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荒井太郎のどすこい土俵批評(19)名古屋場所展望/新大関照ノ富士の連覇なるか。賜盃奪回に燃える白鵬

「大関なので横綱と優勝争いをしなければならない。それを目指して頑張ります」。

 

 平成生まれ初の新大関が番付発表会見で堂々の“優勝宣言”だ。先場所は初優勝を果たし吉葉山以来64年ぶり、年6場所となった昭和33年以降では史上初の三役在位わずか2場所という快挙で大関を射止めた照ノ富士が、勢いもそのままに7月場所でも連覇を狙う。相撲解説者の元横綱北の富士さんは「今の角界で白鵬の次に強いのは照ノ富士」と断言するが、白鵬の独壇場だった優勝戦線も今後は様相が変わってきそうだ。

 

“規格外”のパワーと豪快さばかりが注目されがちな新大関だが、体が大きいわりには器用な面があり、安易な右差しや上突っ張りでくる相手に対しては、カイナを手繰って素早く左上手を取りにいくなど、随所でうまさも発揮。基本は右四つだが左四つでも遜色なく取れ、差したカイナの返しも強烈で上手の引きつけとの“合わせ技”は、相手がロックされる形となり何もできない。さらに上手の引きつけは相手の差し手のヒジも同時に極める形となり、上手を取る位置も計算しているかのようだ。

 

先場所の三賞選考委員会では落選したものの、審判部が技能賞候補に推したのも頷ける。下手投げや掬い投げの連発で相手の上手廻しを切るなど、不利な体勢から徐々に自分十分の形に持っていく技術はもっと評価されてもよかった。

 

さらにここ一番では闘志を前面に出し、気迫でも相手を圧倒。気持ちの強さも大きな武器だ。「両差しになられても慌てずに力を発揮する。普通は土俵際までいけば気持ちが変わるものだけど、それがない」と師匠の伊勢ケ濱親方(元横綱旭富士)も、窮地でも動じないまな弟子の強心臓を褒める。

 

稽古熱心でも定評があるがこれまでの疲れが噴出したか、6月の部屋合宿では蜂窩織炎で稽古を数日休んだ。本人は「大したことない」と言うが、6月20日の石川県小松市の巡業でも申し合いを回避した。横綱や大関の昇進場所前はイベントや公式行事に忙殺され、ただでさえ稽古不足に陥りがち。今場所は平成18年夏場所の白鵬以来、史上9人目の新大関優勝に挑むが、連覇に向けて体調管理が最大のポイントと言えそうだ。

 

 先場所は初日に逸ノ城に苦杯を舐め、3年ぶりの黒星発進となった横綱白鵬。振り返ればこの敗戦が結果的に、大混戦の場所を演出する形となった。終盤の豪栄道戦、稀勢の里戦は攻め込んでおきながら土俵際でバッタリと這って星を落とした。いずれも十分に組み止めることなく強引な攻めで墓穴を掘ってしまったが、以前なら万全な詰めで勝ちを拾っていたはずであり、少なくとも体力の衰えによる負けではないことは確かだ。

 

この辺りがモチベーションの問題なのであろうか。優勝回数で単独1位となった直後の春場所は、他の上位陣の自滅によって34度目の賜盃が転がり込んで来たようなもの。照ノ富士という新たな優勝候補が現れた今、どこまで気持ちを奮い立たせることができるか。「全勝で優勝したい」と名古屋入りして絶好調を宣言するが、白鵬の「心」の状態によっては優勝争いも混とんとするかもしれない。

 

そうなれば、大関稀勢の里にもチャンスの芽がありそうだ。先場所は優勝した照ノ富士に次ぐ11勝で白鵬、日馬富士の両横綱に並ぶ成績。結果は大関としては及第点だが、負けた4敗を振り返ると何とももったいない。取りこぼしを極力減らし、悲願の初優勝を達成するためには、最低でも白鵬戦は星の差1つ以内で迎えたいところ。

 

他の上位陣はケガの影響をどこまで払拭できるかだ。右ヒジ痛に悩まされてきた横綱日馬富士は5月場所直後に患部を手術し、不安感はだいぶ軽減されただろうが、すぐに結果が残せるかどうかは別問題。2場所連続全休の横綱鶴竜は患部の左肩は順調に回復しているようだが、あとはいかに相撲勘を取り戻せるか。5月末の第一子誕生は、大きな発奮材料となっているはず。まずは序盤を無難な形で乗り切りたい。豪栄道はもともと痛めていた右肩に加え、先場所は左肩を剥離骨折し途中休場。不振が続く琴奨菊とともに、この両大関は薄氷を踏む戦いを強いられそうだ。

 

関脇以下では新小結の宝富士と西前頭筆頭の佐田の海に注目したい。左四つの型を持つ宝富士は、最近は右おっつけから浅い上手を取るなど力強さが増してきた。自分の形があるだけに取りこぼしが少ないのが強み。先場所は照ノ富士を破り、日馬富士からは初金星も奪って殊勲賞候補にも挙がった佐田の海の心境が著しい。得意の両差し速攻にも磨きがかかり、父子三役を狙う今場所は楽しみだ。

 

 今年に入り3場所連続で15日間満員御礼と相撲人気は上々。果たして、7月場所もこれに続くことができるか。尾張名古屋の蒸し暑さにも劣らない熱戦を期待したい。

 

〈文:荒井太郎、写真:日本相撲協会ツイッターより〉