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パラスポ・ピックアップ・トピック (5) 「運営体制、選手層の拡充・・・。日本パラサイクリングの挑戦に注目!」 (星野恭子)

 障害のある選手を対象にした自転車競技のロードレースとしては国内最高峰の大会、「2015日本パラサイクリング選手権・ロード大会」が6月21日(日)、栃木県大田原市で開催され、全16選手(視覚障害選手のパイロット2名を含む)が個人タイムトライアル競技(個人TT)に出走、障害の内容別に5クラスが行われ、5人の日本チャンピオンが誕生しました。

 レースの結果詳細は6月29日号でレポートしていますのでご参照いただけたらと思いますが、今大会にはいくつか興味深い特徴がありました。ひとつは運営体制です。実はこの大会は2013年から、日本自転車競技連盟(JCF)が主催する、健常者の全日本選手権タイムトライアルと同時開催されています。主催者も、日本パラサイクリング連盟(JPCF)からJCFへと変わっています。

 


  「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(88) 6.18~6.29

 

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【写真:各クラス優勝者。右から、藤田征樹選手、花岡伸和選手、藤井美穂選手、小川睦彦選手、大城竜之選手、井上善裕パイロット=撮影:星野恭子 】

 

これは世界の自転車競技界の流れに従った対応だといいます。ほとんどの競技は国際的な競技団体として、一般とパラ部門をそれぞれ別々の競技団体が組織され、活動していますが、自転車競技は国際自転車連盟(UCI)がマウンテン、BMXなどと並び、パラサイクリングも1カテゴリーとして傘下におき、一括管理しています。そのため、国内大会でもパラサイクリングを同時開催する加盟国が増えているそうで、日本も続いたというわけです。

 

自転車競技は障害の内容に応じて使用する競技機材が異なるだけで、ルールは一般とほぼ同じです。特別な設備などもほとんど必要ありません。以前、トラックレースも取材しましたが、一般とパラ部門のレースが交互に行われても運営はスムーズでした。

 

パラスポ・ピックアップ・トピック(1)「パラサイクリング日本選手権にみた、オリ・パラ同時開催の可能性」

 

パラサイクリングにとっては、一般大会と同時開催されることでより多くの観客に競技を見て知ってもらうことができます。認知度アップは競技の普及や強化にもつながり、スポンサー獲得の可能性も広がるでしょう。

選手へのプラスも大きいです。たとえば、JCF主催となり今大会から初めて、「全日本王者」の記しである、日の丸付きの「ナショナル・チャンピオンジャージ」がパラ部門の優勝者にも贈られることになりました。自転車競技クラスCを大会3連覇で制した藤田征樹選手をはじめ、選手たちからは、「励みに思う」「もっと頑張りたい」といった喜びの声が聞かれました。真新しいジャージに袖を通した選手たちは、トップ選手としての誇りと自覚を新たにし、競技への意欲をさらに高めたようでした。
 
 もう一つの特徴は、出場選手の顔ぶれが多彩だったことです。ベテランにまじり、初出場者も多く、しかも他競技の経験者も少なくなかったことです。選手層拡充はパラ競技全体の課題ですが、一つの可能性を感じました。
 
 例えば、ハンドバイククラスHで優勝した花岡伸和は車いす陸上競技のパラリンピアンです。ロンドン大会以降、陸上では第一線を離れ、以前からクロストレーニングとして取り組んでいた自転車競技に力を入れています。今大会ではハンドバイク第一人者の奥村直彦選手を抑え、優勝しました。

 

「JCF主催の日本選手権と一緒にやらせてもらえることで、レベルの高い選手たちと肩を並べてレースができるので刺激になります。それに、(日本一になって)チャンピオンジャージをいただけて感無量です。陸上では(パラリンピック入賞など)それなりの位置までいったので、今度は自転車で、もう少し上を目指したい」と意気込みを語りました。

また、自転車競技クラスCに出場した小池岳太選手はアルペンスキーのパラリンピアン。ソチ冬季パラリンピック終了後から本格的に自転車競技にも力を入れ、冬季と夏季の両パラリンパック代表を目指します。「まだまだ力も経験も不足していますが、トップレベルの中で試合をできる機会をいただけて、ありがたい。頑張ります」と話していました。

 

切磋琢磨できる相手が近くにいることは、競技力向上にも大きな力となります。女子自転車競技クラスCで優勝した藤井美穂選手も陸上競技出身です。これまで国内には彼女と同じクラスの選手はいなかったのですが、試合に出てもハンディ(係数制)をもらって男子と戦うといった状況でした。それが、今大会はもうひとり、陸上から自転車への挑戦を始めた兎澤朋美選手が出場し、「対戦の結果の勝利」でした。

 「いつもは他に選手がいないから1位。でも今日は『勝って1位』。しかも(チャンピオン)ジャージまでもらえて、とても嬉しいです。スタートしてわりとすぐに、(1分前にスタートした)兎澤選手が見えて、『この距離ならいける』と思って頑張って漕いだら、抜けました。二人とも陸上をやっていて仲もいい。いいライバルとして競えるのは楽しいです(兎澤選手に)抜かれないように、もっと練習します」

 

一方の兎澤選手は、自転車競技としては2回目の大会出場でした。現在は、高校2年生で学業も忙しく、陸上も自転車も練習がままならない状況のようですが、「陸上も自転車も、もう少し練習をやりこんでから、(どちらに専念するか)決められたらいいかなと思っています」

 

陸上では100m走と走り幅跳びを専門とする兎澤選手ですが、自転車の魅力をこう話します。「自転車は陸上よりも(走行)距離が長いので、ゴールしたあとの達成感が大きいところが楽しいです。でも、今はまだ登りに弱く、スピードが落ちてしまいますが、自分の強みは負けず嫌いなところ。 気持ちの面では負けないようにしたいです。藤井さんはいい目標となる先輩です。追いかけて、最終的には抜かせるように頑張りたいです」

 

また、「今まで(出場は)僕一台だけでしたが、他の競う選手がいるとやる気も出ますし、楽しいです。気合が入るし、負けられないという気持ちにもなる。お互いに刺激しあえていいなと思います」とレース後に話してくれたのは、3大会連続パラリンピアンで、この日、男子視覚障害Bクラスを制した大城竜之選手です。実は、アテネパラリンピックの全盲クラスのマラソンで金メダルを獲得した高橋勇市選手が自転車競技にも挑戦、この日初めてのレースに臨んだことで、「対戦」が実現したのです。

 

今年2月、文部科学省は日本サイクルスポーツセンター(静岡県伊豆市)をパラサイクリングのナショナルトレーニングセンター強化拠点施設として指定しましたが、日本パラサイクリング連盟も事務局を同センター近くに移し、バックアップ体制も整えています。

 

このように、見どころ多い日本パラサイクリング陣。今後の活躍にも注目していきたいと思います。

 

(文・写真:星野恭子)