「星野恭子のパラスポーツ・ピックアップ」(87) 6.10~6.18
国内外のパラリンピック競技の話題を独自にセレクトした「パラスポーツ・ピックアップ」シリーズ。今号は、突然飛び込んできた、車いすテニス国別対抗戦の東京開催決定というビッグニュースや柔道界での画期的な動きから、パラサイクリング藤田征樹選手のワールドカップ銀メダル獲得など、盛りだくさんの内容になっています。パラスポーツを取り巻く環境の、速度的な変化を感じます。
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■車いすテニス
・18日: 日本テニス協会(JTA)は都内で会見を開き、来年5月に車いすテニスの国別対抗戦、「ワールドチームカップ」を有明コロシアムおよび有明テニスの森公園テニスコート(東京都江東区)で開催すると発表した。大会は国際テニス連盟(ITF)が主催し、男子女子など5部門で計52チーム約250名の選手団が参加する大規模な大会で、1985年の創設以来、日本での開催は初めてとなる。東京で車いすテニスの国際大会が開かれるのも初めてなら、JTAが車いすテニス大会を主催するのも初という、「初めて尽くし」の大会だ。
【写真: 発表会見に出席した、上地結衣選手と国枝慎吾選手=2015年6月18日/岸記念体育館(東京渋谷区)】
20年東京オリンピック・パラリンピックを控え、「初めて」に挑むJTAの畔柳信雄会長は、「難しい面もあるだろうが、20年に向けて早い段階で(国際大会開催を)経験できてよかったと思う。ブレイクスルーの機会ととらえ、会場(のバリアフリー化)などの困難にも取り組んでいきたい」と前向きに語った。
今大会の有明会場は20年東京大会の舞台でもあり、今大会で施設設備での問題点が浮き彫りになれば、今後予定されている改修工事への参考になり、また運営体制にとってもいいシミュレーションとなることが期待される。
日本パラリンピック委員会(JPC)の鳥原光憲会長は、伝統ある大会の東京での開催実現は日本選手の世界的な活躍のおかげと話したうえで、「20年大会成功に向けて、今大会はパラリンピックのファンを増やす絶好の機会。大会成功に向け、JPCも最大限の努力をしたい」と期待を寄せた。
大会における日本の戦績は男子が2003年、07年の2回優勝しているが、女子は準優勝が過去最高位。連覇を重ねるオランダが最大のライバルだ。現世界ランク2位の上地結衣(エイベックス)は、「1年に1度、(日本代表という)チームとして戦えるところがこの大会の魅力。来年の東京ではオランダという厚い壁を破り、長年の夢である優勝を目指してチーム一丸となって戦いたい」と意気込んだ。
男子世界王者の国枝慎吾(ユニクロ)は、「今大会では、車いすテニスの人気を『車いすテニスは、こんなに激しいんだ』といったことを見てもらいたい。車いすテニスの人気を拡大し、パラリンピックへの興味を高め、20年につなげていきたい」と意欲を見せた。
車いすテニスは国枝や上地の活躍もあり、人気を高めている。この「ワールドチームカップ」はサッカーのワールドカップのような国別対抗戦という楽しみやすい大会でもあり、入場も無料。20年東京大会に向けたパラスポーツ生観戦のシミュレーションとしても絶好の機会になるはずだ。
<車いすテニス世界国別選手権 ワールドチームカップ>
・日程: 2016年5月23日(月)~28日(土)
・会場: 有明コロシアム及び有明テニスの森公園テニスコート(入場無料)
・出場チーム数: 全52チーム 約250名 5部門(男子1部、2部、女子、クアード(⇒註)、ジュニア)
・大会方式: 1チームあたり選手2~4名、監督1名
⇒クアード: まひなどの機能障害が3肢以上にみられる重度障害の人のクラス。オーバーハンドサービスができない、手動車いすの操作に支障がある、ラケットを握るのに支障があるためテープでの固定や補助具を使う必要があるなど障害の内容や程度には個人差が大きい。男女の区別はなく1クラスとして実施される。
■視覚障害者柔道
・10日: 全日本柔道連盟(全柔連)の理事会が開かれ、日本視覚障害者柔道連盟を全柔連の加盟団体として承認した。今後、指導者の交流や合同合宿の開催などで連携を強め、2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けての強化にもつなげていくという。
こうした障害者スポーツ団体と一般スポーツ団体の連携は、2020年東京大会の開催決定以降、少しずつ広がっている。例えば、日本サッカー協会が国内の障害者サッカー7団体の統括組織創設を呼び掛けたり、日本陸上連盟主催の国際大会にパラリンピック種目を組み込んで実施したりなど、連携の取り組みを始める団体も増えている。
なお、視覚障害者柔道は視力によるクラス分けはなく、健常者と同じ体重別で行われる。競技ルールも両選手が組んだ状態から主審の「はじめ」の声で試合開始となる以外は、一般の柔道とほぼ変わらない。また、選手の多くは地域の柔道場や学校の柔道部などに所属し、健常の選手混じって練習している。
■サイクリング
・14日~16日: 「2015UCIパラサイクリング・ロード・ワールドカップ」がスイスのイヴェルドン・レ・バンで開催され、初日に行われたタイムトライアルで、28.3km(14.15km×2周回)で競われた男子C3クラス(⇒註)で、藤田征樹(日立建機)が銀メダルを獲得した。
日本パラサイクリング連盟によれば、小雨の降るなかスタートした藤田は、1周目をトップタイムで通過し、2周目もペースを維持し、38分00秒00(平均時速44.7キロ)でゴールした。金メダルは2周目に大きくペースを上げ、37分21秒23をマークした、アイルランドンのE.クリフォード。
⇒競技クラス: パラサイクリングのクラス分けは障害の内容に応じた使用機材の種類によって4クラスに大別され、さらに各クラスの中で障害が重いほうから1、2、・・・と細分される。C3は「自転車競技クラス1~5の中の3」という意味で、上下肢の麻痺や切断などの障害の選手が含まれる。クラスは他に、身体の機能障害などの「ハンドバイク(H1~5)」「トライサイクル(T1~2)」クラスと視覚障害の「タンデム(B)」がある。詳細は日本自転車競技連盟の公式サイトまで。
↑リンクをお願いします。
http://jcf.or.jp/wp2012/wp-content/uploads/downloads/2014/03/16_Para-Cycling_140201.pdf
■バスケットボール
・13日~14日: 地区予選を勝ち抜いた12チームが参加して、日本車椅子ツインバスケットボール選手権大会が愛知県小牧市で開催され、14日の決勝戦で東京代表のHorsetail(ホーステール)がキャロッツ(兵庫)を67-44で下し、史上初の3連覇を達成した。
車椅子ツインバスケットボールは下肢の障害だけでなく、上肢にも障害をもつ重度障害者も参加できるよう考案された日本生まれのパラスポーツで、最大の特徴は、その名の通り高さの異なる二つのゴールが二組あること。いわゆる車椅子バスケットボールで使われる高さ3.05mのバスケットの他に、高さ1.20mの低いゴールを設置し、その周囲に3.6mの円(フリースローサークル)がある。選手は各自の障害の程度によって円外、または円内からとシュートできる範囲が区別されているため、選手それぞれが自分の役割を担っている点も特徴だ。ヘアバンドの有無や色で、各選手のシュート範囲が分かるようになっている。
見どころは、各選手の障害の状態を熟知したうえで的確に繰り広げられるパスワーク。日頃の練習にねざしたチームワークと声かけが欠かせない。またバックボードのない低いバスケットを使う、重度障害選手のローグシュート力などもポイントだ。今大会でMVPに輝いた羽賀理之(Horsetail)をはじめ、ウィルチェア(車いす)ラグビーと掛け持ちする選手も少なくない。パラリンピック競技ではないが、地域での障害者のスポーツ参加を促す競技としても広まりを見せており、この大会も今年で28回を数える歴史ある大会だ。
■脳性麻痺7人制サッカー(CPサッカー)
・16日: リオデジャネイロ・パラリンピックの最終予選を兼ねた、「2015脳性麻痺7人制サッカー世界選手権がイギリスで開幕した。イランが開幕直前で出場を辞退したため、15カ国が参加し、4グループに分かれ、予選リーグが始まった。パラリンピック初出場を目指す日本は予選Aグループの初戦、イギリス0-14と敗れた。次戦は18日のウクライナ戦。大会は28日にまで。
大会公式サイト (ライブ中継もあり)
(文・写真: 星野恭子)