ。
その気持ちは理解できないでもないが、攻め続けていたとはいえ、この時点でスコアは0-0。本来のキッカーがけって確実に1点を先制するべき場面だった。私は、高木にも、周囲の選手にも、そしてそれを許したペトロヴィッチ監督にも「甘さ」があったと思う。
こうして、今季はじめから続いていた無敗記録がストップし、ついに今季初黒星を喫した浦和。しかしそれはまた浦和を進化させるプロセスをつくってしまったことを、読者も理解できるだろう。
第4節の相手は名古屋グランパス。ホームの瑞穂に浦和を迎えるのだが、出場停止で闘将・闘莉王を欠く名古屋にとっては悪夢の試合となるかもしれない。
「第2ステージ」は広島が3連勝(勝ち点9)で首位を守り、浦和は勝ち点4で第9位に後退した。しかしこの敗戦で浦和の攻撃がさらに威力を増し、守備面でもカウンターへの備えが良くなり、甘さが払拭されて、手のつけられない強さになるのではないかと、私は思っている。
〈文:大住良之(サッカージャーナリスト)、写真:勝ったサンフレッチェイレブン(Jリーグ公式サイトより)〉