パラスポ・ピックアップ・トピック (4)「パラスポーツを支える、多種多様な団体の力に期待」(星野恭子)
2020年東京パラリンピックの開幕まで、あと2000日を切り、大会の認知・普及から障害者スポーツ支援に向けた動きも一層活発化しています。そんななか、パラリンピック関連の「団体」が主役となる話題が立て続けに届きました。
まずは、日本における障害者スポーツの普及・振興を図る活動の中心的役割を担ってきた団体、「日本障がい者スポーツ協会(JPSA)」が5月24日に創立50周年を迎えたニュースです。JPSAの設立は1965年ですが、きっかけは前年の64年東京パラリンピックで、スポーツを通じて障害者の自立や社会参加を促進しようという機運が高まったからです。98年に長野冬季パラリンピックが開催されると、競技スポーツとしての障害者スポーツの促進や強化も必要だということで、JPSAの内部組織として、「日本パラリンピック委員会(JPC)」が翌99年に設置されています。
JPSAの主な事業はジャパンパラ競技大会など全国規模の障害者スポーツ大会の開催や奨励、国内および海外の各種障害者スポーツ団体との連携、パラリンピックなど国際競技大会への選手の派遣や強化、障害者スポーツの指導者養成や調査研究など多岐にわたります。
26日に都内で行われた50周年記念式典には、文部科学省の下村博文大臣や2020年東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長、また、多くのパラリンピアンら約300人が来場。JPSAの鳥原光憲会長は、「50年の歴史を受け継ぐとともに、2020年の東京大会を起爆剤に、障害者スポーツを通じた共生社会への変革を着実に進めていくことがJPSAの使命」とあいさつしました。
「起爆剤に…」と鳥原会長が言ったように、パラスポーツの今の盛り上がりが20年大会でゴールを迎えるのでなく、むしろ、スタートとしてさらに発展していけるように、JPSAには更なるリーダーシップを期待されています。
障害者のスポーツ活動を支えるという意味では、5月23日に創立20周年の記念式典を開催した、市民ランニングクラブ、「アキレス・インターナショナル・ジャパン」(AIJ)の活動も見逃せません。1995年に設立された同クラブはニューヨークに本部を置く国際走友会「アキレス・インターナショナル」(AIJ)の日本支部で、さまざまな障害(視覚、聴覚、知的、肢体など)をもつメンバーが健常のメンバーとともにランニングやウォーキングを楽しむためのクラブです。
障害者とボランティアからなるメンバーは現在、約320名。車いすユーザーや歩くのがやっとという人から、パラリンピアンまで多彩です。その一人、2004年アテネ・パラリンピックのマラソン金メダリスト、高橋勇市さんが記念式典で講演し、「目が不自由なことを人に知られたくないと思った時期もあったけれど、マラソンと出会い、アキレスの仲間と出会えたから明るくなれた」と自身のマラソン人生を振り返りました。AIJが誕生した20年前は高橋さんが本格的にマラソンを始めた頃と重なりますが、当時はまだ障害者が走ることは珍しく、本人が希望しても「危ないから」と出場させてもらえない大会も多かったそうです。そんな時代から、障害者の「走りたい」気持ちを受けとめ、走る楽しみや体を動かす喜びを共有してきたAIJはパラスポーツのすそ野を広げることに大きな貢献を果たしてきたのです。
〈写真:2004年アテネ・パラリンピックで獲得した金メダルを披露する、全盲のマラソンランナー、高橋勇市さん。「多くの伴走者に支えられ、皆さんから応援してもらったおかげ。みんなで獲った金メダルです」=2015年5月23日/アキレス・インターナショナル・ジャパン20周年記念式典にて〉
一方、珍しい形の新しい団体が九州に誕生したニュースもありました。5月28日に練習拠点の福岡県飯塚市で発足式を行った車いす陸上のチーム、「チーム・ブルータグ 2ARM DRIVE(二腕駆動)」です。キャリアも専門種目もさまざまな同県在住の6選手で活動をスタートしました。
車いす陸上の3つ(フル、1万m、5000m)の日本記録保持者で、チームキャプテンを務める洞ノ上浩太選手によれば、日本の車いす陸上は指導者も少なく、練習は基本的に個々の選手に任されているのが現状。そうした競技環境を整備し、選手間で情報やノウハウを共有しながら、世界で戦える選手を輩出することがチーム設立の目的だそうです。選手自身が主体となって結成された新チームが、この先どんな風に成長にしていくのか、楽しみです。
最後は、6月2日に日本財団が設立を発表した「パラリンピックサポートセンター」です。会長にはJPCの山脇康委員長が就任し、20年東京パラリンピック後の21年末までの期間限定ながら、100億円の予算規模で障害者スポーツを支援する事業を展開するそうです。
事業の柱は競技団体の組織基盤の強化です。パラリンピックの競技団体の大半は、まだ法人化されておらず、専用の事務所もなく、スタッフも手弁当のボランティアばかりという団体も少なくありません。こうした現状を改善し、選手が競技に集中できる環境の早急な整備が課題でした。報道によれば、センターは都内にある日本財団ビル内の一角を競技団体の事務所用地として無償提供したり、経理など専門知識をもつ専任スタッフの雇用などをサポートします。山脇会長は、「人材を育てながら各団体が自立できることを目指したい」と話しています。
その他、同センターの公式サイトを見ると、障害者対応もできるボランティアリーダーの育成から、パラスポーツの国際支援、障害者の文化・芸術支援なども事業内容として視野に入っているようです。また、評議員や顧問には政治家や産業・教育界の重鎮、オリンピアン・パラリンピアンから芸能人まで多彩な人材が名を連ねています。さまざまな視点からさまざまな手腕を発揮して、パラスポーツ発展のための基盤固めに大きな力となることを願って、今後も注目していきたいと思います。
(文・写真:星野恭子)