オリンポスの果実
著者:田中英光
出版社:新潮社
価格:¥194
戦前のロサンゼルス・オリンピックに出場したボートの選手(男=著者自身)と陸上選手(女)の恋愛を描いた青春小説。スポーツ小説の古典といわれ、たしかに戦前のスポーツの様子やスポーツ選手の心情が活写されている。が、スポーツという行為そのものに対する考察(記述)は意外と甘い。それは次の一文に表れている。
〈ボオトを漕ぐ苦しさについて、ぼくは、敢て書こうとは思いません。漕いだものには書かなくても判り、漕がないものには書いても判らぬだろうと思われるからです〉
オリンピックのボート選手だった著者ならではの記述ともいえるが、経験主義を奉じるスポーツマンの限界ともいえる。その部分をあえて書いてこそ、スポーツライターであり(もちろん作家であり)、スポーツ小説といえるはずだ。