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トルコ反政府デモが東京五輪招致のプラスになるのか!?(玉木 正之)

東京五輪招致の「ビッグ・チャンス」を生かす外交力が、日本にはあるか?!

2020年のオリンピック・パラリンピック開催都市の招致レースが、いよいよ佳境に入ってきた。

今月15日には、IOC(国際オリンピック委員会)の本部があるスイス・ローザンヌで、各NOC(国内オリンピック委員会)の連合総会が開かれ、最終選考に残っている3都市(東京、イスタンブール、マドリッド)がプレゼンテーションを行う。

そして25日には、IOCの開催立候補都市評価委員会によるレポートが公表される。

最終的には9月7日にアルゼンチンのブエノスアイレスで行われるIOC総会で、最後のプレゼンテーションが行われ、約100名のIOC委員による投票によって決定するが、各開催都市を視察した評価委員会によるレポートが、かなり重要な意味を持つ。

前回、2016年の開催都市が、シカゴ、東京、マドリッドを退けてリオデジャネイロに決定したときも、この評価委員会のレポートが決定的な役割を果たしたと言われており、東京が五輪開催のための施設や計画が“good”の評価しか受けられなかったのに対して、リオは、まだ施設の建設がまったく開始されていないにもかかわらず“very good”と評価され、その評価が、IOC(中枢)の“意向”を表したモノと言われた。

従って、25日に、どのようなレポートが発表されるか、きわめて興味深く注目されるところだが、ここへ来て、イスタンブールを初めとするトルコの諸都市での反政府デモがエスカレートしたのは、開催都市を決定するうえで、かなり大きな要因になりそうだ。

開催は7年後……とはいえ、来年のロシア・ソチでの冬季オリンピックや、前述のリオデジャネイロの準備状況が悪く、施設の建設等が予定よりもかなり遅れていることに、IOCは相当の苛立ちを感じているらしく、そこへ今回の反政府暴動……となると、「本命」とされてきたイスタンブールへの支持は、かなり揺らいできたといえる。

日本のテレビ・ニュースでも「オリンピックには賛成だが、とても開催できるような状態ではない」というイスタンブール市民の声も紹介された。

最初は、イスタンブールの公園地再開発に反対する小さなデモから始まった反政府デモだったが、エルドアン首相がデモ弾圧に強硬姿勢を取ったことから市民が反発。

もともと政教分離が国是のトルコにあって、エルドアン首相はイスラム原理主義的思想の持ち主らしく、イスタンブールの市長時代には、市長の執務中にイスラム教賛美の詩を朗読したり、アルコール類の販売制限に乗り出すなど、西欧的生活を謳歌している市民からは煙たがられる一面もあった(宗教とレイシズムを煽動した罪で、実刑判決を受けたこともある)。

イスタンブール市長時代には、何度か五輪招致にも尽力したことがあるだけに、今回の五輪招致でも、首相として力を発揮するはずだったが、それ以前に10年間続いたイスラム教寄りの政策に国民が「NO」を突きつけたわけで、はたしてIOC委員は、ポスト・エルドアン政権に安定した政権が生まれるか否か、そして支障なく五輪開催が出来るかどうか……きわめて困難な「未来予測」をしなければならなくなった。

そこで、マドリッドか東京の2都市に絞られた……との声もあるらしいが、マドリッドは、スペインの財政危機で最初から論外と言われた都市。今回開催が争われている2020年の次の2024年は、パリでの開催がほぼ決定的と言われている。

パリは、前回の2度目の五輪開催から100周年に当たるうえ、前回ロンドンとの決選投票に敗れたのは、当時のシラク政権がアメリカのイラク戦争に反対したため、アメリカ政府の息のかかった委員が、ロンドンに投票した結果と言われ、IOC委員のなかには、今も同情する声が残っている(おまけにパリは、北京五輪のとき、第2の天安門事件等の勃発による開催中止を恐れたIOCの要請に応えて、代替地候補として準備し、立候補したという経緯もあるのだ)。

ならば、スペインの財政事情に加えて、マドリッド−パリという近すぎる距離も大きなマイナス要因といえ、IOCの理事でもあり、世界近代五種連合の会長でもある前IOC会長サマランチ氏の息子は、マドリッドの五輪招致を諦めるのと引き替えに、近代五種競技を残すことで、IOC理事と取引した……との噂まである。ならば、残る都市は、東京しかなくなる……。

柔道連盟の暴力事件や不祥事、都知事の舌禍事件もあったうえ、ハンマー投げの室伏のIOC選手委員当選失格(選挙違反)のスポーツ仲裁裁判所での確定や、そもそも2度目の五輪の開催の意義が弱い、との声もあり、東京も国内外ともけっして支持する声が高いとは言えない。

今回の五輪招致レースは、何やら「敵失マイナス競争」の様相を呈してきた。が、そんななか、JOC(日本オリンピック委員会)は、サマランチ前会長やIOC委員との太いパイプを持ち、かつて長野五輪招致を実現した堤義明元JOC会長・元西武鉄道グループ会長を、JOC最高顧問に迎えた。

長野五輪を招致したときは、全国のプリンス・ホテルがサマランチ会長(当時)のワイナリーが作るワインを仕入れるなど、サマランチ氏との強いつながりで、施設や環境で優っていた(と誰もが思った)ソルトレイク・シティを破った堤氏だが、はたして今回はどのような力を発揮するのか……?

中国・韓国との外交関係が冷え込む中、両国IOC委員の合計5票は期待できないだろうが、それでも東京は五輪招致の「敵失マイナスの競争」で、かなり有利な位置に立った、と言えるだろう。

小生のようなスポーツライターは、五輪招致に成功したあとのスポーツ庁設置と、その後の日本のスポーツのあり方を(たとえ五輪招致がならなかったとしても、日本のスポーツと社会を豊かなものにするために)考え始めたいところだが、この国際状況のなかで、もしも東京が2020年の五輪開催都市に選ばれなかったなら、見直さなければならないのは……日本の外交力と言えそうだ。

[caption id="attachment_9302" align="alignnone" width="620"] トルコ・イスタンブールの街[/caption]

photo by Mimar77

source from https://commons.wikimedia.org/wiki/File:LeventView.jpg?uselang=japhoto by Mimar77